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第2話 怪力測定日



 今日は、早朝から曇天だった。

 灰色の雲がぶ厚く、日差しがない。そのせいか王宮は、どことなく暗い雰囲気が漂っていた。

 シャルロッテもまた、重い憂鬱感を抱いている。

 けれど原因は、天気のせいではなかった。


 王宮の空き部屋で、いつにない破壊音が鳴り響く。


「これで、26個目か?」


 インク瓶にペン先を入れ、スワードは問うた。

 すると騎士団長のアルターが「27っすよ」と答え、「いや28じゃよ」と、軍医学者ムンテーラが答える。


(いいえ皆さま。今ので33個目です……)


 割れた壺と男三人を前に、シャルロッテは赤々と茹った。


 スワードの命令で、後宮に住まう事となったシャルロッテ。

 国の兵力増強のため、シャルロッテの怪力体質を研究材料にしたいというのだ。その代わり、シャルロッテをか弱くする訓練を支援するという。


 今日は、その前段として、怪力の程度を測定しているのである。いわば、怪力測定日だ。


 測定方法は至ってシンプルである。

 あらゆる寸法や重量の物を、シャルロッテに破壊させるのだ。

 そこから怪力の強度と、軍事有用性を図る。

 同時に、か弱くなる訓練の、必要費用を算出するのだ。


 そのため、スワードのみならず、騎士団長アルターと、軍医学者ムンテーラも、測定に同席している。

 シャルロッテの怪力を目の当たりにし、彼らは開いた口が塞がらなかった。


 石像や花瓶や壺など、あらゆる調度品()()()物で部屋が溢れかえる。

 アルターが持参した、騎士団の甲冑や盾も御多分に洩れず、すべてが破壊された。


「100か」

「100っすね」

「100じゃ」


 ──凄まじきかな、怪力令嬢の大記録。

 己の怪力ぶりに愕然とし、シャルロッテは瞳を閉じた。


 男たちは、測定結果を控える。

 スワードは破壊された物の種類と被害額を。

 また、怪力発動の条件などを、羊皮紙に羽ペンで書き留める。

 アルターとムンテーラは、破損部や重量を書き留める。そして、怪力が発動してから物が壊れるまでの速度を、推測した。

 軍医学者ムンテーラは、見解を述べる。


()()()()()()()じゃな」


 ポマード固めの黒髪を光らせ、ムンテーラは得得と言う。


「リミッターとは、()()()()()()()()()()()()()()()()のことじゃ。人間の体は、常時100%の筋力でいると、壊れてしまう。だから、リミッターで筋力を制御して、体を守るのじゃ。しかし……」


「例外があるっす」


 アルターが言葉を継いだ。


「人間は、マジで死にそうな状況になるとリミッターが外れるんすよ。ほら『火事場の馬鹿力』ってやつ、聞いた事ないっすか? あれです」


 『火事場の馬鹿力』は知っている。

 例えば、倒伏した重いタンスの下敷きになったとする。普段ならタンスを持ち上げられなくても、火事で死にそうな状況なら、一人で持ち上げて逃げられる。……という現象だ。


「生命維持のために、リミッターは解除される。んで、通常の倍以上の力が出るっつーわけです。まぁ、それでも、ある程度の力で制限されるんすけどね。()()()


 そう言い終わると、アルターは後ろ頭を、わしわしと掻いた。


 ──()()()()()()は、か。

 改めて他人の口から聞くと、殺傷力のある言葉だ。

 シャルロッテの背中を冷たいものが流れた。面色が見る見るうちに失せていく。


 すると、設えられたロングソファに腰掛けるスワードが、長い脚を組み直した。そして断言する。


「そうだ、君は普通じゃない」


 シャルロッテの目の前が真っ暗になった。


 ──王太子公認の普通じゃない女。

 その名も怪力令嬢、シャルロッテ・シルト。

 絶対に欲しくなかった、不名誉のトロフィーである。

 誰かに譲ってしまいたい。


(いいえ、きっと誰も貰ってくれないでしょうね……)


 とどめを刺されたシャルロッテの眦に、涙が浮かぶ。けれど続いたスワードの言葉が、それをぴたりと止めた。


「君ほど魅力的な女性(ひと)はいない、という意味だ。男がこの世にいる限り、常に命の危機にさらされていると言っても過言ではない。そうだろう?」


「……はぇ」


 シャルロッテは頭をもたげた。


 ──魅力的? 男がいると命が危ない?

 スワードの言葉の真意を図りかね、シャルロッテは眉根を寄せる。

 返事の代わりに発した声は、間抜けに裏返った。


「シャルロッテ・シルト、ここへ来い」


 スワードは、シャルロッテを隣に座らせた。

 そして冷たい小さな手を取り、柔らかな声音で言う。


「君の筋力のリミッターは、感情の昂りで解除されてしまう。そして解除後も、力が制限されないないのだろう。おそらく、これが怪力化の原因だ」


「わたしはどうすれば……」


 ──か弱くなって恋をするために、自分はどうすれば良いのだろう?


「簡単な事だ。リミッターをみだりに解除しないようにする。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をすれば良い。君は、恋がしたいと言ったな?」


「はっ、はい! 恋が出来るようになるのなら、なんでも……!」


「では恋人になろう」


 慮外の発言を聞き、シャルロッテは固まった。

 スワードは、大真面目な顔をして言った。


「恋人になろう。わたしと」


 



 

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