第十五章 前線へ
一夜にして、要塞の防衛配置が一変した。
修平の指揮のもと、魔導砲の位置が変更され、新しい防御ラインが構築された。敵が知っている情報は、全て無効化された。
「——これで、いいか」
夜明け前、修平は城壁の上に立っていた。
東の空が、薄く白み始めている。
あと数時間で、敵の総攻撃が始まる。
「シュウさん」
ミラが、近づいてきた。
「休まなくていいのか」
「お前こそ」
「私は平気。若いから」
修平は、小さく笑った。
「——若いか」
「どうした」
「いや、俺も——この体は若いんだった」
ミラは、不思議そうな顔をした。
修平は、それ以上は説明しなかった。
◇
太陽が昇り始めた頃、敵軍が動き出した。
地平線を覆い尽くすような大軍。その中には、以前見た魔導兵器——魔導砲と魔導盾——に加えて、新しい兵器の姿もあった。
「——あれは何だ」
斥候が、報告を上げた。
「大型の魔導兵器です。砲ではなく——攻城兵器のようです」
「攻城兵器?」
「はい。城壁を破壊するための——」
司令官の顔が、青ざめた。
「魔導破城槌か」
「破城槌——」
修平は、その兵器を見つめた。
巨大な金属の塊。先端が尖っており、青白い光を帯びている。あれで城壁を突けば——
「一撃で、壁が崩れる可能性がある」
「どうする」
「——迎撃するしかない」
修平は、砲台に向かった。
「『雷撃』の射程は、どこまでだ」
「五百メートルです」
「破城槌を、射程内に入れるな。遠距離から、撃ち落とす」
「了解」
◇
戦闘が始まった。
修平の指示のもと、「雷撃」が火を噴いた。
敵の魔導砲を狙い撃ちにし、次々と破壊していく。
だが、敵も学習していた。
盾を前面に押し出し、砲を守りながら進軍する。修平が前回使った戦術を、今度は敵が使っていた。
「——くそ、読まれている」
「どうする」
「待て。敵が射程内に入るまで——」
修平は、敵の動きを注視した。
盾の隙間から、破城槌が見える。あれを破壊すれば——
「——今だ」
修平が叫んだ。
「破城槌を狙え! 盾の隙間から!」
砲手たちが、一斉に砲を向けた。
青白い光線が、敵陣に突き刺さる。
だが——
「——外れた」
「盾で防がれた」
敵の防御は、予想以上に堅かった。
「もう一度!」
再び発射。
だが、今度は敵の砲が反撃してきた。
轟音と共に、城壁の一部が崩れた。
「——被害報告!」
「第二区画の壁が損壊! 負傷者、十名!」
修平は、歯を食いしばった。
このままでは——
「シュウ」
アリシアが、近づいてきた。
「どうする」
「——方法を変えます」
「どうやって」
「砲だけでは、敵を止められない。だから——」
修平は、城壁の外を見た。
「俺が行きます」
「——何?」
「外に出て、直接破城槌を破壊します」
「馬鹿を言うな。外は戦場だ。お前は——」
「俺しかいません」
修平の目が、真剣だった。
「俺の【配線術】なら、敵の魔導兵器の弱点がわかる。接近して、内部から破壊できます」
「だが、危険すぎる」
「わかっています。でも——」
修平は、アリシアの目を見つめた。
「やらなければ、この要塞は落ちる。そうすれば——もっと多くの人が死ぬ」
アリシアは、しばらく黙っていた。
やがて、彼女は——
「——わかった」
「殿下」
「だが、一人では行かせない。護衛をつける」
「護衛——」
「俺が行く」
リカルドが、前に出た。
「シュウを一人で行かせるわけにはいかない」
「俺も」
マルコが、続いた。
「私も」
ミラが、手を挙げた。
「——お前たち」
修平は、仲間たちを見回した。
全員の目が、決意に満ちていた。
「——ありがとう」
修平は、深く頷いた。
「行こう」
◇
城門が開いた。
修平たちは、戦場へ飛び出した。
周囲は、混沌としていた。爆発音、叫び声、飛び交う魔法の光。
だが、修平は迷わなかった。
【配線術】のスキルで、敵の魔導兵器の魔力の流れが見える。青白い糸のように、視界に浮かび上がる。
「——あっちだ」
修平は、破城槌に向かって走った。
敵兵が襲いかかってくる。だが、リカルドとマルコが剣で応戦し、道を開けた。
「シュウ、先に行け!」
「ああ!」
修平は、走り続けた。
ミラが、隣を走る。
「私も行く」
「ミラ——」
「一人じゃ無理だ。手伝う」
修平は頷いた。
二人は、破城槌に接近した。
◇
破城槌は、予想以上に巨大だった。
高さは五メートル以上。青白い光を帯びた金属の塊が、ゆっくりと城壁に向かって進んでいる。
「——これを止めるのか」
ミラが、息を呑んだ。
「止める」
修平は、【配線術】で破城槌の内部を分析した。
魔力の流れが見える。複雑な回路。だが——
「——ここだ」
修平は、破城槌の側面を指さした。
「ここに、制御部がある。これを破壊すれば——」
「わかった」
ミラが、工具を取り出した。
二人は、破城槌の側面に取りついた。
周囲では、激しい戦闘が続いている。敵兵が、彼らを止めようと襲いかかってくる。
「——急げ!」
リカルドの声が、遠くから聞こえた。
「もたないぞ!」
修平は、必死で作業を続けた。
外板を外し、内部の配線を露出させる。
「——ここだ」
制御回路が見えた。
修平は、回路の弱点を見極めた。
「ここを切れば——」
彼は、工具を振り下ろした。
バチン!
火花が散った。
そして——
破城槌が、動きを止めた。
「——やった」
修平は、その場に座り込んだ。
「シュウさん!」
ミラが、駆け寄った。
「大丈夫か」
「ああ——大丈夫だ」
修平は、息を整えた。
周囲を見回すと、敵兵たちが動揺していた。
主力兵器を失ったことで、攻撃の勢いが鈍っている。
「——今だ」
修平は、立ち上がった。
「城壁に戻る。砲撃を再開しろ!」
◇
城壁に戻ると、「雷撃」が再び火を噴いた。
主力兵器を失った敵軍は、防御が薄くなっていた。砲撃が次々と命中し、敵の陣形が崩れていく。
やがて——
敵軍が、撤退を開始した。
歓声が、要塞中に響き渡った。
「——勝った……」
修平は、城壁の上に座り込んだ。
全身が、痛みと疲労で悲鳴を上げていた。
だが——
「——シュウ」
アリシアが、近づいてきた。
「よくやった」
「——ありがとうございます」
「お前の作戦がなければ、この要塞は落ちていた」
「俺一人の力じゃありません。みんなの——」
「わかっている。だが、全てを繋いだのは、お前だ」
アリシアは、微笑んだ。
「——お前は、本当にすごい男だ」
修平は、何も言えなかった。
ただ、静かに頷いた。
見えないところで、確実に繋ぐ。
それが、俺の仕事だ。
そして——今日も、その仕事を果たすことができた。




