第六話
ソフィアはアネットについて考えを巡らせていた。
アネットは家族がソフィアのことをずっと前から冷遇しており、ソフィアはそのことをずっと気にしていたと説明していた。
気になるのはずっと前という点だ。兄が言うには2年前からソフィアは派手な格好をしており、その頃から4階の誰も使っていない部屋に閉じこもり出したといっていた。あの殺風景な部屋はソフィアの本当の部屋ではなかったということだろうか確認してみなければわからないが、兄が嘘をついているようには到底思えない。
そしてアネットは奥様が奥様がと何かにつけて奥様、ソフィアの母のことを持ち出してソフィアにどんな酷いことをいってきた、やったとだから私がお守りしていたとソフィアに対して告げていた。確かに兄のことを大切に思っているようだが、ソフィアに対しての悪意はこの数時間では感じられなかった。
ではあの日記はなんなのだろうか、あの日記には小さな頃からアネットがそばにいたと書いていたがどうやら違うようだ。うーんどうしたものか迷う。なぜならこの1週間アネットは本当に親切に接してくれていたし、寝る前に体を優しく撫でてくるのが少し気持ち悪いなってくらいで別にそのままでも良かった気がしてきた。
「あの、ソフィア様ですよね。私のこと覚えていますか」
考え込んでいると横から高めの声が聞こえてきた。どうやら気づかないうちに隣に誰か座っていたらしい、隣を向くと白いドレスを着た長い茶髪に碧眼の可愛らしい女の子がいた。白いドレスを着ていることから、同じ16ということが読み取れる。しかもソフィアの知り合いらしい、覚えているかと聞いたということは久しぶりの再会といったところか、なら覚えていないといっても問題ないだろう。
「すみませんどちら様ですか」
「あの時から私たち随分と体が成長しましたものね。わからないのも仕方がないわ。私はリリアーネ・ライムと申します。ソフィア様とは2年前のハリソン公爵夫人の茶会以来です」
また2年前だ。それにリリアーネ・ライムと言ったらライム伯爵の一人娘で、たしか領地は避暑地で多くの貴族が夏やってくるとゲームで紹介されていて、ヒロインもデートイベントで訪れたことがあったはず。
ソフィアはゲームでは顔が描かれていなかったから気づかなかったと思った。
「それはとても失礼をしました。実は最近記憶が曖昧でして昔の友人や知人をあまり覚えていないんです」
ライム嬢はすごくショックを受けたような顔をしてこちらを見つめてきて、手を取り
「まあなんてこと。私達とても2年前は仲良くしていたのよ」
といった。どうやら仲が良かったらしい、アネットの信頼が揺らいでいる今、新しい情報源をソフィアは求めていたので微笑みながらこういった。
「ライム様私も記憶をなくしたことは本意ではありません。なので私とまた友人になってくれませんか」
「ライム様だなんて寂しい呼び方しないでソフィア様、私のことはリリと呼んでだって私たちもともと友人だったんですもの、これからもね」
自分の選択は間違っていなかったなと思いソフィアは過去のことを聞こうと思ってリリに尋ねた。
「リリと私はいつ頃初めてあったんですか」
「うーん、正確にはわからないけれど5歳ぐらいの母にに連れられた茶会であったのが初めてかしら。ねえそれよりソフィア、記憶が曖昧ってことは私以外のことも忘れてるのよね?みんなあなたのことを心配していたのよ、会いに行かない?」
「もちろんよ、私も会ってみたいわ」
もっと聞いていたかったが、しょうがない社交界には人脈が必要不可欠なのだ。単純に友人がほしいというのもあるが。
リリに連れられて談話室らしきところに連れてこられた、そこには今日デビュタントの令嬢だけではなく同世代の令嬢がたくさんいたのでリリに紹介してもらった。
「皆様、覚えている方もいらっしゃるかしらソフィア嬢ですわ。記憶が曖昧で皆様のことを忘れてしまったそうなんです。私達とまた仲良くしたいそうなんですがどうですか?」
とリリが聞くと最初はザワザワしていたが、きっとスペンサー家だからだろうが快く迎えてくれた。
中でも好感を持って接してくれたのはクリスティーナ・リディオスだ。彼女もリリと同じく仲良くしていたらしくとても優しく接してくれた。今度3人で集まろうと約束をしたところで12時の鐘が鳴り響いたのでお開きとなり、ホールをぶらついていると母にひっつかままった。
