54話 順調に成長
ベロニカとキャロをのせ、スカイフックで山を登っていった。
やはりというか、俺の手に負担はそこまでかからなかった。こうやって使うことを想定していたかのような能力だ。
「すごい。もう山頂が」
「速いニャ!」
瞬く間に山を登り切ってしまった。
あんなに苦労して歩いてたのに一瞬だ。
しかし、この移動方法、ベロニカもキャロも怖がる素振りが見られないな。
度胸あるね君たち。死にはしないだろうが、落ちたらタダでは済まない高さと速度なのだが。
まあ、落ちてもフックで吊るだけだけど。
俺さえ落ちなければ、いくらでもリカバーできる。
鼻が痛いかもしれんが、命に別状はないから問題ないだろう。
「おまえら疲れてないか? いったん休憩するか?」
ずっとつかまるのも大変だしな。
奴隷を気づかうのも主人のつとめなのだ。
「大丈夫です!」
「楽しいニャ!」
どうやら休憩の必要はなさそうだ。
ならば一気に行ってしまおう。カタコタウルスの狩り場まで一直線だ。
確認したいこともあったしな。この際どんどん調べてしまおう。
確認したいこととは目標地点の更新だ。
スカイフックで滑りながら、新たに目的地を追加したらどうなるかが知りたい。
やってみるべく可能な限り高度を下げ、速度も落とす。
失敗して擦りむきでもしたら大変だからだ。
俺は痛いのはあんまり好きじゃないのだ。
「目的地変更! スカイフックよ俺たちをさらに先へ!!」
その言葉に反応してヒモが一本追加された。
いま滑っているヒモの先に分岐がひとつ出来たのである。
最初からあったヒモは山頂近くの木へと繋がっている。
その手前からもう一本、横へ伸びているといった感じだな。
これ、大丈夫かな? フックが分岐部で引っかからない?
さらに速度を落とす。フックはゆっくりと分岐部へ到着すると、特に引っかかることなく新たにできたヒモへと進路をかえていった。
おお~。さすがだ。
宿屋で試した感じでは大丈夫だと思ってたけど。
ただ、あのときと若干違うのが気になるな。
あのときは目的地へ伸びるヒモそのものが動いていたのに、今回は新たに分岐が作られた。
たぶん、これもなんかしらの意味があるんだろうなあ。
「うわあキレイ」
「デッカイ水たまりニャ!」
ベロニカとキャロが叫ぶ。
俺たちは山頂を通過し、下りへと向かっていた。
眼下には、たくさんの木々に囲まれた美しい湖が広がっていたのだ。
たしかにキレイだ。
湖は太陽の光を反射して輝いて見える。
また、埋め尽くす木々の中を一本の道が走っている。その上空を俺たちがフックで滑っているわけだ。
やべーなこれ。
まさに鳥になった気分てやつだ。
「エルミッヒさま最高です!」
ベロニカの言葉に同意するばかりだ。
まさか生きているうちに、こんな体験をするとは思いもしなかった。
「チンコがあたってるニャ!」
……それは知らん!
密着してるんだからあたりめ―だろ。
ガタガタぬかすと鼻フックで引きずっていくぞ。
「このまま、カルコタウルスのいる草原地帯まで一直線だ!」
「はい!」
「生暖かくて気持ち悪いニャ……」
フックはより速く軽やかに進んでいくのであった。
――――――
「フン!」
俺がヒモを引くと、カルコタウルスが三匹まとめて吊り上がった。
普通のフックで注意を引きつけておいて、トリプルフックで吊り上げるという前回の進化版である。
その吊ったカルコタウルスを、群れに見つからないように迂回させつつこちらへ引っ張ってくる。
「さすがエルミッヒさま! ここからは私が!!」
「だめだ! 触るんじゃない!!!」
トドメを刺そうとしたベロニカを止めて、カルコタウルスの腹部にナイフを突き立てた。
俺が殺さんと成長できんからな。俺はもっともっと強くなるんだ。
ナイフを何度も何度も突き立てる。
クソ! 固い。なにが腹が弱点だ。全然刃が入っていかないじゃないか。
同じ位置を数回突いて、やっとカルコタウルスの心臓に到達した。
ベロニカのやつ、よくこんな固てーのを解体してたな。
肉はやわらけえのに、外側がカチコチだ。これメチャクチャちからがいるぞ。
「エルミッヒさま。私たちがやりますから……」
「ぜんぶ一人でやってるニャ」
そんなこと言ったってしょうがない。
フックの能力は俺しか使えないし、成長のためには俺がトドメを刺さなきゃならんのだ。
今回はカルコタウルスの解体はしない。血抜きだけである。
スカイフックで吊って帰るだけだからな。街でゆっくりバラせばいい。
だが、そうなってくると、ベロニカもキャロもすることがない。
ひとり奮闘する俺の姿をホゲ~っと見てるだけである。
「エルミッヒさま……」
「ご主人様はアタシたちのことを信用していないのかニャ?」
キャロの言葉で手が止まった。
信用?
いや、してるが。
こうして狩りに集中してられるのは二人に守ってもらっているからだからな。
本体の脆弱性は俺が一番理解している。
しかし、そうか。
他人には信用してないと映るのか……。
う~ん、ちょっと考え方を変えた方がいいか。
こいつらには、いざというとき身をていして守ってもらわないといけないしな。
壁役が強ければ強いほど、俺の身は守られるのである。
俺の変化などたかが知れてる。
自分でも悲しいほど、ステータスの数字が上がらないのだ。レベルとやらは上がっているのに!
それなら壁を強化した方が効率的かもしらん。
それにそもそも、奴隷に働かせて主人が楽するのが本来の使い方なわけで……。
「わかった。おまえらに任す。俺がバンバン吊るからトドメと血抜きをやってくれ」
なんか俺らしくないなと思いつつも、人の扱い方を少し学んだような気がしたのだった。




