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読めない従妹と屋根の下

作者: ゆー

いつからだろうか。


困っている人を見かけると、つい放っておけなくなってしまったのは。


いつからだろうか。


お礼を言われて、その笑顔を見て。


心が満たされるでもなく───






ああ、やっぱり違うな。何て、思ってしまうようになってしまったのは。




穂村総護。アルバイトが趣味の高校2年生です。自己紹介をすればその一言で全てを語りきれる素晴らしい人間。それが俺である。


両親は家にいない。仕事の利便性を考えて父は少し遠くに部屋を借り、未だ夫婦仲睦まじい母は俺が手のかからないことをいいことにウキウキでそれに着いていった。


なので現在は広い家にポツンと一人。何の変哲も無いこの小さな町で気ままに悠々自適に面白おかしく…はないな。普通に暮らしていたのだが───






「これからよろしくお願いします、兄さん」


「は、はい………?」


そんな俺にある日、従妹が出来ました。






「お邪魔しています」


「へ」


始まりは何でもない日だったと思う。


ある日、家に帰ってみるとあら不思議。掛けたと思っていた鍵が掛かっていないではないか。嫌な汗をじんわり流しながらリビングへ足を踏み入れてみると、机には実に規則正しい姿勢で座る一人の少女。あまりに正しすぎて一瞬入る家を間違えたのかと思ったくらいだ。


水無月葵。自分の従妹だと、少女はそう名乗った。

真正面から彼女を見つめた時、馬鹿正直に言えば漫画でもないのにまるで一瞬、世界が止まったかの様な錯覚を受けた。

彼女が一つ年下とは思えないくらい、驚く程に綺麗だと。柄にもなくそんな事を思ったから。

ハネ一つ無い艷やかな黒髪を腰まで垂らし、同じ血筋とは思えないくらい美しく整った顔。惜しむらくは、その顔が徹頭徹尾、一切の無表情だったというところくらいだろうか。


そもそも従妹がいた事自体初耳だったのだが、もっと驚くべきはその従妹と一つ屋根の下で暮らすことになったことである。


無論、何の覚えも無い我が身にしてみれば到底納得出来る話ではない。年頃の男女が一つ屋根の下二人っきり。起こす気は毛頭無いが間違いが起きたらどうするのか。

俺は震える手で携帯を取り出すと見知った番号へと連絡を入れるのだった。





「…言い忘れたって、母さんそんな適当な……」


『いいじゃない。あんたは放っておいたらおかしくなるから。お目付け役よ』


おかしくなるって何。可愛い息子にかける言葉?


電話口から聞こえてくる見知った声から聞かされた理由は言い忘れた。ただそれだけだった。俺が二の句を継げずにいる間も向こうからは能天気そうにカラカラと笑う声が漏れ出ている。