「もうどこに行っていたの。ギルは妹を置いて一体何をしているんだか、ソフィア今日はもう帰るわよ」
「はい、お母様」
帰ることにした私たちは入り口を出てすぐに父と兄を見つけたどうやら待っていたようなので一緒に馬車に乗り込み、ソフィアはどっと疲れが来ていて眠ってしまいそうだったが横の兄にもたれるわけにはいかないと気を張り背筋をなんとか伸ばしていた。すると突然今まで黙っていた父が急に話しかけてきた
「ソフィアそろそろ4階から出てきてもいい頃じゃないのか。当時お前はなぜか性格が変わったようになって部屋に閉じこもったから、そっとしておいてやったが今日の様子を見る限り大丈夫そうだしせめて食事くらいは一緒に食べないか?」
「考えてみます」
「そうだな考えてみてくれ」
とにかくアネットを問い詰めなければ何も始まらない、もしかしたら前世の人格が入ったのもアネットが原因なんじゃないかと思えてきた。
あの日記はなんだったのか、うーんわからなくなってきた。とにかくアネットは怪しいという結論が出たところでちょうど邸宅に帰り着いた。ソフィアは、この1週間何をするにもアネットを呼んでいたが今回は呼ばずに静かに自室のある4階へと階段を登りはじめた。
「お嬢様!」
3階まで登って4階へ続く階段に足をかけたところで焦ったような引き攣ったアネットの声が下から聞こえた振り向くと、歪んだ顔のアネットがいた。この1週間そんな顔は見たことがなかったため驚いて声もソフィアは出せなくなってしまっていた。それが余計にアネットの何かに触ったのだろう、素早くソフィアの元まで来て怪我をしていないか確認するように体を触りながら言った。
「どうして私を呼ばなかったのですか??あっもしかして奥様に何か言われましたか?それとも夜会で汚らしい奴らにベタベタと触られたとか?何か嫌なことがあったんですよね、私にバレるのも嫌なくらい嫌なことがあったんですよね大丈夫ですよ。このアネット、どんなお嬢様でも受け入れますだから何があって私をすぐに探さなかったか理由を話してくれますね」
ここまで一息である。怖い怖すぎるこのメイド絶対こいつのせいだなとソフィアは確信した。とりあえずここで言い争うのはまずいしちょっとこのメイドの情緒が怖いので自室に戻ることにしよう。
「理由は話すけれどまずは部屋に戻りましょう慣れないことをして疲れているの」
「そうですよね、お嬢様に無理をさせるわけにはいきません早く戻りましょう」
良かった戻れるみたいだここで理由を聞くまで離さないとか言われたらどうしようかと思った。
ソフィアはほっとして階段を登って自室までたどり着いた。部屋に着いたソフィア達は机に座って話すことしたのでアネットは紅茶を入れに行った。
さあどうしたものかとソフィアは考え始めた眠気なんかさっきのやり取りでとうになくなってしまっているため眠たいとも言いずらい。ソフィアは困っていたため、とにかく疑問をぶつけて再び信頼に足りる人物かをソフィアは見極めなければいけない。
考えているうちにアネットが戻ってきて、ソフィアの目の前に紅茶を置き向かいの椅子に座った。
「さあ、話してくださいなんでもいいですよ」
「今夜の夜会はとっても楽しかったのよアネット、私友達もできたの。何にも嫌なことなんてなかったわ」
ソフィアはニコリと微笑んで明るく言った。反対にアネットの瞳のハイライトはどんどん失われているがソフィアは気づかず、リリのことなどを話している。
「ではなぜ私をすぐに読んでくださらなかったのですか?」
「もう夜遅いでしょうだから、迷惑かと思ったの」
アネットは迷惑という単語を聞くと手で机を叩いてそんなことないと呟き、
「お嬢様のことで迷惑なことなどこの世に一つとしてありはしません!!!」
と大きい声で言い切った。
「あ、ありがとう」
ソフィアはとりあえず引き攣った笑顔でお礼を言った。
「お嬢様、私の目を見てください!!!」
「え、うん、わかった」
アネットは少し長めの茶髪の前髪を右手でグシャリとあげて、左手はソフィアの肩においた。
ソフィアはアネットってやっぱり美人だなぁなんて考えながら不思議な色合いの瞳を見つめた。
「き、ない、わたしの、、、ちか、、どうして、どうしてどうしてどうしてどうして、運命なのに、、運命なのに運命運命運命運命運命私だけの私の私の、ソフィア様は私が見つけた私だけの女神様でしょ?!?!!!」
ソフィアはやば、地雷踏んだと心の中で頭抱えた。