マリアの告白
マリアを失った日
それから幾星霜の月日経っただろうか。
「なんだよ!アニキ。ギターなんてもうやらねーよ。捨ててくれ」
「お前、本気で言ってるのか?目を覚ませよ!」
ふだん温厚なアニキが珍しく声を荒げた。
マリアを失った日からギターはおろか大学受験すらどーでも良くなっていた。僕の心を映し出すように生活は荒んだ。ギターをやめたことで、アニキだけでなくナナミにも嫌われてしまった。ことの発端は、突然、本国へ帰ってしまったマリアからの手紙だった。
その手紙には次のように書かれていた。
親愛なるユートへ
お元気ですか?
その後、大学は無事に受かったでしょうか。
ひょっとしたらユートはすでに結婚しているかもしれませんね。(ユートはハンサムだから)
子供もいるかもしれませんね。
そんな大変かもしれない状況の中
突然、お手紙を出してしまいました。
どうか身勝手な私お許しください。
ユートからしたら
ある日突然消えた女のことなど、これっぽっちも興味ないと思います。
けれど、私にとってユートが最後の男性です。
心の底から愛していました。(いまもです)
ですので、身勝手な女の戯言と思って
未練がましい南国女のバカな告白を
最後までお読みいただけたら
この上ない幸せです。
(ここからは自分の言葉で話します)
愛するユート。
ユートは私のためにギターを手放すと言いました。私の将来を思って夢を諦めたことについて素直に嬉しかったです。それだけ私を愛していてくれたのだから。ありがとうございます。
けれども、
私はユートにウソをつきました。
私は本国の大学など出ていません。本当にただの遊び人でした。長いことウソをついてしまいすみませんでした。
そのウソのせいで、ユートが夢を諦めたのだとしたら…
私は神の審判により地獄へ突き落とされる運命でしょう。ユートにも迷惑がかかることは明らかでしたし、事実、私は本国に帰って地獄をみました。ご安心ください。神はちゃんといました。
ヒデキから頂いたお金を本国に送り続けて、愛するユートまで騙して、私は最低な女です。
その上、未練がましく手紙を書いている。
すでにユートは
私のことなど忘れていたかもしれません。
私の書く文章や言葉など
何一つ信じられなくて当然です。
それでも、最後に言わせてください。
私は貧しくて卑しい家の出身ですが、ユートに安定を求めていた訳ではありません。
夢を追いかけていたユートが大好きでした。
ユートの部屋にはじめて招かれた日
あなたは私のためにギターを弾き語ってくれましたね。私はすぐに恋に堕ちました。
あの瞬間、私は世界の誰よりも高貴で幸せな女でした。
私は…
ユートの声が好き。
ユートのギターが好き。
あなたを彩る全てが大好きでした。
ギターを諦めたユートには
魅力を感じません。
それが私の真実です。
いつの日か
ユートが大学を卒業したら
またギターを手にする時が来るかもしれませんね。
あなたは将来
大スターになって
私の国にも来て下さるかもしれない。
夢…
そんな簡単に諦められますか?
私のためにギターを置いたならば
今すぐ!また夢を追いかけてください。
私はあなたのためならば
変な話し
この身が滅びることも惜しくありません。
ユート
お願い!目を覚まして!
夢を叶えたあなたに逢いたい。
まだ結婚してないとしたら…
ユートには夢を諦めないで欲しいです。
ずっと遠くの国から応援してます。
マリアより
PS
夢を追いかけてるあなたの側にいたかった。




