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第二話

片開き扉の中の部屋は縦に長く、両端に奥に続くようにドレスが並べられていた。

ドレスとは言っても宝石が縫い付けていたり、派手な色合いではなく、落ち着いた色のさも普段着ですと言ったものが大半だ。

ドレスの下にある数個の箱は靴だろうか。

一番奥の中央には大きめの鏡がついたドレッサーが置かれており、化粧品だろうかカラフルな小瓶や、木彫りで装飾が施された可愛らしい箱などが机の上に置かれている。メイドがこちらを振り返りお座りくださいと言った。

私はドレッサーの前の椅子に座り始めてこの体の主の顔を恐る恐る見た。それまで夢現な気分だったのが一気に現実になった気がした。それほどまでにこの体の顔は美しかった。

そして不思議だが、これは私だという実感がした。この体での過去の記憶は全くないないはずなのに私はこの身体で今日まで生きてきたという確かな確信が頭を駆け巡り私は転生したと知ったのだ。

そうして鏡を見つめていた私の肩をメイドが優しく撫でた。そして今日も同じでようございますかと聞いたので、私は静かに頷きまた鏡の向こうの自分を見つめた。それにしてもこの顔は綺麗だ。肌と髪を見て薄々感じていたが、これほどとは正直おもっていなかったわかりやすいように詳しく説明すると目はぱっちり平行二重で大きく澄んだアクアブルー。髪と同様プラチナブランドの睫毛もマッチが乗りそうなほど長く多い。鼻は鼻筋がスッと通っており唇は淡いピンクでとにかく整っているのだ。

鏡の自分に見惚れている間、メイドは何か液体を手に取っているそして私の顔に塗り出した。

どうやら液体ファンデーションのようなものらしい。そして粉を叩いた後目を瞑るように言われ瞑ると何か筆のようなもので瞼に何かかかれていた。他にもたくさんされた気がするが、忘れてしまったので割愛する。


目を開けて良いと言われ開けるとそこにはあの可愛らしい美少女はおらず、アイラインで吊り上げられた目に愛らしい唇は真っ赤にオーバーリップでギトギトと言ったいかにもなきつい女がそこにはいた。思わずメイドを振り返ると、満足そうな顔をしており、今日も完璧に擬態できていますねと言った。擬態とはどういうことだとは思ったもののまだこの身体での人格を掴めていたかった私はとりあえず微笑んでおくことにした笑顔はいくらしても損にはならないので。次は服装ですねと言われ、まだ薄いワンピースなことを思い出し、メイドがどこからか引っ張り出してきた真っ赤でド派手なドレスを着た。コルセットは始めて体験したが、身体が細くあまり苦ではなかった。胸に詰め物をし始めた時には少し心苦しい気持ちになった。

ないわけではないと主張したい、目立たないだけで。

そして髪を高いところでゆわれ、まばゆいこれまたド派手なアクセサリーをつけられた。

そして完成した私はいかにも金持ちで高飛車そうな女である。

女は化粧と服装でどこまでも変われるというがここまで変われるものだろうか、このメイド侮れない。

メイドは軽い朝食を持ってくると言って出ていこうとしたので慌てて呼び止め、いつまでもメイドと呼ぶのも失礼だと思ったので名前を聞いた。メイドは驚いた顔をした後少し笑って忘れてしまったのですか?と言いアネットだと名前を教えてくれた。

私は衣装室から出て机に座り、アネットが朝食を持ってくるまで日記を読んでいた。

読んでわかったことは今世の私の名前は、

ソフィア・スペンサーというらしい。

侯爵家の一人娘らしいが、両親はソフィアがきついメイクと高飛車な言葉遣いをし始めてから、後継の兄ばかりを優先しソフィアは問題児として腫れ物扱いされて育ったようだ。日記にはどうして、私の心を見てと何度も書いているでもそれも専属メイドのアネットが登場するまでの話でアネットが良き相談相手になってくれていて、時に姉のように、時に友人のように接してくれているらしい。

というところまで読んだのだが、アネットが来てしまったため先に朝食を食べることにした。

アネットが持ってきてくれたのは簡単なサンドイッチだった。紅茶を淹れてもらい、朝食を食べた。サンドイッチに挟まっているレタスの瑞々しくシャキシャキとした食感が私の頭を冷やし癒した。紅茶も侯爵家の茶葉とあってとても香り高くアネットの技術もあるのだろうがとてもおいしかった。食欲なんてとても湧かないと思っていたのに、いざ美味しいものを目にするとペロリと食べてしまった自分に呆れた。

アネットには朝食の食器を片付けてそのまま下がるようにといった。

アネットがいなくなったので日記の続きを私は読むことにした。

ソフィアは、その可愛らしい顔のせいで小さい頃から同年代の令嬢たちからの嫉妬の対象になることが多かったようだ。

だからアネットに頼み込んでこのような姿にしてもらっているらしい。ふんふんと読み進んでいると私いやソフィアは気づいてしまった。

この王国暦とかいう謎の西暦、ソフィア・スペンサーという名前そして度々日記に登場する見覚えのある固有名詞、あれこれドキプリで見たことあるやつだ、ソフィアって悪役令嬢の名前ではなかっただろうかと。

そして急いでアネットを呼び今日の日付とソフィアの年齢を聞いた。それがこの体に目覚めてからの数時間である。

アネットによると今日は5月20日だそうだ。そしてソフィアは今年で16になるという。

ここでわからない人にドキプリのストーリーの説明を軽くしておこう。

まずドキプリのヒロインは貧しい男爵令嬢である。デフォルト名はフィリア・オースティン。

プレイヤーはヒロイン目線でゲームを進めるのでほとんど顔を見たことがない。スチルでも顔が映されたことはない。たいてい後ろ姿である。そんなヒロインが16歳の時物語は始まる。

まずたいていこの世界の貴族たちは、子供の頃から同年代との関わりを持っているそれは茶会だったり、親同士のつながりだったりと様々だ。しかしヒロインは家が貧しかったので社交の場に出たことがなかった。

先程貴族の幼少期のことを少し説明したが、16になるまでは夜会には参加できないという決まりがある。

なのでまあ大抵、社交シーズンの始まりである初夏、5月27日の王宮である舞踏会に新しく16になる者たちは参加し大人の仲間入りを果たすのだ。

ヒロインもといフィオナは、ワクワクしながら舞踏会に参加して攻略対象の二人と、ファーストコンタクトを取る。ここまでまでがプロローグ。この時点で悪役令嬢はまだ登場しない。


察しのいい人は気づいたことだろう。そうソフィアは前世の記憶と引き換えに今世での記憶を失っており、原作開始まであと1週間しかないということだ。

ソフィアは赤く塗られた長いつけ爪をカチカチさせながら、良くもない頭を回転させた。


そして思いついたのだ。別人になろうと!もとより悪役令嬢はそんなに物語に関わっているわけでもないし、実際別の人格が入っているわけだし、この擬態を解けば、もうただの美少女ではないかと考えたわけである。天才的発想にさすが現代人と自画自賛した。

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