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穴があったから入れてみた  作者: ウツロ
二部 ヒモがあったから引いてみた
48/68

48話 口数の多いネコ

「おまえらあんまりガッつくな」


 宿屋の食堂にてみなでメシを食う。

 七人ともなれば、なかなかの賑わいだ。


「うまいニャ!」

「こんな美味しいものは初めて食べたっス」


 奴隷どもは、ホクホク顔で言う。

 そりゃそうだろう。ラビットバードだけでなく、カルコタウルスの肉までふるまっているのだ。

 こんな豪華な晩餐は、奴隷どころか庶民だっておいそれとはありつけない。


「この肉はな。カルコタウルスっつー牛の肉だ。当面はコイツの串焼きをおまえたちに売ってもらうことになる」


 カルコタウルスならコンスタントに狩れるだろう。

 こいつを売って資金を稼ぐ。

 ほんとうは串焼きになんかせずギルドに売っちまった方が楽チンだが、それじゃあこいつらの仕事がなくなっちまうしな。

 まずは屋台で経験と実績を積んで、徐々に店を大きくしていくのが俺のプランだ。

 大きな(あきな)いってものは、信用と実績あってのものだからな。


「肉なんて売ったことないニャ……」


 猫耳娘は不安そうな顔をする。


「いや、おまえは狩りの手伝いをしてもらう。売るのはそこのムサい男どもだな」


 猫耳娘の口の悪さは、どう考えても客商売に向いていない。

 盗賊に転身した元借金取りも似たようなものだが、まだマシだろう。

 少なくとも、表面上はつくろえるはずだ。


 彼ら元借金取りたちには、いずれ金貸しの方に専念してもらう。だが、それまで屋台でキッチリと働いてもらうしかない。

 借り手のハードルをさげるためにも、せいぜい笑顔の勉強でもしてもらおうか。


「ムサいとはひでえなあ、アニキ」


 借金取りのリーダー格は、俺のことをアニキと呼ぶようになった。

 その子分どもはボスだ。

 俺が将来のビションを示した瞬間、この変わりようである。


 やりやすくなった反面、チョロすぎて不安になる。

 それにこの呼び名は、俺が悪者みたいでどうかと思う。

 俺はあくまで善良な商売人になるのだ。汚いことはこいつらに押しつけるのだ。

 たとえ俺が汚いことに手を染めたとしても、表向きはこいつらがやったことになるのだ。


「狩りなら得意ニャ!」


 荒れ狂っていた猫耳娘の方も、今では従順である。

 フックの一本釣りが、よほど(こた)えたのだろう。


 うむ。お前には期待しているぞ。戦いや護衛はもちろん、夜の勤めもな。

 俺に気分転換が必要なように、ベロニカにだって体を休める日がいる。自分の意思ではどうにもならない日だって定期的にくるのだ。

 そこは奴隷同士支えあってもらいたい。

 



――――――




「じゃあ、留守は頼んだぞ」

「ヘイ! いってらっしゃいアニキ」


 翌日、さっそくカルコタウルスを狩りに出た。

 新鮮な肉をたらふく持って帰るのだ。

 その間、借金取りどもは、屋台の入手や場所の選定に動いてもらう。


「眠いニャ」


 猫耳娘が目をこすりながら言う。

 それはこちらのセリフだ。

 おまえは薬でさんざん眠らされていただろうが。


 ちなみに部屋は男女で分けた。

 俺とベロニカと猫耳娘、元借金取りどもの二部屋だな。

 部屋の広さも、ベッドの数もまだ余裕がある。女奴隷もあと二人ぐらいは増やせるだろう。


「一晩中ギシギシいってて眠れなかったニャ」


 猫耳娘とは、まだ仲良ししていない。

 ここ一番のタイミングを見計らっているところだ。

 奴隷にも順位付けは必要だろう。奴隷頭がベロニカで、猫耳娘はその下だ。

 序列をわからせるためにも、ベッドを分けてベロニカとタップリ気持ちを確かめ合ったわけだな。


「あんなことしてアゴが疲れないのかニャ?」


 どんどん踏み込んでくる猫耳娘だが、ベロニカは顔を真っ赤にして聞こえないフリをしている。

 なんと可愛らしいのだろうか。


「大丈夫、暗くてよく見えないから」


 昨晩は俺がそう言ってベロニカを納得させていたが、さすが猫耳族。暗くてもバッチリ見えていたようだ。

 まあ、俺は知っていたけどね。

 だから、より興奮したわけで……。


「喉が渇いたのなら水を飲めばいいニャ。あんなもの飲んだら――」

「あ、そうだ。猫耳娘。お前の名前をまだ聞いてなかったな」


 猫耳娘の話に割って入る。

 さすがにこれ以上は攻めすぎた。そういうのは夜になるまでとっておけ。


 とにかく、今は目の前の狩りに集中だ。

 狩りをするなら連携が必須なのだ。

 とっさに名前を呼ばねばならない場面もでてくる。


 まあ、狩りと言っても、俺が吊ったカルコタウルスを解体するだけだけどな。

 食肉用にひたすら切り分けるのが主な仕事だ。

 ほんとうは街でやりたい工程だが、なにかいい手が浮かぶまではこれでいくしかない。


「聞くタイミングが遅いニャ。ご主人様はエッチなことにしか興味がないのかニャ?」


 従順になっても口の悪さは健在のようだ。

 こんなにも俺は、皆のことを考えているというのに!


「グダグダ言ってねえで、名前を言え。また吊っちまぞ」

「わわわ、わかったニャ。もう吊られるのは勘弁ニャ。今度吊られたら、たぶんオッシッコ漏らすニャ」


 キタネエなあ。

 まあ、体に力が入らないってことはそうなる可能性も高いか。

 オッシッコならまだしも、ウンコ漏らされたら大変だからな。

 今回は吊るのは勘弁してやる。


「いいから早く言え」

「ふふん。聞いて驚くニャよ! アタシの名はキャログロバドガル・デンデラ・カリストコロ・フンジバル……」


 長!

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