『それにうちから通った方があおちゃん的にも便利なのよ。近いし。あんたもそうやって高校選んだでしょ?』


「……まぁ」


『………ま、仲良くやりなさい。私からはそれだけよ。ああ、偶にはちゃんと様子見に行くから。じゃね』


「んなっ…」


反論する間もなく、そんな身も蓋もない言葉の直後に響くブツリという無機質な音。我が母ながらそのいい加減さに辟易する。


「納得していただけましたか?」


感情の籠らない静かな声が丸くなった俺の背中にかけられる。


どこまでも読めないその声音に、ゆっくりと振り向いてその顔を伺えば、彼女は相変わらずの無表情でこちらを真っ直ぐ見つめている。


「では改めて、どうぞよろしくお願いします。兄さん」


丁寧に下げられたその頭にかけられる言葉を、今のぐちゃぐちゃになった俺の思考は残念ながら思いついてくれなかった。





それから──


家具や部屋の用意等、取り敢えず使っていない物を引きずり出して、その他細かい問題は取り敢えず後日に回すことにして、何とか共に暮らすことになった従妹は今───






「……………」


眠る俺の枕元でただただ無言でこちらを見つめている。


いや、こっわぁ。怖い怖い、怖いよ。


いつもより早く目が覚めてしまったかな?と思って薄目を開けたら目の前にいるんだもん。一瞬、息止まったわ。


「……………」


幸いなことに彼女は何も言わない。恐らくは俺が起きたことに気づいていないのだろう。…それはそれで無表情でこちらを見つめ続けていることへの恐怖心が増すのだが。


まるでどこぞのホラー映画のワンシーンの様な状況のまま、幾らかの時間が過ぎただろうか。

枕元にある携帯のアラームがけたたましく鳴り響いた。


「…………」


すると彼女は音もなく動き出すと静かにそれを消した。そのまま幽鬼の様な動きでこちらの顔を覗き込み


「朝ですよ、兄さん」


低い、けれど年相応に幼い透き通った声が耳元で囁かれ、失礼ながらもゾワゾワとした何かが身体の中を迸る。

されど眠った所で何が進む訳でもない。観念してたった今起きたかの様に振る舞って目を開ける。


「……おはよう…ございます」

「はい、おはようございます」


思いの外近かったその距離感に、ドキドキと緊張の余り謎に敬語で話す俺。それを聞いて尚、眼の前の彼女の顔は爽やかな目覚めとは程遠い無表情だった。





「えっと、大丈夫か?」


「………無論です」


それなりに早足で歩く俺の後を雛鳥のようにせっせとついてくる水無月。声音こそいつも通りだが既に肩は大きめに上下しており、突発的な運動に疲れているのは明らかである。


「だから先に行っていいって言ったのに」


「…そういう訳には行きません…」 


切っ掛けは些細な事。


彼女が同じ高校の後輩だということを知った俺は、せっかくだから従兄妹仲良く登校することにしたのだが、その途中で俺の足は意思に反して明後日の方向へと向いてしまったのだ。


「…ハツ婆にはいい加減あの坂はキツイって言ってるんだけどなぁ」


「中々に頑固な方でした…」


急勾配の坂で立ち往生する一人の老婆。

小さな頃からお世話になっているその小さな背中を放って通り過ぎることは俺には終ぞ出来ず、遅刻寸前の今の時間まで彼女のことを手伝っていた。


その時先に行けと伝えたが、水無月はそれを聞き入れず、有り難くも手伝ってくれたけれども結果は見ての通り。二人仲良く早歩き。周囲に同じ制服姿は碌に見当たらない。


「…兄さんは優しいですね」


「お、分かる?」


ポツリと呟かれたその言葉。気を良くして彼女を振り向けば、そこには笑顔ではなく渋い顔。


「…ですが限度は有ります。…この間は倒れたと聞きましたが」


「…よくご存知で……」


思いの外、強い目で睨まれる。元々怜悧な印象が強いのでその迫力に思わず身がすくむ。


そう。少し前の話になるが、とある日、俺は校内で倒れてしまった。理由はただの過労。

体調管理も出来ないのにバイトやら人助けやらに勝手に首を突っ込んだ挙げ句この体たらく。話を聞きつけた母もこの時は眼の前の彼女と同じく流石に渋い顔を隠さず、お陰様で暫くの自粛を言い渡されてしまっていた。


…しかしそんな話しまで伝わっているとは。


「大したことじゃないって。実際すぐ目覚めたし、今はいたって元気だし」


「ですが倒れた」


「…まぁ」


…どうにも居心地が悪い。どうしてだか彼女の目を見ると、何か胸の内がざわつく様な、心の奥を覗かれている様な、そんな気がしてならない。さり気なさを装ってそっと顔を前へと戻す。あの目を見つめ続けることは苦手だった。


「兄さんは何故ーー」


そういった彼女の口は、しかしそれ以上の言葉を紡ぐことはなかった。眼の前に見える校舎からよく聞き覚えのある鐘の音が聞こえてきたからだ。


「話はまた今度な。君も急がないと」


「………」


どこか不服そうな彼女を横目に、逃げるように速度を上げる。

みるみる二人の距離が離れていく。だけど俺はそれを縮めようとは何故か思えなかった。





「ーーそうそう。そこでトヨ婆がタケ爺にアロガント・スパークを…」


「あれ?俺が聞いたのは爺さんがマッスル・スパークを……」


退屈極まりない授業と眠気を乗り越えた昼休み。俺は友達とご近所の他愛もない話で盛り上がっていた。


タケ爺は近所で有名なホラ吹き爺さんであり、彼の言葉の9割は嘘であると囁かれている。その中に隠された一握りの真実を見つけ出すのが、今の俺と彼の密かなブームである。


今の所、俺の中で有力なのは『タケ爺40ヤード走で4秒2を切った説』と『家の地下に“ワンピース”が眠っている説』。彼の一押しは、『かつてとある山奥まで攫われた大統領令嬢を助けに行った説』である。タケ爺PS5買ったのかな。


