富裕層の住む街にて
「ヒデキさん。マリアは?」
優斗はヒデキの両肩に手を置き揺らした。
「おい。ちょっと落ち着けよ…」
ヒデキは優斗をにらみ腕をはたいた。
「ちょっとこれでも飲んどけよ」
ヒデキは冷たい缶コーヒーを差し出す。
優斗はあたりをキョロキョロとして見渡す。間違いない。夢の中でみたヒデキの実家だ。
「んで。マリアってバリの女だろ?」
言ってヒデキは首をバキバキと左右に振った。
「はい。森ケ崎海岸で紹介してもらったマリアです」
優斗は必死にうったえる。
「付き合ってたならお前の方が詳しいだろ」
「マリア…。気づいたら本気で好きになっていました」
「あぁ。お前好みかなぁ〜って思って紹介したからな」
ヒデキの何気ない発言に優斗は衝撃を覚えた。
「マジっすか?」
「マジったらマジだよ。オマエあぁいう完璧無比なお嬢様タイプ好きだろ?」
ヒデキは軽くウィンクしていう。
「マリアがお嬢様?商売女って言ってませんでした?」
「商売女だぁ?そんな女紹介すると思うオマエのその発想の方が怖いよ」
「……」
優斗には何がなんだかよくわからない。
「あぁ。マリアって自国じゃかなり有名な歌手だからな。それに、王家の末裔の娘らしいぜ」
優斗は頬をつねる。神経は通っている。これは現実だ。
「100歩譲ってマリアがお嬢様だったとして…。ヒデキさんどこで知り合ったんですか?」
「バカやろう。オニヅカ財閥をなめるなよ!伊達や酔狂で仕事してねぇ。どんな有名人だろうが金さえだしゃ連れてきてやるよ」
ヒデキは虚勢を張る。
「へぇ〜。知らなかった。さすが自由が丘の住人っすね!」
優斗は地元民との格差を感じた。
「んで…。話しみえねぇんだけど。なんでオマエいきなりうちに押しかけてきてマリアーとか叫びながら倒れたんだ?」
「それは…」
優斗ははっきり思い出した。ヒデキのパーティーでヤスが相手していたナツキからもらった薬を飲んでから夢と現実の境目が解らなくなった気がしていた。
「まさか。クスリじゃねーだろうな?」
ヒデキは疑いの眼差しを向ける。
「いや。違うっす」
「誰か怪しいやついたか?」
「いや。いないっす」
優斗はナツキをかばっていう。
「さすがにクスリやる奴は…。二度とうちのパーティーには呼べねぇよ。それこそマリアの国に飛んでもらうしか」
「バリってそんなヤバいんすか?」
「地域によってだな。まぁ、そんなん言ったら世界中そうだよ。優斗の地元だってそうだろ?」
「言うほど治安は悪くないっす」
「それはオマエがまだ子供だから…。まぁいいや。んで、マリアとはどーすんだ?」
「どーするも何も…。ある日を境に突然フラれた身ですから」
優斗はモジモジしてグズりだした。
「じれってぇな!じゃ最後にこれだけは教えておいてやるよ。マリアは最初から優斗を狙って日本に来てるからな」
「え!?」
優斗は人生で初めて武者震いを経験した。こんな俺に会うために。なぜだ。
「追いかけるならば。車で羽田送ってやる。どーする?」
「金がないです」
「バカか。金くらいこっちで用意してやる。雨宮先輩の弟だからな。オレが聞いてるのは…」
「ヒデキさん。最後くらいカッコつけさせてください!」
優斗はバーンとドアを開けて飛び出して行った。
まったく。雨宮家はいつもうちにめんどくさい問題を持ってきやがる。
ヒデキはベランダに出てタバコに火をつけた。
「あ!ヤス?優斗が羽田向かってるから。後はよろしくな〜」
「ヒデキ…!きいてねー」
ガチャ。ツーツー。
ヒデキは青空を眺めて少年のような笑みを浮かべた。