エピソード 2ー1
襲撃後、リネットにものすごく謝られたりと色々あったけれど、その後は襲撃なんかもなく、私達は無事にアグナリア王国の城へと到着した。
私は旅の疲れを癒やす時間もそこそこに、国王陛下と謁見することになった。
案内されたのは、天井から魔導具の灯りが降り注ぐ謁見の間。シンプルでありながら、謁見を求める者に王国の威光を見せつける計算された空間だ。
きざはしの上にある玉座へと続く、真っ赤な絨毯の中程で私は片膝をついていた。
左右には国の重鎮達が並び立っていて、玉座にはアグナリアの国王、その隣にはアルヴェルトと、もう一人見知らぬ青年が立っていた。
ベルトラン陛下は金色の髪に青い瞳、アルヴェルトの父と言うだけあって精悍な顔立ちをしている。そのベルトラン陛下が厳かに口を開いた。
「ヴェリア皇女殿下、そなたの勇気ある決断が平和の礎となった。そのことを我が国は高く評価している。しかし、そなたが難しい立場であることも事実だ。苦境に立たされることもあるだろう。そのことを想うと、そなたが心配でならぬ」
「お心遣いに痛み入ります。しかしながら、私がここにいるのは自らの使命を果たすため。そのためならば、いかなる試練にも耐える覚悟でございます」
「そうか。ならばその決意に敬意を表し、そなたの滞在を歓迎しよう」
ベルトラン陛下が私の滞在を受け入れ、周囲からまばらな拍手がおこる。そしてそれが静まったとき、彼は「しかし――」と言葉を続けた。
「実のところ、わしは王子が来ると誤解していてな。であれば、アルヴェルトの屋敷に住まわせようと思っていたのだが……」
予想に反して私が来たので、滞在場所が決まっていないという。ベルトラン陛下からそのことについて話があることを、私は事前にアルヴェルトから聞かされていた。
私は陛下の言葉を聞きながら、事前にしたアルヴェルトとのやり取りを思い出した。
「――謁見では、父から滞在先について話があるはずだ。そのとき、リリスが暮らす離宮を滞在先として希望してくれ」
「離宮で私になにをさせるつもり?」
アルヴェルトは、影纏いの魔女と呼ばれる私の力が必要だと言った。ならば、魔女と呼ばれる私に離宮でなにをさせるつもりなのかと、警戒心を持って尋ねる。
すると、アルヴェルトは深刻そうな顔でこう言い放った。
「リリスは離宮に引き籠もっていてな。どうにか社交界の場に連れ出して欲しいんだ」
「……はい?」
まさかの、引き籠もりのお姫様を連れ出せという指令。彼の深刻な表情からそんな言葉が出てくるとは思わず、間の抜けた顔をしてしまう。
「ええっと……貴女の妹は病弱で離宮で療養しているという噂を聞いたことがあるけれど、それは事実ではなかった、ということかしら?」
「実のところ、理由は不明だ。ただ、寝込んでいるとかではないはずだ」
「……へぇ、そうなの」
だとしたら、他に理由があると言うことになる。
他に考えられるのは、精神的な理由。あるいは、政治的な理由で離宮に押しやられたか、だけど――とアルヴェルトの顔をうかがう。
「貴方が押し込めている訳ではないのよね?」
「もちろんだ。だが、そういう噂があるのも事実だ」
「なにがあったのよ?」
「ある日、俺が主催のパーティーにリリスを招いた。だが……」
リリスは、そのパーティーの最中に倒れてしまったらしい。結果、アルヴェルトが邪魔なリリスを毒殺しようとして失敗した、という噂が広まってしまったそうだ。
「毒殺? どうしてそんな噂が?」
「リリスは第二王妃の娘――つまりは腹違いの妹でな」
「あぁ……跡目争いね」
第二王妃には娘のリリスの他に、エドワルドという息子がいる。王太子――つまり次期国王に内定しているのはアルヴェルトだが、エドワルドやリリスにも王位継承権はある。
その関連で毒殺未遂があった――という噂を流した者がいる、ということ。
「妙な噂が流れた理由は分かったけど、リリス王女殿下は倒れた理由を言わなかったの?」