「兄さん」


よく通る静かな声。思わず二人で仲良く肩を震わせ振り返る。

いつの間にか気配も無く、背後に我が従妹殿が立っていた。下級生が2年の教室に入ってくることは中々珍しいので周囲が注目し、物珍しそうにこちらの様子を伺っている。


「…水無月、サン。どうかしたのか?」


「葵です」


「ん?」


突然の自己紹介につい動きが止まる。そのまま彼女は腰を折ると顔をゆっくりと眼前に近づけてくる。…今朝も思ったが、距離が近い。


「私は兄さんの従妹です。なので、名字はいささか他人行儀な気がします」


「はぁ……」


「葵」


「…………」


「りぴーと」


欠片も揺らがぬ瞳でこちらを貫く顔は珍しく眉根を寄せている、様な?変化が分かりにくいので、恐らく。多分。


…言っていることはまあ、分かる。分かるが年頃の男の子にとって、たとえ従妹といえど異性の名前を気軽に呼ぶというのはある種の気恥ずかしいものがあるもので。


「………あお、…妹よ、君もタケ爺がアロガント・スパーク食らったっていう話するかね?」


「私が兄さんにかけたいのはマッスル・グラヴィティです」


殺す気じゃん。


「まぁ、それは追々」


「え、マジでやられるの?」


「お弁当、食べましょう?」


そう言って首を傾げて小さな包みを掲げる水無月改め葵。断る理由も無いので、俺も素直に弁当を取り出してから、ふと気づいた。


「イモ、ウト……?」


隣で俺たちのやり取りを聞いていた友達が口をだらしなく開いて未だ唖然としている。…これは面倒なことになる。


彼が再起動する前に俺は周りからの逃亡も兼ね、葵の背中を押してさっさと退散することにするのだった。





「美味しいです」


「それはどうも…」


少し外れの暫く使われていない空き教室の中で二人で弁当を広げる。

今朝、俺が作ったもので彼女のものと中身は同じであるが。


「…………」


もぐもぐ。小さな口で一定の速度で食べ進める葵。朝は眠くてよく見ていなかったが細い割に割りと健啖家だ。一つ彼女のことを知れた気がする。


…けれど彼女の考えは依然として読めない。


従妹だというのが真実だとして、何故入学して数ヶ月経ったこの妙なタイミングで現れたのか。

同じ学校に通っていたのに、俺が何故その存在を全く知らなかったのか。


従妹なんてそういうものなのかなと納得しかけたが、母さんの弟であるおじさんのことは俺も知っている。

いくら何でもどこか不自然ではないだろうか。


「兄さん?」


「え」


気づけば彼女が目を丸くしてこちらを不思議そうに見つめている。いや、見つめていたのは俺の方なのか。


「食べたいのですか?」


「は」


「どーぞ」


そう言って、彼女が俺に卵焼きを差し出してくる。今にも零れ落ちそうに危なっかしく揺れるそれを思わず口にしてしまって。


「……美味い」


「ですか」


「………うん」


作ったの俺なんだけどね。どこか満足そうにこちらを見つめる彼女に、何だか毒気を抜かれてしまって。


「…聞いてもいいかな」 


気づけばその言葉はするりと俺の口から飛び出していた。

葵が食べる手を止めて俺の目を真っ直ぐ見つめる。


「どうぞ」


「どうして俺に急に関わろうと思ったんだ?」


「おばさんの言葉通りです」


「え?」


言われた意味が咄嗟に理解できず、阿呆みたいに口を開ける俺。そんな俺に目を細めて、葵は何処か皮肉げに口角を歪めると口を開く。


「お目付け役ですよ」


会話は終わりだと云わんばかりに葵がさっさと食事を再開する。


…どう解釈すればいいんだろうか。こないだ倒れたことで母さんが不安になって差し向けたと、単純にそれだけのことなのだろうか。

それだけで年頃の女の子がよく知りもしない異性と一緒に暮らすなんてことを易々と了承できるものだろうか。


うんうんと考え込み始める俺と、それを肴に無表情で黙々と弁当を頬張る葵。


気づけば何だかんだ鐘が鳴るまでそのまま二人で会話もない、けれど苦とも思わない、そんな妙な時間を過ごしてしまうのだった。







「…………」


囲まれている。


殺気を纏った数多の気配が自身を仕留めようと虎視眈々と機会を窺う。少しでも気を抜けばその刃は容易く俺の命を刈り取るのだろう。


一際強い風が吹いた。吹かれた落ち葉が微かな音を立て舞い上がる。


それが合図だった。


「すきありいぃぃ!」


近くの茂みから小さな影が飛び出してきた。

奴の名はテツ。小学校手前にして〈光の剣聖〉の異名を欲しいままにする数年後が心配な猛者である。


跳躍した彼が持つ二振りの聖剣〈天地無用〉が勢いよく俺の頭上へと遅いかかる。


「甘い」


しかしそんなダンボールから取ったような名前のなまくらに遅れをとる俺ではない。


スパァン!


