表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電気工事士×異世界転生_配線勇者は黙々と繋ぐ ~電気工事士、異世界で神経系を構築する~  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/20

第十三章 試験運転

勝利の余韻は、三日と続かなかった。


 魔王軍は撤退したが、それは一時的なものに過ぎなかった。斥候からの報告によれば、敵は後方で再編成を行い、新たな兵器を準備しているという。


「次の攻撃は、一週間以内に来る」


 司令官が、作戦会議で告げた。


「今度は、規模が違う。本隊が動く」


 修平は、黙って聞いていた。


 一週間。


 その間に、防衛システムをさらに強化しなければならない。


「シュウ」


 アリシアが、修平に向き直った。


「何ができる」


「——いくつか、アイデアがあります」


 修平は、立ち上がった。


「まず、魔導砲の配置を見直します。今の配置では、死角が多すぎる」


 彼は、要塞の見取り図を広げた。


「砲を増設し、全方位からの攻撃に対応できるようにします。そのためには——」


「何が必要だ」


「追加の魔導管と、魔導石。それから、時間」


「時間はない」


「わかっています。だから——」


 修平は、深く息を吸った。


「俺と俺のチームが、全力でやります」


  ◇


 作業が始まった。


 昼夜を問わず、修平たちは砲台の増設と配管工事に取り組んだ。


 だが、問題が発生した。


「——魔導石が足りない」


 リカルドが、困った顔で報告した。


「王都からの補給が、間に合わないらしい」


「どのくらい不足してる」


「必要量の三分の一程度しかない」


 修平は、眉をひそめた。


 魔導石がなければ、砲は動かない。いくら配管を完璧に引いても、エネルギー源がなければ意味がない。


「——何か手はないか」


「一つだけ、あります」


 エリーゼが、静かに言った。


「魔導石の効率を、さらに上げることです」


「効率を?」


「はい。今の設計では、魔導石の魔力を百パーセント使い切れていません。接続部での損失や、変換時のロスがあります」


「それを改善すれば——」


「少ない魔導石でも、同じ出力を維持できます」


 修平は頷いた。


「——やろう」


  ◇


 効率改善の作業は、難航した。


 既存の設計を見直し、接続部を再加工し、魔力の流れを最適化する。一つ一つは小さな改善だが、全体として積み重ねれば、大きな効果が期待できる。


 だが、時間がない。


「——シュウ、休め」


 リカルドが、作業中の修平に声をかけた。


「もう三日、ろくに寝てないだろう」


「大丈夫だ」


「大丈夫じゃない。お前が倒れたら、チーム全体が止まる」


 修平は、手を止めた。


 確かに、リカルドの言う通りだった。体が重い。目がかすむ。判断が鈍っている。


「——わかった。少しだけ休む」


  ◇


 仮眠を取っていると、夢を見た。


 前世の夢だ。


 あの日——落雷に遭う直前の、現場の風景。


 屋上で、空を見上げていた。紫がかった雲。稲光。


 そして——


「鷹野さん」


 田中の声。


「三階東側の絶縁抵抗、やっぱり低いですね」


「ああ。再チェックしよう」


「はい」


 田中の背中が、階段を駆け下りていく。


 その姿を見送りながら、修平は思った。


 ——田中に、伝えそびれたことがある。


 絶縁抵抗の測定は、数値だけを見るな。トレンドを見ろ。


 今日の数値が基準内でも、一ヶ月後、一年後にどう変化するかを想像しろ。


 俺たちの仕事は、今日の安全だけじゃない。


 十年後の安全を作っているんだ。


 そして——


 夢の中で、修平は気づいた。


 この世界でも、同じだ。


 俺がやっている仕事は、今日の戦いのためだけじゃない。


 この世界の、十年後、百年後の安全を作っているんだ。


  ◇


 目が覚めた。


 窓の外は、まだ暗い。


 体を起こすと、隣にミラが座っていた。


「——起きたか」


「ああ。お前、ここで何を」


「見張ってた。あんたが倒れないように」


 修平は、小さく笑った。


「——ありがとう」


「礼はいらない」


 ミラは、立ち上がった。


「——なあ、シュウさん」


「何だ」


「あんた、なんでそこまで頑張るんだ」


 修平は、少し考えた。


「——わからない。でも」


「でも?」


「俺にできることは、繋ぐことだけだ。だから、繋ぐ。それだけだ」


 ミラは、しばらく修平を見つめていた。


 やがて、彼女は言った。


「——私も、繋ぐ」


「え?」


「あんたの技術を、私も受け継ぐ。そして、次の世代に繋ぐ。そういうことだろ」


 修平は、目を見開いた。


 そして——笑った。


「ああ。その通りだ」


「なら、私も頑張る。あんた一人に任せない」


「——ありがとう」


 二人は、並んで夜明けの空を見た。


 東の空が、少しずつ白んでいた。


  ◇


 試験運転の日が来た。


 効率改善を施した魔導砲——改良型「雷撃」——を、実際に発射して性能を確認する。


「準備完了。発射します」


 操作員が、砲を起動した。


 青白い光が、砲身に集まる。


 そして——


 ドォン!


