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【超短編小説】樹木幽霊

掲載日:2025/12/27

 樹木幽霊、と言うのを知ってるか?

 幽霊樹木ではなく樹木幽霊だ。

 幽霊が現れる樹木ではなく、樹木そのものが幽霊なんだ。

 公園だとか神社仏閣に現れる事が多い。街路樹なんてのは、そんなに多くないだろうがあり得るかも知れない。

 とにかくあるんだよ、樹木幽霊ってのが。

 まぁ樹だから仮に見えていても気付かない、気付かれないケースが殆どだ。

 でも時折り、カンの良い人間が違和感を持つ程度に変なんだ。

 昨日まで何も生えていなかった場所に、その樹木幽霊があったりするんだよ。


 その樹木幽霊は何なのかっけ?

 幽霊樹木そのものは人間に何もしないよ、ただそこに生えているだけだ。

 木の枝も、葉も、根も、何もしない。巻きついて取り込もうとしたりする訳じゃないし、種子を植え付けて繁殖したりもしない。

 触れようが叩こうが踏もうが、その樹木幽霊は何もしないんだ。


 ただその樹木幽霊の虚に、それはある。

 それが何を意味するかは分からない。だがその樹木幽霊の虚にあるんだ。


 それは都市伝説のようなもので、根も葉もない出鱈目かも知れない。

 でも、もしかしたら本当かも知れない。

「金があるんだよ、唸るほどの大金が」

「病気が治った」

「世界の真理に到達できる」

 そんな話がある。

 あったんだよ。


 どれも本当だが嘘だ。

 願いが叶う。それは本当だよ。その虚を覗くと、日ごろ願っていたことが叶う。

 だがそれと引き換えに、大切な何かを失う。

 何を失うか、それを選ぶことはできない。

 何を失うか、それはその虚を覗いたやつ次第だ。

 四肢や内臓、視覚や嗅覚、記憶なんて事もある。

 頭髪?そうだな、あり得るかも知れない。  

 だが失うのが頭髪なら、それはそんなに大した願いじゃないだろ。

 働け、その方がマシだ。


 虚を覗いて何かを得る代わりに失うのが両親やペット、恋人、家屋や乗り物、商売道具……つまり大事にしているものだ。

 そのどれか、何かと引き換える。

 樹木幽霊はそうやって成長した。

 つまりこれまでに多くの引き換えをやってきたって事だ。


 何で知ってるかって、そりゃあそこを見たからさ。

 虚だよ、樹木幽霊の。

 何を失ったかって、全部だよ。全部だ。

 おれはすべてを手に入れた。

 代わりに元々おれがいた世界を全て失ったのさ。

 あの世界からおれと言う存在そのものが消えたんだ。

 ワハハ。

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