sazanami
その年の冬、優斗はマリアのために思い切って連休を取った。南国が恋しいというマリアのため沖縄県に連れてきた。沖縄ではレンタカーを借りて色んな場所へ連れて行く予定だ。
優斗は18歳の誕生日が来る少し前に車の教習所に通っていた。費用はなぜか全てアニキが出してくれた。
「オマエは学がないんだから車の免許くらいとっておけ。いつか必ず役に立つ」
アニキはそう言っていたが、優斗はいつかではなく『マリアのために車の免許を取ろう』と決心していた。頑張った甲斐あって、沖縄ライフを充分に満喫できる身分になった。
「マリア。星が綺麗だね」
恩納村のリゾートビーチを歩きながら優斗がいう。
「本当にステキ。ユート、ありがとう」
マリアはこの数ヶ月で格段に日本語が上手くなった。マリアはきちんと大学を出た上で日本に来日している。優斗はマリアを遊び人だと決めつけていた自分を恥じた。
「なぜ。ユートは大学を目指しますか?」
マリアはふいにいう。
それは全てあなたのためだ、と優斗は言いかけて「もっとたくさん勉強してガンガン稼ぎたいから、かな?」と言った。
二人は同じ目的のため、同じ方向をみつめている。だからこの先はマリアと共に、同じ速度で歩んで行きたいと、優斗はそう願っていた。
「マリアはなぜ日本にきたの?」
優斗は当たり障りのない質問をしたはずだった。マリアの顔色が一気に青ざめた。
「殺し屋。本国で殺し屋に狙われている…」
「冗談もうまくなったな!」
言って優斗は笑った。
だが、マリアは険しい顔をした。はじめて見るその表情にはどこか憂いを秘めていた。
「殺し屋って、ホントなのか?」
優斗はマリアの腕をつかむ。
「半分はホント」
マリアはため息をついた。
「ユート。今までありがとう。サヨナラ…」
言ってマリアは立ち上がった。
「サヨナラ…って。マリア。本気か?」
優斗には『サヨナラ』の意味が全くわからなかった。マリアを愛すれば愛するほど、優斗の人生は好転していく。けど、でも、それは全てマリアのためと思って頑張ってきたことじゃないか。ウソだと言ってくれ。
マリアはスタスタと部屋の中に入っていった。
優斗はイタズラにマリアを追いかけることはしなかった。
海辺では優しいさざなみが聴こえていた。満天の星空は笑っているかのように暖かかった。