 轟音と共に、光線が放たれた。


 目標——五百メートル先に設置された岩——が、粉々に砕け散った。


「——すごい」


 見守っていた兵士たちから、歓声が上がった。


「以前より、威力が上がってないか」


「連射速度も速い」


 修平は、流量計で数値を確認した。


「魔力伝送効率、九十二パーセント。目標達成です」


「素晴らしい」


 アリシアが、満足げに頷いた。


「これで、魔導石の消費量を三十パーセント削減できる」


「はい。残りの魔導石で、一週間は戦えます」


「よくやった」


  ◇


 だが、喜びも束の間だった。


 その夜、異変が起きた。


 修平が就寝しようとしていたとき、突然——要塞全体の魔導灯が、一斉に消えた。


「——何だ?」


 修平は、跳ね起きた。


 外に出ると、要塞中が混乱していた。


「魔導設備が、全部止まった!」


「何が起きた!」


 修平は、【配線術】のスキルを発動した。


 青白い糸——魔力の流れ——を追う。


 そして——


「——主幹が、切断されている」


 彼は、走り出した。


 主幹配管室へ。


 扉を開けると——


 そこには、刃物で切断された魔導管と、見知らぬ人影があった。


「——お前は」


 人影が、振り返った。


 フードを被った男。顔は見えない。


「シュウ……とかいったな」


 男の声は、低く冷たかった。


「ヴァルター様からの、伝言だ」


「ヴァルター——?」


 修平の目が、見開かれた。


 ヴァルターは、王都で逮捕されたはずだ。なぜ——


「ヴァルター様は、まだ終わっていない。お前の技術は、王国を救わない。むしろ——」


 男は、懐から何かを取り出した。


 魔導石だ。だが、色がおかしい。黒ずんでいる。


「——破滅させる」


 男が、黒い魔導石を床に叩きつけた。


 瞬間——


 轟音。


 爆発。


 修平は、吹き飛ばされた。


  ◇


 意識が戻ったとき、修平は瓦礫の中にいた。


 体のあちこちが痛む。だが、動ける。


「——くそ」


 周囲を見回す。


 主幹配管室は、半壊していた。魔導管は滅茶苦茶に破壊され、魔力が漏れ出している。


 このままでは——


「要塞全体の魔導設備が、使えなくなる」


 修平は、立ち上がった。


 体が悲鳴を上げる。だが、止まるわけにはいかない。


「——シュウ!」


 リカルドの声がした。


 彼が、煙の中から駆け寄ってきた。


「無事か!」


「ああ。だが——」


「状況は聞いた。工作員だ」


「ヴァルターの手下だ」


「ヴァルター——あいつ、まだ手を回していたのか」


 修平は頷いた。


「今は、そんなことを言っている場合じゃない。設備を復旧させないと——」


「だが、この状態で——」


「やるしかない」


 修平は、破壊された魔導管を見つめた。


 【配線術】で、被害状況を把握する。


 主幹は完全に破壊されている。分岐管も大部分が損傷。


 だが——


「——まだ、生きている部分がある」


「生きている?」


「ああ。被害を受けていない管がある。これを使えば——」


 修平は、即座に計画を立てた。


「破壊された部分を迂回して、新しい経路を作る。本来の設計とは違うが、応急処置として機能する」


「どのくらいかかる」


「——三時間」


「三時間?」


「その間、要塞の防衛は——」


「魔導兵器なしで戦うしかない」


  ◇


 リカルドが、司令官に報告に行った。


 修平は、チームを集めた。


