第2話
私の誕生日を祝う声に目を見開くと、目の前には見た事がない…けれど何故か知っている光景があった。
天井から幾つものシャンデリアが飾られて、全体的が煌びやかな光で包まれている。白いテーブルクロスが掛けられた円型のテーブルが至る所にあり、豪華な食事やワインが並んでいる。テーブルを囲む人達、壁際に佇む人、私の近くに居る人達は全員男性はスーツ、女性はドレスを着ている。
(私、確か智恵と一緒に屋上から落ちて…死んだに違いないわ。そして…今の私はオリーブになったのね。)
何故か自然と受け入れる事が出来た。そして私は、当たり障りなく声を掛けてくる貴族達に返事をした。
現在の私、オリーブ・オーイルはとある物語の悪女だ。物語の名前は『ラッへ・ヘルディン』。この物語は私が小学生の時に図書館にあった児童向けの本だ。女子の人気がとても高くて、『ラッへ・ヘルディン』を借りる争奪戦が起きた程であった。
王道な物語であり、定番ネタではあったがとても大好きだった。
主人公もとい、ヒロインの名前はラッヘ。平民の少女、ラッへは実は貴族の血を引いており、ヘルディン公爵家の一員となる。その後、王子のサーラダと出逢い惹かれ合う。悪女のオリーブはオーイル公爵家の公女で、サーラダの婚約者だ。
オリーブはラッへに嫌がらせをし、虐めをする。最終的にサーラダの生誕を祝うパーティーで婚約破棄を宣言され断罪、その数日後処刑される。ラッへとサーラダが結ばれて、めでたしめでたし…という物語だ。
小学校の時に読んで以来、『ラッへ・ヘルディン』を見かける事も、話題に出す事もなかったので細かい部分は覚えていない。そもそも、何故『ラッへ・ヘルディン』の物語の世界に転生しているのか。何故私がオリーブになっているのか。何故私はすんなりと、この状況を受け入れられているのか。謎は多いし、考えなければならない事は多い。
けれど、今私が考えるべき事は“悪女が最後には処刑される”という事だった。物語の通りならば、オリーブである私は死ぬ。当然、私はもう二度と死にたくはない。
処刑される未来を回避する事、それが何よりも大事だ。そして、サーラダの誕生パーティーは1か月後の予定だ…あまり時間はない。
ヒロインのラッへがどのタイミングでサーラダと関わるのかは分からない。けれど、もうすぐラッへは社交界に登場する筈だ。そこで、私に出来る行動は2通りだ。“ラッヘと仲良くなる”か“ラッへと一切関わらない”かのどちらかだ。
オリーブが処刑されるのは、ラッへを虐めたからだ。だから、ラッへを虐めなければ避けられる筈だ。物語のオリーブはサーラダの婚約者であり、愛していた。だからラッへが許せなくて虐めた。でも私はサーラダに興味なんてない。ましてや、次期王妃の地位も必要ない。
サーラダがラッへを愛したら、私は潔く身を引いて円満に婚約解消する予定だ。だからそれまでにラッへと仲良くなった方が良いのか、それとも関わらずに過ごすべきなのかを選択しなければならない。
しかし、答えが出ないまま数日が経過したある日のパーティーで、私はラッへの姿を見た。
「み、皆様初めまして。ラッへ・ヘルディンと申します!」
何処か緊張した面持ちで、しかし可愛らしい笑みを浮かべて挨拶をする姿は、まさしく物語のヒロインに相応しかった。
私はラッへを遠くから見つめて挨拶に行くべきか、それともこのまま眺めていようか考えていると、ラッへと目があった。
「――――。」
ラッへは目を見開くと、そのまま私から目線を外して他の人達と会話を始めた。違和感を少し感じたけれど、現時点ではラッへと私には何の接点もない。
ただ目線が少しあっただけだと思い、気にしなかった。そして、ラッへは常に誰かに囲まれていた為、私から話しかける事はなくパーティーは終わった。
その後もラッヘと会う事はなかった。そもそも、ラッへと会おうとした所で何処に行くのかも分からなかった。それこそヘルディン公爵家に直接行くか、サーラダの行く先々で待ち伏せでもしなければ会えない状況だった。
(ラッへと積極的に仲良くなる必要はないわ。関わらずに過ごそう…。)
私はそう決めた。サーラダとは婚約者として時々食事を共にしたけれど、お互いに会話をする事もなかった。殆どはオーイル公爵家で過ごし、大人しくしていた。
私はラッへを虐めてないし、初めて姿を見たパーティー以外で顔を見る事すらなかった。
それなのに、サーラダの生誕パーティーで、私の断罪が始まってしまった。