「確認したが、リリスは悪いのは自分だ。迷惑を掛けた責任を取って、離宮で謹慎すると言って、それっきり、という訳だ」
「なら、倒れた原因が、離宮に引き籠もった理由である可能性は高いわね」
「倒れた直前は私の側で他の者と話していた。特に原因となるような会話はなかったし、その会話中には飲食物も口にしていない。倒れた原因は不明のままだ」
「ふぅん……?」
そういう経緯があるのなら、苛められた――といった理由ではないだろう。もちろん、絶対にないとは言い切れないけれど……と、私は考えを巡らす。
「複雑な事情がありそうだということは分かったわ。それで、リリス王女殿下を社交界に連れ出して欲しいというのはなぜかしら?」
「一つは妹の将来が心配だからだ。だがもう一つある。それは、私が邪魔なリリスを離宮に押し込めているという噂がまことしやかに囁かれているからだ」
「……押し込めているの?」
「ならば連れ出してくれなどと頼むと思うか?」
「思わないわね」
もちろん、言い訳作りのパフォーマンスという可能性も否定は出来ない。だけど、もしそういう目的だとしたら、他に少しふさわしい人間がいるだろう。
「リリスは可愛い妹だ。だが、政治的な観点で見ると扱いの難しい存在でもある。リリスの嫁ぎ先によっては、第二王子派の勢力が増すからな」
「あぁ……そっち方面なのね」
ライバルになり得る第二王子ではなく、歳の離れた王女を政敵として毒殺しようとした。という噂に説得力のなさを感じていたのだけど、いまの話を聞いて納得した。
第二王子派勝利の鍵となる存在がリリス王女殿下、という位置づけなのだろう。
「そういう背景があれば、第二王子派が貴方を糾弾する名目にするのは当然ね。実際、政治的に見れば、貴方にとってそう悪い状況でもないのでしょうし……」
「そういうことだ。それで、私を支持する者達から不安の声が上がっている。このままでは、私の支持基盤も揺らぐことになるし、そうなればそなたに協力するのも難しくなる」
「理解したわ」
――というやり取りがあったのだ。
つまり、私はノクスを救うためにアルヴェルトに協力し、リリスを社交界に連れ出すのが当面の目標であり、そのためにはリリスに近付かなくてはならない。
だから、私の滞在先をどうするかと思案しているベルトラン陛下に進言する。
「ベルトラン陛下、私はリリス王女殿下の暮らす離宮を希望します」
そう口にした瞬間、謁見の間にざわめきが広がった。だが、ベルトラン陛下が手を上げてそれを鎮める。それから私に向かって「リリスの離宮を希望する理由を聞こう」と口にした。
「リリス王女殿下は魔術に興味があるとうかがいました。私も魔術師ですから、リリス王女殿下とは気が合うのではと考えました」
「ふむ……」
「父上、リリスは魔術に長けた家庭教師を欲しています。ヴェリア皇女殿下に家庭教師を任せるのはいかがでしょう?」
ベルトラン陛下の隣に立っていたアルヴェルト王太子が口添えをする。
今日の彼は見慣れた騎士の格好ではなく、王族にふさわしいデザインのブラウスにジャケット、スラックスを身に着けていた。こうしてみると、たしかに王子様だ。
だが、彼の発言には周囲にいる重鎮達からざわめきが上がった。それを押さえ、再びベルトラン陛下が口を開く。
「ヴェリア皇女殿下にリリスの指導をさせるつもりか?」
「影纏いの魔女よりふさわしい者はいないと考えます」
「ふむ……ヴェリア皇女殿下、そなたはどう思う?」
ベルトラン陛下の知性の溢れる青い瞳が私を見つめる。
「そのような大役をお任せいただけるのであれば否はありません」
「そうか、ならば――」
陛下が決断する素振りを見せた。だが、彼がその内容を口にする寸前、「お待ちください」という声が上がった。待ったを掛けたのはアルヴェルト王子のさらにとなりに立つ、金色の髪にアメシストの瞳を持つ、精悍な顔立ちをした青年だった。