「状況はわかったな。三時間で、魔導設備を復旧させる」


「三時間って——」


「不可能だ」


「可能にする」


 修平の目が、鋭くなった。


「図面はない。でも、俺には十年の経験がある。この現場を見れば、何が必要かわかる」


 彼は、チームを見回した。


「俺を信じてくれ。そして——俺の指示に従ってくれ」


 チームのメンバーたちは、顔を見合わせた。


 やがて、リカルドが口を開いた。


「——言われなくても、そのつもりだ」


「俺もだ」


「私も」


 全員が、頷いた。


「——ありがとう」


 修平は、深く息を吸った。


 そして——


「作業開始だ」


  ◇


 三時間の戦いが始まった。


 修平は、全神経を集中させた。


 破壊された経路の代わりに、新しい経路を構築する。残っている管を繋ぎ合わせ、即席の配線を作り上げる。


「ここに、バイパスを作る」


「了解」


「この接続、強度が心配だ。補強しろ」


「わかった」


 チーム全員が、修平の指示に従って動いた。迷いはなかった。彼らは、修平の技術と判断を信頼していた。


 一時間が経過。


 二時間が経過。


 そして——


「——完了」


 修平が宣言した。


 三時間ちょうど。


「テストする」


 エリーゼが、流量計を接続した。


「魔力、流れています。伝送効率——」


 彼女は、数値を確認した。


「——七十パーセント」


「本来の設計より低いが——」


「動く。これで動く」


 修平は、大きく息を吐いた。


 そして——


 要塞中の魔導灯が、一斉に点灯した。


 歓声が上がった。


「——やった」


「復旧した!」


 修平は、その場に座り込んだ。


 全身が、鉛のように重かった。


 だが——


「シュウさん」


 ミラが、近づいてきた。


「すごい。本当にすごい」


「——いや、みんなのおかげだ」


「でも、全部の指示を出したのは、あんただ」


 修平は、小さく笑った。


「これが——俺の仕事だから」


  ◇


 夜明けが近づいていた。


 東の空が、白み始めている。


 アリシアが、修平のもとに来た。


「——よくやった」


「ありがとうございます」


「だが、問題がある」


「何ですか」


「工作員が、情報を持ち出した可能性がある」


 修平の顔が、曇った。


「どんな情報ですか」


「要塞の防衛システムの詳細。魔導砲の配置。弱点」


「——つまり」


「敵は、我々の手の内を知っている」


 修平は、黙った。


 苦労して構築した防衛システムが、敵に筒抜けになっている。


 次の攻撃では、敵はその弱点を突いてくるだろう。


「どうする」


 アリシアが、問いかけた。


 修平は、しばらく考えた。


 そして——


「——配置を変えます」


「変える?」


「敵が知っているのは、今の配置です。それを変えれば、敵の情報は役に立たなくなる」


「だが、時間が——」


「やるしかありません」


 修平は、立ち上がった。


「一日で、全ての砲台の配置を変更します」


 アリシアは、修平を見つめた。


 やがて、彼女は——笑った。


「——お前は、本当にしぶとい奴だな」


「よく言われます」


「いいだろう。やれ」


 修平は頷いた。


 そして、チームのもとへ戻っていった。


 戦いは、まだ終わっていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