55話 至福の時間
「エルミッヒさま、あ~ん」
ベロニカに焼きカルコタウルスの肉を食べさせてもらう。
うん、おいちい。この肉、相変わらずの旨さである。
狩りはひと段落ついた。今は帰る前に栄養補給しているところだ。
「キャロ。喉が渇いた」
地べたに座ったまま、口をパカンと開ける。
俺は一歩も動かない。少し手を伸ばせば水が入ったコップに手が届くが、そんなことはしないのである。
「水すらも自分で飲まないのかニャ!?」
キャロはゴチャゴチャ言うが、何の文句があるというのか。
俺はご主人様らしく奴隷に仕事を割り振っているだけなのだ。
「極端すぎるニャ。このご主人様には、真ん中というものがないかニャ」
キャロのおかげで、俺は奴隷に頼ることを覚えた。
ならば全力で寄りかかってやるのが主人の勤めである。
「おしっこがしたい。誰かズボンを下げてくれ」
飲ませてもらった水を口の端からタレ流しながら言う。
飲んだら出す。これ当然のことね。
「とんでもなく、グウタラなご主人様になってしまったニャ……」
キャロ君。発言には責任が伴うのだよ。
覚悟を決めて俺のチンチンを引っ張り出してくれ。
「ちゃんと持ってないと自分にかかるぞ」
ベロニカに肩を貸してもらい、キャロに放水の角度を決めさせる。
この背徳感がたまらない。
夜の営みのメニューに付け加えるべきだな。
「せめて食べ終わった後にして欲しかったニャ……」
完全に出し切ってから収納させる。
なんというか、いろんなものが満たされた瞬間だった。
「よし、キャロ。水を出すから手ぇ洗え」
そう言って地面に向けてジャジャジャと水を出す。
なかなかの気遣いだな、俺。
奴隷の主人としての風格がでてきた感じだろう。
出せる水の量だって、以前と比べて確実に増えている。回数もそうだ。
少しずつだが、成長を実感できて嬉しい限りだな。
「俺が水出せてよかったな、キャロ」
「触らなかったら手を洗う必要もなかったニャ」
言い返してくるキャロを鼻で笑う。
メシ食わなければウンコしなくていい、ぐらいの愚かな発言だな。
やってしまった事実は変わらない。それにどう対処するかが重要なのだ。
「ふ~、食った食った」
その後も食べさせてもらい、もう満腹である。
なんとも優雅な昼食だった。
「エルミッヒさま。ほほに汚れが」
ベロニカがハンカチでふきふきしてくれた。
たぶん肉汁がついていたんだろうな。
なんとも主人思いの奴隷頭である。
「ベロニカ姉さんが、この男をダメ男にしているニャ……」
キャロがなにか言っているが、聞く耳など持たないのである。
これからしこたま働くんだ。
ちょっとぐらい甘えたってバチは当たらないだろう。
「じゃ、そろそろ帰るか」
気持ちを切り替えると、リュックを背負う。
チンタラしてると肉が腐っちまうからな。
とっとと帰ってみんなで解体しねえと。
調子に乗って十五頭も狩ってしまった。これじゃあ切るのも売るのも大変だぞ。
涼しい場所に保管すると考えても、数日で売り切らないとダメになってしまう。
借金取りだけじゃなくて、俺たちも売り子をしなきゃならないだろうな。
何頭かはギルドに引き取ってもらうか。
「スカイフック!」
街まで続くヒモを出現させる。
仕留めたカルコタウルスを、バンバンフックで街へと流していくのだ。
「キャロ。最後の一頭につかまれ。それで街までノンストップだ」
「切り替えの早いご主人様だニャ。ついていけないニャ」
スカイフックなら、いくらでも吊るすことができた。
普通のフックとトリプルフックで四つまでかと思いきや、回数制限なしである。
これは集団戦にも役立つな。
吊った敵はとりあえずスカイフックに乗せとけばいいんだから。
「おら、次が最後のカルコタウルスだぞ。乗り遅れたらお前だけ歩いて帰ることになるぞ」
「ヒドいご主人様だニャ。さては気持ち悪いって言ったこと根にもってるニャ」
うん。チンコが生暖かくて気持ち悪いって言われた仕返し。
よく分かってるじゃん。
「覚えてろニャ!」
そう捨て台詞を残して、キャロはカルコタウルスと共に流れていった。
面白いなアイツ。
見てて飽きないから好き。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「はい」
左手でベロニカを抱き寄せ、フックで街へと滑って行った。