立ち位置や、アルヴェルトやベルトラン陛下にどことなく顔立ちが似ていることから考えて、恐らく彼が第二王子のエドワルドだろう。その彼が「よもや、敵国の皇女を妹に近づけるおつもりですか」と言い放ち、私のことをじろりと睨み付けた。
「ふむ。エドワルドは反対か?」
「当然ではありませんか。彼女がリリスを害したらどうするのですか!」
「そのときは、彼女を断罪し、ノクシリア皇国は卑怯な国だと喧伝することになるだろう」
「そういう問題ではありません!」
「いいや、そういう問題だ。政治的な背景を理解していれば、彼女がリリスを害する行為がいかに愚かか分かるはずだ。それとも、おまえが心配しているのは別の理由なのか?」
「それ、は……」
エドワルド殿下は渋い顔で答えに窮した。
ベルトラン陛下は、これで話は終わりだと視線を外す。
「ヴェリア皇女殿下が離宮で暮らすことを許可しよう。ただし、リリスの家庭教師に関しては、直接会ってから本人と話し合うがよい」
こうして私の離宮入りは決定し、最初の謁見は終了した。だが、私が謁見の間から退出してほどなく、廊下を歩いている私を足音が追いかけてきた。
「ヴェリア皇女殿下、おまえはなにを企んでいる」
不躾なセリフに足を止めて振り返ると、険しい顔のエドワルド殿下が立っていた。
私はカーテシーをしてから「企むなど、とんでもございません」と口にする。同時に、心の中ではなぜこんなに警戒されているのだろうと考える。
私は休戦協定の人質だ。
私が問題行動を起こせば、ノクシリア皇国に取って不利な形で戦争が再開される。
そして、戦争が再開されれば、私の命はそこで終わることとなるだろう。立場的に弱い私がリリス王女殿下にすり寄ることがあっても、害することなどあるはずがない。
つまり、私をここまで警戒する理由はないはずだ。
そう思って表情をうかがうと、彼はふんと鼻を鳴らした。
「本来人質として送られてくるのはノクス王子だったはずだ。にもかかわらず、アルヴェルト兄上が連れてきたのはおまえだった。そのおまえが、リリスのいる離宮に入る? これではなにかあると言っているようなものではないか」
あぁ……なるほどね。なんとなく分かった。エドワルド殿下は、私がアルヴェルトの手駒である可能性を警戒しているのね。
逆に言えば、彼は兄弟でありながら、兄のアルヴェルトを警戒している、ということだ。
アルヴェルトから聞いた、王位継承権絡みのしがらみについて思い出す。
だとしたら――
「エドワルド殿下、なにか誤解があるのではありませんか? 私はアルヴェルト殿下より、リリス殿下を離宮より連れ出して欲しいと頼まれただけですよ」
「……アルヴェルト兄上がそのようなことを?」
「ええ。そうです」
それがなにかと首を傾げて反応をうかがう。
第二王子派は、リリス王女殿下を政略結婚の道具にしようとしている。それが事実であるならば、彼にとっても、リリスが離宮から外に出るのは望ましいことのはずだ。
果たして、どんな反応を示すだろうと見守っていると、エドワルド殿下は険しい顔で、「兄上、なにが狙いだ?」と呟いた。
「エドワルド殿下?」
声を掛けると、彼ははっとした顔で私を見た。それから私に厳しい目を向けるが、その厳しさは、さきほどよりも少しだけ薄れていた。
「……ヴェリア皇女殿下には警告しておこう。リリスに危害を及ぼすつもりなら決して許さない。だが、さきほどの言葉が本当なら――」
彼は「兄上の言葉を鵜呑みにするな」と、ギリギリ聞こえる程度の声で呟いた。
「エドワルド殿下、それは一体どういう意味ですか?」
「影纏いの魔女ならば自分で調べてみせろ。なにより、俺の言葉など信用できまい」
彼はそう言って、私の答えも待たずに去って行った。私はその後ろ姿を見送りながら、彼が警戒しているのはアルヴェルトだと確信する。
……そう言えば、この国に入ってすぐ襲撃されたけど、アルヴェルトは自分が狙われたと確信しているようだったわね。
彼がアルヴェルトを疑うのは、自分が同じことをしているから、かしら?