「なにィ!?」


テツの頭上に付けられた紙風船が、俺が振り向きざま放った横薙ぎの一閃によりけたたましい音を立ててその身を散らす。


「ば、バカなぁ!」


大げさな動作の後、無念そうに膝をつくテツ。しかしこれで終わりではないだろう。


「かかったなアホが!」


迎撃のため振り向いた俺の背後。その死角から滑り込んできたのは齢6歳にして〈第六天魔王〉の異名で呼ばれる強者、トモだ。


「ふん。やはりな」


「っ!?」


だが、惜しいかなそれも読めている。お前たちは二人で一人。常に完璧なコンビネーションで動く《テツ&トモ》なのだから。


何でだろうなどと思うまい。その完璧主義がそのままお前たちの弱点なのだ。


「させるかぁ!!」


「!?」


俺が横に身を翻そうとした刹那。脱落したはずのテツが俺の膝にしがみついてくる。

捻った腰が嫌な悲鳴を上げ、一瞬身体の動きが鈍ってしまう。


「おま…それは、反そ」


「しねぇぇ!」


「くぅ!?」


微塵の容赦の無い一撃が俺の脳天に炸裂し、堪らなく膝をつく。それを皮切りに戦況を伺っていた他の子供達まで一斉に飛び出し俺に襲いかかる。


「やれー!つぶせー!」


「めをねらえー!」


「…、なんかめざめそうっ……!」


蹲る俺に叩き込まれる慈悲なき攻撃。子供達に苛められていた亀はこんな気持ちだったのか。救いを求めようにも、俺に浦島太郎はいない訳で。


「ちょ…、痛っ……待て……いったっ……やめ………うぐっ」


もうやめましょうよぉっ!命がもったいない!!


いい所に入った一撃に思わず悶絶するが、子供達の猛攻は止まらない。何か恍惚とし始めた子もいるし。


この子達の未来のため俺が負けるわけには……!




「そこまで」


「「「っ!?」」」


複数の異なるタイミングでの一撃。それをまさかの一太刀で容易く止めてみせたのは浦島ではなく、先程までベンチでこちらを見つめていた従妹殿。俺が子供達に混ざってはしゃぎまくっていた辺りから既に呆れでその目は死んでいる。


鋭い眼光が子供達の身体を貫き、皆石像の様に全身を硬直させる。


「やりすぎです。弱いものいじめは感心しませんよ」


そう言うと中心で振り上げていた新聞紙を軽く一振り。手元でくるりと回転させ腰に差す葵。その流麗な一連の動きは子供達の心をわし掴むのは十分だったようで。


「「かっけぇ……」」


「ふっ」


ドヤァ…。無表情でどことなく満足そうにポーズを決める葵。テンションは低いけど割りとノリは良いのかもしれない。また一つ彼女のことを知れた。けれどその視線が俺に戻された時には既にその瞳から一切の温もりは失われており。


「…で。兄さんは何をやっているのですか…?」


絶対零度の呆れ顔。下から見上げるとスカートとニーハイの間から覗く絶対領域が眩しい。


まあ、少なくとも子供達の遊びに付き合ってあげた優しいお兄さんに向けるものではなかった。



「ほら」


「ありがとうござい…」


激闘を終え、ベンチで休む長閑な一時。


自販機で買ってきたブラックコーヒーを差し出すと、素直に礼を言って受け取…俺がもう片方に持つカフェオレをじっと見つめる。


「…………」


「…………」


そーっと差し出した手の左右を入れ替えてみる。


「ます」


何事も無かったかの様に再起動して受け取る葵。思わず鼻を鳴らしてしまったことを、しっかり聞き逃さなかったらしい。じろりと睨まれたので誤魔化すために俺も缶の蓋を開け、中身をあおる。苦い。何となくのイメージでブラックを差し出してしまったが、味覚は年相応らしく、何故か不思議と安心する。


「元気な子達だよな」


「はい」


「あの二人の名字、知ってるか?」


「はい?」


その体力は底知らず。相も変わらず、走り回るテツ&トモを指して問いかける。


「織田と羽柴って言うんだぞ」


「ほう……!」


分かりやすく、彼女の瞳に興味が浮かんだ。うん。やっぱり中身は年相応だ。そんな子供達の元に一人の少女がやってくる。二人と仲が良いもう一人の幼馴染だ。小さな悪戯心を押し隠して、隣に笑ってもう一度問いかける。


「あの子は…言わずとも分かるな?」


「徳川ですね…!」


「いや?松平」


「…………あぁ…………」


テンションだだ下がり。多分、そっちかいって思っているのだろう。まぁ、豊臣もいないし。


からかわれた事に少々お冠なのだろう。整った顔にシワを寄せるその様子はさっきまでよりも幼く見えて可愛らしかった。


和らいだ空気の中、そのまま暫し無言でコーヒーを傾けていると、手の中のカフェオレを小さく揺らしながら、葵から話しかけてくる。


「兄さんは」


「ん?」


「世話焼きですね」


「…そう、だな」


「顔が広い」


「………」


買い物帰りだろうか。迎えにきた家族と一緒に手を振るテツ&トモに手を振り返し、その反対側から歩いてきた顔見知りのお爺さんにも軽く会釈していると葵が小さく話しかけてくる。


