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可愛いは悪 回帰した悪役皇女はうつむかない  作者: 緋色の雨


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エピソード 3ー7

     ◆◆◆


 クラヴィス侯爵が騎士によって護送されていく。

 それを横目に、私はリリスの様子をたしかめる。身に着けているドレスは街へ出掛けたときのままで、彼女に傷付けられた形跡はない。

 けれど、彼女の瞳は不安げに揺れていた。


「リリス、大丈夫ですか?」

「……うん。怖かったけど、ヴェリアお姉ちゃんが助けに来てくれるって信じてたから」


 不器用に笑う。

 その様子からは、これが彼女の描いたシナリオだなんて想像も出来ない。だけど、これまでの言動から考えると、リリスの企みごとであるのは明白だ。


 あるいは、私をお姉ちゃんと呼んだことすら、私が弟を可愛がっていると知っての行動だったのかもしれない。そんなことを考えていた私は――どうでもいいと肩をすくめた。


 たとえ行動が悪だったとしても、その目的は兄のためであることは疑いようがない。

 兄のために手段を選ばない彼女を私は可愛いと思う。

 なにより、手段を選ばないのは私も同じだ。

 だから――と、私はリリスを抱きしめる。


「貴女が無事でよかったわ」

「……ヴェリアお姉ちゃん、私を心配してくれたの?」

「ええ、もちろん」

「でも、私は――」


 リリスは私の腕の中からちょこんと顔を出し、なにかを打ち明けようとする。だけど私はリリスをふっと笑って「大丈夫、すべて分かってるから」と囁いた。


「……そう、なの?」

「ええ、気付いているのはたぶん私だけだけどね」

「そう、なんだ。その……ごめんなさい」


 リリスが申し訳なさそうな顔をする。クラヴィス侯爵を断罪するために、私を利用したことに罪悪感を抱いているのだろう。


「いいのよ。それより、貴女の目的はまだ達成していないでしょ? ほら――」


 私は入り口付近にいる二人の王子、アルヴェルトとエドワルド殿下を視線で示すと、それに気付いたリリスがハッと目を見張る。それから、おっかなびっくり声を掛けた。


「二人が一緒にいるってことは……和解したの?」

「和解、か。まあ、誤解が解けたのは事実だな。だが……」


 アルヴェルトが隣にいるエドワルド殿下に視線を向ける。視線を受けた彼は返事の代わりにその場に片膝を突いた。


「アルヴェルト兄上――いえ、王太子殿下。俺は派閥の主でありながら、部下の暴走を止めることが出来ませんでした。この責任はすべて俺にあります」

「……そうだな」


 アルヴェルトが思案する素振りを見せる。とたん、私の腕の中から抜け出したリリスが、そのままアルヴェルト元へと駆け寄って、その腕にすがりついた。


「リリス、そなた――」


 魔力加給症のリリスは、増魔の蝕を持つアルヴェルトに近付くだけで身体に負担が掛かる。アルヴェルトが距離を取ろうとするが、リリスは彼の袖を掴んで離さなかった。


「アルヴェルトお兄様、エドワルドお兄様はなにも知らなかったの! 私、ちゃんとクラヴィス侯爵から聞いたよ。だから、エドワルドお兄様を責めないで!」


 必死の面持ちでアルヴェルトを見上げる。だが、なおも言いつのろうとするリリスの腕を、片膝を突いてかしこまっていたエドワルド殿下が掴んだ。


「リリス、派閥の長が知らなかったでは済まされないんだ。――兄上、後継者争いの火種になりかねない。だから、こんな弟に慈悲を掛ける必要はない。公平に裁いてくれ」

「エドワルドお兄様……」


 リリスがとても悲しげな顔をして下を向いた。

 やはり、リリスがこんな無茶をしたのは、クラヴィス侯爵の独断だと示すことで、エドワルド殿下に罪が及ばないようにしたかったから、なのね。


 そのことを私が確信したように、アルヴェルトもなにかを感じ取ったのだろう。思案顔になった彼は、無言でエドワルド殿下を見下ろした。


 太陽に掛かっていた雲が風に吹き散らされて、窓から強い光が差し込んだ。そうしてアルヴェルトとエドワルド殿下の姿を明暗が分ける。


 光の中に跪くエドワルド殿下と、影の中でなにかを思うアルヴェルト。


 私はさりげなく二人に近付き、アルヴェルトの身体に触れて支配の鎖を行使。アルヴェルトの増魔の蝕がリリスの身体に負担を掛けないようにした。


 とたん、リリスがくずおれそうになる。

 わずかな時間でも、相当な負担が掛かっていたのだろう。苦しいはずだ。だけど、それでも、リリスは踏みとどまって、必死な顔でアルヴェルトを見上げた。

 その健気な上目遣いをまえに、アルヴェルトは小さな溜め息を吐く。


「第二王子派の罪は重い。だから、派閥の長であるエドワルドの責任をなかったことには出来ない。だが、エドワルドがリリスの救出に貢献したのも事実だ。それを陛下にお伝えしよう」


 アルヴェルトが溜め息交じりにそういうと、リリスが小さく瞬いた。その薄紫の瞳にキラリと光が宿り、次の瞬間には満開の笑みを浮かべた。


「アルヴェルトお兄様、ありがとう!」

「礼は不要だ。最初に、エドワルドとも――リリス!?」


 アルヴェルトが最後まで言い終えるより早く、リリスはふらりと倒れ込んだ。そうして彼女が倒れる寸前、私は彼女の腰を掴んで抱き留める。


「リリス、大丈夫ですか?」

「……う、うん、緊張の糸が切れただけ、だよ」


 明らかな嘘だ。

 だが、人目が多いこの場所で事実を口にする訳にはいかない。

 私は素早くリリスの容態を診察し、すぐに命に関わることはなさそうだと判断する。でも、あまり長居はしない方がいいと、アルヴェルトに目配せをする。

 彼は頷き、エドワルド殿下に視線を戻した。


「エドワルド、そなたの拘束はしない。自ら陛下に事情を打ち明けろ」


 アルヴェルトはそう言って踵を返す。支配の鎖を行使中の私は、リリスを抱き上げつつも、彼の隣に並びかけた。そうして部屋を出る寸前、エドワルドが声を上げる。


「兄上、俺を許すというのか?」

「部下の暴走はそなたの責任だ。だが、そなたが私の命を狙った訳じゃない」


 アルヴェルトはそう言った後、「それに――」と呟く。


「私は命を狙われていると思っていたときですら、そなたのことを憎みきれなかった。それがすれ違いであったのなら、もはや思うところはない」

「……兄上、俺は……」


 後悔にまみれた顔をする。

 エドワルド殿下を残し、私達はその場をあとにした。

 

 

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