いえ、この時点で判断を下すのは早計ね。
ひとまず、彼が言ったように、自分の目と耳を使って調べるとしましょう。
こうして、私はリリス王女の住まう離宮で暮らすことになった。
与えられたのは間接光をふんだんに取り込んだ、日だまりのような一室だった。どうやら反射板を上手く使い、日光を効率よく部屋に取り込んでいるらしい。
「魔術以外の技術でも、我が皇国は後れを取っているようね」
メイドが入れた紅茶を片手に独りごちる。私はローテーブルの前にあるソファに座って一息吐いていた。そこに扉を叩く音が響き、私はどうぞと入室を促す。
一呼吸置いて部屋に入ってきたのはリネットだ。
彼女はどこか緊張した面持ちで、ソファに座る私の正面に立った。
「ヴェリア皇女殿下が私を侍女にご指名くださったと言うのは本当でしょうか?」
「ええ。アルヴェルト王太子殿下に侍女について希望はあるかと聞かれたので、貴女の名前を出したのよ。もしかして、私に仕えるのは嫌かしら?」
「いいえ、私を救ってくださったことに感謝しています。ですから、貴女にお仕えすることで恩返しを出来るのであれば否はありません。ただ……私でいいのですか?」
失態を犯したのにと言いたげな顔。
私がリネットを庇って崖から落ちたことをまだ気にしているようだ。
「あのときのことなら気にする必要はないと言ったはずよ」
「ですが……っ」
私は手を突き出してリネットの言葉を遮った。
「リネット。私は、自国を捨てて自分だけ逃げた卑怯者だと思われているわ。だから、この国で私に仕えてくれそうな人は貴女を置いて他にいないのよ」
「……そのようなことは」
「ないとは言わないでしょう?」
私を護送する騎士達もそうだ。
私がアルヴェルトを巻き込んで崖から落ちたことで、なおさら厳しい目を向けるようになった。他に侍女のなり手はいないだろう。それに、私に仕える侍女は、どうせ監視の役目を負うことになる。であるならば、気心を知る者の方がいい。
なにより――
「貴女は私の事情を知る前から、仕事をちゃんとしてくれたでしょう? そんな貴女だから、私は貴女を侍女に迎えたいの。それは、選択肢が他にないからじゃないわ」
他に選択肢がないのは事実。
だけど、他に選択肢があったとしても貴方がいい。その言葉にリネットは目を見張り、そのライトブラウンの瞳をキラリと輝かせた。
「ヴェリア皇女殿下、貴女に忠誠を誓います」
「ありがとう、よろしくね」
私が微笑むと、リネットは恭しく頭を下げた。
「さて、それじゃ早速働いてもらおうかしら」
「はい。なにをすればよろしいですか?」
そうね……と少し考えに耽る。
私が用意したこの国の伝手に連絡を取るなど、色々と頼みたいことは多々ある。けど、その辺りは後回しだ。優先すべきは、リリス王女殿下について確認することだ。
「既に知っているかもしれないけれど、私はリリス王女殿下の家庭教師をすることになっているわ。だから、リリス王女殿下について、知っていることを教えてくれる?」
「そう、ですね……リリス王女は少々訳ありでして」
「パーティーで倒れて、そのまま引き籠もったのよね?」
「ああ、アルヴェルト王太子殿下から聞いているのですね」
話し辛い事情だからか、私が事情を知ると聞いたリネットはほっとした顔をする。
「おおよそは聞いているわ。ただ、知らないこともあるから、一通りの情報を聞かせてくれるかしら?」