…自覚は有る。けれどそれは昔からそうだった訳ではないと思う。


それは小さな強迫観念のように俺の身体を突き動かし、この町に多くの絆を作り上げた。


悪いことなんかじゃない。しかし、それは必ずしも俺が自ら望んで求めたものではないことも確かで。


だけど、不思議と理由は分かっていた。だから受け入れた。




「…夢のなかでさ」


「え?」


「顔も見えない女の子がお礼を言ってるんだ。笑って。…泣きながら」


そう。始まりはそれだった。


「ありがとう。ごめんなさいって。多分、俺はその子を探してるんだと思う」


人助けをしていれば、いつかあの笑顔が見つかるんじゃないかって。


「…顔も分からないのに?」


「分からないのに」


そう。いつか


「…いつか会えると信じて」




「…何だかんだいつの間にか、それが馴染んじゃったのかもな」


「………」


前を向いた葵が小さくカフェオレを呷る。


昨日今日逢った相手に聞かせる話でもないけれど、葵は茶化すでもなく、最後まで話を聞き続けた。その空間は不思議と心地よくて、どこか馴染みの有る気がして。


いつの間にか俺は、話が終わっても日が沈むまで他愛もない話を彼女に振り続けて、彼女は黙ってそれを聞いてくれていた。





「ん…?」


一日の報告を兼ねて手を合わせていると、無言で葵が隣に並んで座る。おずおずとした様子で俺の顔を覗き込んだ。


「私も良いですか」


「勿論」


人一人分、身体を横にズラすと、細い指先が線香を一本摘みとって、弱々しく揺れる蝋燭で火を灯す。二本に仲良く並んだ光を見つめていると、手を合わせ終えた葵が静かに口を開いた。


「…あの」


「写真、無いんだ。産まれてこれなかったから」


「……ぁ…」


俺の姉さん。詳しい話は聞いていないけど、母さんが産むことが出来なかった女の子。

生きていればもう大学生だろうか。


「………」


葵は何かを言いかけたが、そのまま口を閉ざし、何かを考え込む様子で俯いてしまった。踏み入るべきではないと考えたのだろうか。


…優しい子だ。表情が薄くて何を考えているのか分からないなんて言ったけど、決してそんなことはない。彼女なりに歩み寄ろうとしていることは今日一日で充分伝わってきたから。




