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第一話

昼間でもこの広葉樹の生い茂った森は、入ってきたものを全て覆い隠すかのように暗く、まるで夜のようだ。この森に入ってどのくらい時間が経っただろうか。もうわからない。

足を綺麗に見せるためのハイヒールもこの湿ったぐちゃぐちゃの地面ではまるで役に立たず、脱いで放ってきてしまったため裸足だ。湿った木の葉がまとわりつき気持ちが悪い。

枝や石のせいで傷がつきヒリヒリと痛みが増すこの足は、昔の私が見れば悲鳴をあげそうなものだとひとり自重する。

体力をつけようと今まで努力をしたが所詮は小娘。

慣れない暗い森を何時間も歩けば体はすでに限界だ。自分の呼吸音が酷く煩い、なんでこんなことになってしまったのだろうか。ああ恨めしい。全ては完璧な作戦だったはずなのに。なんで?どうして?そんな思考が止まらない。

また私はこんなところで終わってしまうのだろうか。

いや絶対に諦めてなるものか。

今回こそは幸せになるってあの子と約束したのだから。もう何もない私にできることはあきらめないことだけだから。

私は乱暴に手で額の汗と泥を拭った。







突然だが、私は所謂転生者というものである。

前世は交通事故によってあっけなく終わってしまった人生だったがなかなかに充実していたように思う。

思い残すとするなら奨学金の返済がやっと先月終わったばかりなことだ。これからと言う時に死んでしまったが、まあ死とは突然訪れるものだし他に私の人生を語るとするなら外せない作品が一つある。其れがこの第二の人生の舞台ともなった

〜ドキドキ!平凡なあなたもプリンセスに!〜

通称ドキプリ、恋愛シュミレーションゲームであった。私が高校生の頃に出会ったこの作品は、所謂乙女ゲームとしては珍しく攻略対象が二人しかいないのだ。青春のほぼ全てのページに乙女ゲームが描かれている私にとって、そんな珍しいゲームはする以外の選択肢が見当たらなかった。


ドキプリはスマホアプリで、基本は無課金とかなんとか書いてる割にはキャラの過去や誕生日、好きなものなどキャラの情報を得るには課金が必須でしかもキャラを攻略するための知識は最低プロフィールを知っていないとダメだという無課金者には全く優しくないゲームだった。高校生だったこともあり攻略対象二人のプロフィールを見るだけにとどめた否とどめるはずだったのだが、私はこのゲームにズブズブとハマり、バイトのシフトを増やして、悪役令嬢以外の全てのキャラ7人の課金コンテンツをコンプしてしまっていた。


それほどまでにこのゲームは沼だった。世間での評価こそあまり高くなかったが、世界観の設定も細かく作者の愛情を感じたものだ。キャラデザも当然のごとく良く、何度スチルで悶えたか覚えていない。

さっき私は転生者だということを告白したと思います。察しの良い人なら気づいていますよね。そうですドキプリの世界に転生しました!

しかも悪役令嬢に成り代わってしまったのです。

そしてここからが本題です。よくある転生者が悪役令嬢に成り代わって更生!とかあるけど原作開始1週間前に私の意識がよく知らない悪役令嬢の体に入ったいや目覚めたなんて厳しすぎると思いませんか。

ベラベラとゲームのことを語ったわけだが、このゲーム悪役令嬢の影が他と比べてびっくりするほど薄いのだ。この話をするには攻略対象の話をしなければなるまい。

まず一人目、このゲームの舞台である

シュッツガルド王国の第一王子

ユリウス・シュッツガルド

二人目は、この国の公爵家の嫡男

クロード・ジャクソン

あれ、クロード攻略してもプリンセスになれないじゃんとおもった人もいるだろう。そうなのだこれはタイトル詐欺みたいだけど、このルートは血染めの王座にクロードが座る。つまり内乱を起こし、ユリウス含め王家を皆殺しにして主人公をプリンセスにしてくれるのだ。

肝心の悪役令嬢だがただ毎回主人公が綺麗に着飾ったところに現れて嫌味を言って貶すこれだけである。これじゃ悪役令嬢というよりただのモブみたいなものなのだが、容姿は本当に典型的な悪役令嬢でこれがまたメイクがきついので毎回主人公はオロオロしてしまう。

そんな悪役令嬢だったので私は大して興味も湧かずはいはいといつも早送りしていて、課金もしていなかったのだ、これが今の私の首を絞めてしまっている。


さて、私の意識がこの身体で目覚めてざっと数時間といったところだが起こったことを思い出していこうと思う。

最初に目覚めたのはおそらくこの体の元の主の自室であろうカーテンからほんの少し光が漏れていて、ベットと丸い机と椅子そして大きな本棚という殺風景な部屋だった。部屋は広く、どの家具も高そうな印象をうけた。私はベットで目覚め酷く混乱したのを覚えている。なぜなら普段の私なら絶対に着ないような薄いシルクのワンピースをきていたから。そして何より痩せていて、肌が驚くほど白く綺麗だ。胸下ぐらいまである髪は緩くカールのかかったプラチナブロンドこれはもうだれ?ってかんじである。死んだとおもったのに違う人間になっていたのだ混乱もするだろう。枕元にある懐中時計によると朝7時と言ったところだろうか。

何か顔がわかるものはないかと探したが、鏡は見当たらない。

引き出しが二つついたシンプルな机の上にはだいぶ年季が入ってそうな分厚い本があった。

開いてみるとどうやら日記帳のようだ。文字は日本語ではない、雰囲気はゲルマンっぽい。なのにすらすら読める。しかしこの日記帳はずいぶん古そうに見えるが、まだページが半分ほどしか埋まっていなかった。

不思議に思いながらページをめくっているとノックの音後ろから聞こえた。

どうやらこの部屋の扉を叩いているようだ。


コンコンコンコン


心臓がバクバク煩い、ノックの主が扉を開く数秒がとても長く感じた。


ガチャ


入ってきたのはメイドのようだ。クラシックなメイド服を見に纏い、髪を後ろでひとつにまとめている。顔立ちは綺麗めな涼しげな美人だ。この体の主人は、朝が苦手だったのかメイドは驚いた顔をしておはようございますと言ってきた。

そしてカーテンを勢いよく開け、朝の身支度の手伝いをメイドはすると言った。本当は記憶がないとかなんとか理由を作ってこの体のことを聞くべきだとは知っていたがメイドがさもそうするのが当然だという態度だったのでその雰囲気に私は飲まれてしまい、開きかけた口を閉じて頷いた。仕方のないことだオタクは美人に弱い。メイドは部屋の隅にある片開き扉を開いた。気が動転していたのでそこに扉があることに私は気が付かなかったが、どうやら衣装部屋らしい。

私は鏡があることを期待しながらメイドに倣い部屋の中に進んだ。


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