「分かりました」
リネットはそう言ってリリス王女のことを話してくれた。
リリス・アグナリア、今年で十歳になるお姫様だ。ピンク掛かったプラチナブロンドはゆるふわのツーサイドアップで、瞳は幻想的な薄紫をしている。見るからに儚げで、深窓のお姫様といったイメージだそうだ。
ただ、倒れた理由や、引き籠もっている原因はリネットも知らないようだった。
「お役に立てずに申し訳ありません」
「いいえ、アルヴェルトが調べても分からなかったのだから仕方ないわよ」
なら、自分の目で確かめよう。
そう判断した私は、「ひとまず挨拶にうかがいましょう」と立ち上がった。そうしてリネットを連れて部屋を出た私は、そのままリリス王女のいる部屋を目指す。
その途中で通りかかった渡り廊下の向こうに人影が見えた。十歳くらいの少しくたびれたドレス姿の娘と、メイドが向き合ってなにかを話している。
「リリス様、そのようなことは出来ないと言っているでしょう?」
遠くから聞こえるメイドの声は、明らかに話し相手を見下している。
リリスと聞こえたので、小さな女の子がリリス王女なのだろう。リネットから聞いたとおりの愛らしい女の子で、幻想的な薄紫の瞳が印象的だ。
その美しい瞳が一瞬だけ私を見た。
次の瞬間、リリス王女の小さな手がメイドの腕を掴んだ。そして――メイドの手がリリス王女を突き飛ばすように伸ばされると、リリス王女はなすすべもなく後方に倒れ込んだ。
「――リリス王女殿下!?」
リネットが悲鳴交じりの声を上げると同時、私はリリス王女の元へと駆け寄った。そうして抱き起こしながら「ご無事ですか?」と声を掛け、その容態をたしかめる。
幸い、目に見える傷はなかった。
ただ、髪は乱れ、ドレスの袖がほつれている。それに、病弱という噂が腑に落ちるほど痩せていて、その身体はびっくりするくらい軽かった。
だが、リリス王女は強い意志を秘めた瞳を私に向けた。
「……貴女は?」
「お初にお目にかかります、リリス王女殿下。私はヴェリア。貴女の家庭教師に推薦された件で挨拶にうかがうところでした」
「そう、貴女が噂のヴェリア皇女殿下なの、ね……」
リリスはそう言って目を閉じた。直後、その身体から力が抜け落ちる。私はリリス王女の呼吸が正常なのをたしかめ、その身を抱えたまま立ち上がった。
「リ、リリス王女殿下は大丈夫なのですか?」
リネットが不安そうに問い掛けてくる。
「大丈夫よ。それより、そこのメイドを拘束しておきなさい。王女を害した罪人よ」
「ま、待ってください、私はなにもしていません!」
メイドが慌てて弁解をするが、それを聞く義理はない。リネットに視線を向けると、彼女は心得ていますと、すぐに近くにいた警備の騎士を呼びつけた。
「リネット、騎士に同行して、事情を説明なさい」
リネットは私とリリス王女を見比べ、「かしこまりました」と言って、騎士と共にメイドを連行していった。
それを見送った後、私は腕の中で目を瞑る愛らしいお姫様に視線を落とす。
「リリス王女殿下、あのメイドはいなくなりましたよ。いつまでそうやって気絶した振りをしているつもりですか?」
私が問い掛けると、リリス王女の目がパチリと開いた。
そして――
「どうして気絶したフリだって分かったの?」
リリス王女は薄紫の瞳を細め、小悪魔のように微笑んだ。