なら、後は積み重ねていけばいいだけだろう。


「葵」


「………ぇ」


「これから、よろしくな」


「…ぉに………」


丸くなった目を瞬かせてこちらを見つめるその顔は、確かに年下で、妹なのだと思わせるあどけないもので。


「…………なまえ……」


「うん?」


「ずるいっ……」


拗ねたように顔を背けるその姿に思わず声を上げて笑ってしまって。


これから、確かに今までと違う何かが始まるのだと。

不思議とそんな確信が有った。












「………………」


彼が眠っている。


彼。兄さんが。


魘されている様子は無い。そっとその髪に手を差し込んで緩く撫でる。深い眠りにつけているのか身じろぎする様子も無い。


「兄さん」


私はいつも通り振るまえていただろうか。

彼を困らせていないだろうか。戻した手は未だに微かに震えている。それを握りしめ、深く呼吸を吐き出す。


「…………」


昔の私はよく笑い、よく泣く子供だった。いつも一つ年上の従兄のお兄ちゃんにくっついてばっかりで。


それも小学校も高学年に上がろうという頃に終わってしまったけれど。


想い出と共に。







甲高い音が耳を劈いた。振り向けば物凄い勢いで車が突っ込んでくる。


公園の入口にいたはずの私の眼の前に。


避けられな──


『葵っ!!!』


激しい轟音が辺りに響き渡る。周りがあっという間に騒がしくなる中、私は尻もちをついてただ眼の前の光景を見つめていた。











過労で意識が朦朧としていたという運転手が突っ込んできたその事故は、二人の小学生を巻き込んで怪我を負わせた。


庇われた片方は幸い膝を擦りむいただけで済んだけれど、もう片方は──







手術中と書かれたランプが弱々しく灯っている。


お父さんと一緒に私はそこにいた。慌ただしい足音が段々と近づいてくる。でも私は俯いたまま。膝を抱えて震えていることしか出来ない。


『っ総護!!』


お兄ちゃんのお母さん。私にとってももう一人のお母さんみたいに優しい人。


でも今はお父さんと何やら揉めていて。

酷く同様するおばさんをお父さんが落ち着かせていたのを今でも覚えている。


そして、気づけばおばさんが私を睨んでいた。


あの優しかったおばさんにそんな目を向けられたことが、何処までも恐ろしくて。自分が取り返しのつかないことをしたのだと思い知らされて。


『私から…総護まで奪わないでっ……!!』


お父さんがおばさんの名を強く呼ぶ。ハッとしたおばさんは口に手を当てて、言ってはいけないことを言ってしまったと、後悔した様子で崩れ落ちてしまって。


ごめんなさいと、おばさんはすぐ謝ってくれたけれど、多分その時の私にはもう、何も届いていなかったんだと思う。


頭がグルグルして、足元の感覚も希薄で。

その後は…どうなったんだろう。気がついたらベッドの上で膝を抱えて泣いていた。


スカートはビショビショで、既に涙は枯れていた。





…お兄ちゃんの手術は成功したらしい。今は安静にしているけれど、私は会うことを許してもらえなかった。

いや、許す許さないの話ではない。それは多分、お父さんの優しさだったのだろう。






「303号室…」


その日、ついに我慢出来なかった私はお父さん達に黙ってお兄ちゃんの病室を訪れていた。キョロキョロと辺りを見回す私を周りが不思議そうに見守っている。


「あった!」


お兄ちゃんの名前の書かれた札を見つけて、音を立てないようにそっと中を窺う。


一言でもいい。お礼が言いたかった。

助けてくれてありがとうって。怪我をさせてごめんなさいって。


ベッドの上で、頭に包帯を巻いて外を眺めていたお兄ちゃんがこちらに気づいてくれた。元気そうだ。たまらず笑顔が込み上げてくるのが自分でも分かってしまう。


お兄ちゃん。お兄ちゃん!ああ、何から話そう。お礼を言って。ごめんなさいをして。あと、あれかな。最近、近所のお爺さんが実は自分は忍者の末裔なんだぞって言いだした話とか。


「お兄…」


「…キミは誰?」














荒々しい騒音を立てて、病室を飛び出した。廊下は走ってはいけません、などという注意書きもものともせずに。途中、おばさんらしき人にぶつかって呼び止められたけど、何もかもどうでもよかった。


走って走って、家に帰ってベッドに飛込んで。耳を塞いで閉じこもった。何時間か。何日か。誰かが話しかけてきた気がしたけど、全て拒絶した。


でも生きている限り、お腹は空いてしまうもので。扉を開けたら、直ぐそこにはまだ温かいご飯が用意されていた。いつ出てきてもいいように何度も作ってくれていたのだろう。それを一口口にしたら、枯れたと思っていた涙がまたポロポロとこぼれ落ちた。


涙や鼻水を垂らして啜り泣く私を、構わずお母さんは優しく背後から抱きしめてくれた。また、私は迷惑をかけてしまったんだ。




その日、私は笑顔を失くした。







…この町にはやけに世話焼きの男の子がいる。そんな噂を聞き始めたのはいつのことだっただろうか。

足腰の悪いその老人の荷物を運んでいるその男の子の姿を見て、思わず身体が強張った。

その男の子は私がもう会ってはいけない大切な人だから。

前と変わらない元気な姿。前と変わらない明るい笑顔。


お兄ちゃん。


声をかけたい。でも許されない。開きかけた口を閉ざして、踵を返す。






返したはずだった。


「(…あの人はそこまで世話焼きだっただろうか)」


気づけばまた別の人の元に駆け寄って声をかけている彼の姿に、私は違和感を拭えなかった。


商店街では色んなお店の人と仲良さげに話して。


公園では子供達に囲まれて、一緒に遊んで。


困っている人を見れば一目散に走り出す。




どこか自分すら省みないように。




「(兄さん)」


あれから。結局、私は声もかけず、けれど去ることもできず、彼を遠くから見つめ続ける長い日々を過ごしていた。それは多分、傍からみればストーカーと言われたところで一切否定できない程に。


だけど、おかげで確信できた。




彼はやはりどこか歪んでいる。


あの世話の焼き方は以上だ。昔、と言ってももっと小さい頃だが、あの日まではあそこまで過剰ではなかったはずだ。


「…何事も無ければいいのですが」


私は願っていた。


その懸念がどうか間違いでありますように、と







晴れて高校生になったある日のこと。その日は教室の外が何やら騒がしかった。何事だろうか。お弁当を食べる手は緩めずにぼーっと教室の入口を眺める。


「あーちゃん」


「どうしました?」


人混みを抜けて、飲み物を買いに行っていた友達が帰ってきた。何やら事情も知ってそうなので、取り敢えず聞くだけ聞いてみる。


「それがね、2年生の方が倒れたそうなんです」


「ほお」


成る程そんなことが。


「ほら、よく噂にもなってる…」


「え」


噂?


「世話焼きの先輩!」



世話焼き。




──兄さん?







「…久しぶりね、葵ちゃん」


「はい」


その日、私は遂に覚悟を決めて、家でおばさんと対面する機会を設けていた。


私達が直接顔を合わせるのはあの事故の日以来だろう。


「…………」


「…………」


「…大きくなったわね。その上、こんなにキレイに…」


「ありがとう、ございます」


「…………」


「…………」


何を話せばいいんだろうか。こうなる前はあんなに仲良しだったのに。情けなくてまた泣いてしまいそうだ。


「ね」


「は、はい」


俯いた私を見かねたのかおばさんが声をかけてくる。緊張と恐怖で凝り固まった私の心を解すのは、あの日とは程遠い、いつものおばさんの人懐こい声。


「…抱きしめていい?」


「は」


返事をする前に、私は既におばさんの腕の中にいた。お母さんと同じ温もり。柔らかい。大きい。


そして、震えていた。


「……ごめん」


「え」


「っゴメンねぇ〜〜っ……」


啜り泣く音が耳元で聞こえてくる。


…逃げていたのは私だけではなかった。きっと彼女も、何度も何度も連絡しようとしてくれたのだろう。自分がしたことを何年も悔い続けて。そして今、それを吐き出してくれた。


「………」


未だ若々しいその背中に、私も手を回す。力を込めて、お互い掻き抱くように強く、強く。

会話は無い。おばさんの泣き声だけが静かな空間に響いている。



けれども、あぁ、終ぞ私は泣けなかった。





「はぁ〜〜〜…」


「おばさん」


「あぁ〜〜〜…」


「おばさん、息が。息が、おばさん。おばさん。息…が、かふっ」


「あらら、ゴメンね」


私の生命の危機を察してくれたおばさんがようやくその飽満なお胸から私を解放してくれる。

懐かしい光景。昔はよくこうしてもらった。

いつも元気なおばさんがこの時は何だかいつも遠くを見つめている様で。少し不思議だったことは覚えている。


「懐かしくて、つい」


先程よりも緩いけど、またふわりと抱きしめられた。頭を撫でる優しい手付きは今でも変わらない。


「…あの子のことよね」


「はい」


多くは語らない。あの日から、兄さんの何かが変わったことは当然おばさんも気づいている筈だから。


「んー…、私もまさか倒れるまでとは思ってなかったんだけど…」


「………」


「でも、本当にいいの?……総護は葵ちゃんのことを…」


「覚悟はできています」


彼がこれ以上無理をしないようにお目付け役として傍に置いてはくれないか。

私がおばさんに連絡したのは、このワガママを聞いてほしかったからだった。




彼を歪めてしまったのは私だから。彼の傍で彼を支える。お目付け役として。いつか彼が歪みから解放される日が来るまで。例え、彼にとってもう私が赤の他人でも。






…違う。


そんなもの全部言い訳だ。


私が傍にいたいだけだ。あの日、自分を救ってくれた兄さんを、今度は私が救えたらと、そう思うから。


お目付け役だなんて。どの口が。むしろその役目は兄さんのほうだ。もうこれ以上離れることに耐えられない弱い私の面倒を彼がみることになるかもしれないのに。


ああ、だけどお願いします。貴方の傍にいさせてください。いれるだけでいいのです。いたいのです。うまく笑えなくなった私にとって、誰かを笑顔にできる貴方は光だから。

例え、それが歪みが生み出したものでも、その優しさは紛れもなく、元々貴方の中に有ったものだから。


きっと、私も歪んでいる。多分、兄さんよりも。




「……うん。じゃあ、お願い。あの子のことを見ていてあげて。あ、あの子には私の華麗な話術でうまいこと納得させとくから」


身勝手な想いをひた隠し頭を下げた私のお願いを、暫しの逡巡の後、おばさんは受け入れてくれた。







「水無月葵です。よろしくお願いします、兄さん」


ポカンと口を開けた兄さんが私の目の前にいる。

声が震えないように注意を払っていたけれど、思った以上に私は緊張している。心臓がバクバクしてどうにかなりそうだ。


「かわぃ……」


「はい?」


「いやゴメンナンデモ」


しまった。兄さんの言葉を聞き逃した。迂闊。


色々と事情を説明した後、現在兄さんはおばさんと話している様子だ。上手く説明されているはずだが、兄さんは何故か唖然と携帯を見つめていた。


「あ〜、…水無月、さん?」


「はい」


水無月さん。よそよそしいその呼び方が思いの外辛くて、涙が出てしまいそうだったが、まだ何も始まっていない。気を引き締める。


「…取り敢えず、部屋作ろうか」


同せ、同居は受け入れてもらえたらしい。流石おばさん。

私は兄さんの部屋でも一向に構わないけれど。構わないけれどっ。



「ったく。私は大丈夫だって言ってんだよ。それをあいつはいつもいつも……」


「はぁ」


グチグチと。眼の前のお婆さんが文句を垂れている。止まらない。

助けを求めようにも、兄さんは荷物を持ってくるため遥か下に行ってしまっている。


「あんたもそう思わないかい?」


「ソウデスネ」


頑固な方だ。素直にお礼くらい言えばいいのに。


「お待たせ」


漸く兄さんが帰ってきた。…また無理をしていないか、それとなく兄さんの様子を観察してみる。お婆さんの憎まれ口を笑顔で聞いている兄さんに変わった様子は無い。


「兄さん。そろそろ」


時計を確認する。遅刻は避けられないだろう。


「待ちな」


立ち去ろうとする私達をお婆さんが呼び止めた。

すわ、また文句かと思いかけたがどうやら違うらしい。


口を開いては閉じる妙な動きを繰り返すお婆さん。


「………ほら!」


バシィっと掌に勢いよく飴が乗せられた。これは。


「「…………」」


「ほれ、何やってんだい早く行きなっ遅刻するよ」


………………


「ふっ」


「あんた今鼻で笑ったかい」


「まさか」


鋭い眼光から逃れる様に二人して背を向け走り出す。

ありがとね、という言葉が微かに聞こえた気がした。


「………面白い人だろ?」


嬉しそうに兄さんが微笑みかけてくる。カッコいい。

人助けも悪くない。柄にもなくそう思える瞬間だった。







公園の真ん中で仁王立ちする兄さん。その周りでは多くの子供達が兄さんの隙を突こうと様子を窺っている。


「…どうしてこうなったんでしょう…」


ベンチで寂しく独りごちる。一緒に帰ろうと誘われて、これはもしや放課後デートか!と浮かれていたあの気持ちを返してほしい。

まさか可愛い従妹より子供を選ぶとは。子供達に群がられて流れる様に輪に入っていった兄さんを止める事など私には到底無理な芸当である。


「嬉しそうでしたね…」


お婆さんを助けて、子供達に頼られて。その時、いつも兄さんは嬉しそうに笑っていた。


私は兄さんは何か無理をして誰かを助けているのではないかと思っていた。


けれど、それは違う気がした。


少なくとも、今の兄さんは本当に楽しそうだからだ。


例え、本心ではない憎まれ口を叩かれても。


例え、子供達に叩かれても。


例え、子供達に蹴られても。


例え、子供達に袋叩きにされても。


例え………………






私は溜息をつくと、ベンチの横にあった新聞紙に手を伸ばした。





公園で兄さんと話してから、私はずっと悩み続けていた。


彼の歪みの根源。それはあの日の私だった。


その子は私です。そう言えば全ては解決するのだろうか。

それとも、お前のせいで、と嫌われてしまうのだろうか。

そもそも兄さんは私の事を覚えていないのに、そんな都合よく思い出すものか。


勇気が出ない。出てくるのはただただ言い訳だけ。

あの日から私だけ何も変われていない。


お風呂を済ませて部屋をでると、線香の独特な匂いが鼻をついた。


私はそっとそこに足を踏み入れた。


静かに手を合わせる兄さん。その先の仏壇には何も飾られていない。


「(…これは)」


けれど、兄さんの様子からして決して無意味なものではないことは分かる。


理由はよく分からない。分からないけれど、私も祈らずにはいられなかった。










「(写真が、無い?)」


産まれてこれなかった。そうか。そうだったのか。


おばさんは私を抱きしめる時、いつもどこか遠くをみつめていた。

その理由が漸く分かった。


ああ、私は何て───


あの日のおばさんの慟哭。もう一度喪うことの恐怖。自分は何も知らずにあの人にそれを味わわせようとしたのだ。睨まれて当たり前だ。


「(おばさん)」


なのに、あの人は再び私を抱きしめてくれた。時を経て、もう一度歩み寄ろうとしてくれた。家族として。何て強い人だ。…私はずっと逃げてばかりだったのに。


過去の想い出が走馬灯の様に駆け巡って。


「(兄さん)」


私も、もう一度戻れるだろうか。


いつか、他人ではなく。もう一度、家族として。

あの日の笑顔を取り戻せるだろうか。


取り戻して、いいのだろうか。




「葵」


「────」


一瞬、それが自分の名前だと気づけなくて。

横を見れば兄さんが私を見て微笑んでいる。

あの頃と何も変わらない、太陽の様に私を照らす、笑顔。


「これから、よろしくな」


「……ぉに…」


お兄ちゃん。お兄ちゃんっ。お兄ちゃん!


何もかもかなぐり捨てて兄さんに抱き着いてしまいたかった。

けれどそんなことできる訳がない。今の兄さんにとって、私はただの水無月葵で、私は彼を支えるためにここにいるのだから。


「…………なまえ……」


なのに


「うん?」


あの日の兄さんと何も変わらなくて、甘えてしまいそうになる。


頭がぐちゃぐちゃで何も考えられなくて。どうして兄さんは


「ずるいっ……」


そんな子供みたいな文句を言うことが精一杯で。

声を上げて笑う兄さんを、せめてもの意趣返しとして睨むことしか出来なかったのだった。



あの頃から、色んなものが変わってしまったけれど、

これから確かにあの頃と違う何かが始められるのだと。


不思議とそんな確信が有った。



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