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穴があったから入れてみた  作者: ウツロ
二部 ヒモがあったから引いてみた
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47話 エルミッヒの夢

 こうして奴隷を手にいれた俺は、宿屋へと戻ることにした。

 猫耳娘だけでなく、借金取りどもも一緒である。


 いやはや、これまた急に増えたもんだ。

 一気に大所帯(おおじょたい)である。

 というのも、この借金取りどもをギルドに引き渡すのをヤメたのだ。

 そんなことをしてもたいした金にならないからだ。

 それならいっそのこと、奴隷商に売ってしまった方がいい。その方がずっと儲かる。


 だが、それもやめた。

 もっといい活用方法を思いついたのだ。


 奴隷を売りに来たやつが、逆に奴隷として売られる。

 話としては面白いが、ウワサになってしまえば、スレーブルの商売に悪影響がでるかもしれない。売りに行く身になって考えれば怖すぎるからな。

 まあ、そんなことは、スレーブルは気にしないかもしれない。しかし、そこは気を利かせた感じだ。

 これからも彼とは、いい付き合いをしていきたい。

 清楚系の奴隷を予約したしな。入荷したら真っ先に声をかけてもらう手はずだ。

 酒場のカウンターにそっと置いた金貨もけっこう効き目があった。

 いい収入になると思えば、用心棒の男も俺に好意的になるだろう。

 こういうのは運任せにしてはだめだ。それ相応の根回しをしたやつにのみ、幸運というのは舞い込むものなのだ。

 

「お腹すいたニャ」


 宿屋についたころには、もう日が暮れ始めていた。

 猫耳娘にもう少し我慢しろと言うと、ロビーに向かう。

 奴隷どものために、もう一部屋借りるのだ。

 こいつらにはいろいろ働いてもらう必要がある。短期的にも長期的にも。

 清楚系奴隷獲得にも、一役買ってもらうつもりだ。


「では、こちらがカギになります」


 運よく、となりの部屋が空いていた。ひとまず二週間ほどの契約を結ぶ。

 こうして、手続きを済ましたあと、やっと自分の部屋の前へと戻ってきた。

 思ったより時間がかかってしまった。

 ベロニカはもう帰っているだろうか?


「ただいま」


 奴隷どもを外に待機させておいて、部屋の中へと入っていく。

 ベッドに腰かけるベロニカと目が合った。


「おかえりなさい……」


 そう言うと、ベロニカはチラッと俺のうしろを見た。

 扉の向こうにいる奴隷の気配を感じ取ったのだろう。さすが腕利き冒険者だな。


「なあ、ベロニカ」

「はい。エルミッヒさま」


 どこかぎこちない顔のベロニカ。フックで吊ったことがまだ尾を引いているのかもしれない。

 ここは慎重に話を進めるべきだろうか?

 ……いや、だめだな。こういうのは一気に行くに限る。

 主導権はつねに自分が握らねばならんのだ。


「俺さ、夢があるって話をしたよな」

「夢ですか? いえ、初耳ですが」


 突然だした俺の話題に、ベロニカは怪訝な顔をする。

 それでも、ベロニカは記憶をたどり、答えてくれる。

 かわいいやつだ。思わず押し倒したくなる。


 ちなみに俺に夢なんてものはない。考えたことすらない。

 欲しいと思ったら、すぐ行動するから。

 目標はあっても、夢なんてもんがあるはずがない。


「そうか、まだ話したことなかったか。笑われると思ったのかもな」

「……」


 ベロニカは何も言わない。

 だが、顔は真剣そのものだ。

 大事な話だと、くみ取ってくれているのだ。


「俺さ、店を持つことが夢だったんだ」

「店?」


「ああ、自分の店だ。誰にも邪魔されない自分だけの城」

「……」


「そんな理想の店を、好きな女と一緒に作り上げることができたら、どんなに素晴らしいのだろうかって」

「!!」


 その瞬間ベロニカの目がムチャクチャ泳いだ。

 たぶん、「好きな女」の部分に食いついたんだろう。

 まさか、私のこと? それとも、他に女が!? みたいに目まぐるしく思考が切り替わっているに違いない。


「これ、受け取ってくれないか。最初は大変だと思うけどさ。力を合わせれば夢はかなうと思うんだよ」


 そう言ってプレゼントに買っていたナイフを収納する革のベルトを取り出した。


「それ!」


 ベロニカは、ハッと息をのんだ。そして、自分のカバンをゴソゴソとさぐりだす。

 そうして、取り出したのは一本の革ベルト。


「わたしも、エルミッヒさまにあげようと思って……」


 なんと奇遇なのだろうか。ベロニカも同じように革のベルトを俺にプレゼントしようと思っていたのだ。

 デザインは俺が買ったのと少し違うが、解体用のナイフを数本収納できるカバーもちゃんとついているよく似た商品だ。


「ベロニカ……」

「エルミッヒさま……」


「はは、おそろいだな」

「ええ、そうですね」


「じゃあ、これを店を持つ第一歩としようか」

「はい」


 ベロニカの肩にそっと手を置く。

 ベロニカはゆっくりと瞳を閉じた。


 よし、いい雰囲気だ。今だな。


「おい! 入ってきていいぞ」


 俺の合図で奴隷どもがゾロゾロと部屋の中へと入ってきた。

 猫耳娘に借金取りと、その子分。総勢五人だ。


「え? え?」


 突然の展開にベロニカは驚いている。

 それでも、その手が腰の剣に伸びているのは、さすがというか、なんというか。


「というわけでな。さっそく従業員を雇ってきた。俺たちの留守をこいつらに守ってもらうわけだ」


 耳猫娘は連れていくけどな。

 他は留守番して、あれやこれやと動いてもらう。

 もちろん、店を持つことは本当だ。冒険者のかたわら、ガチで店の経営をやっていこうと思ってる。


「まずは露店からだな。俺たちは当面狩りがメインになる。それと行商。軌道に乗ったら店を大きくかまえるって手はずだ」


 俺のフックは輸送に優れているんだよね。狩りも行商も、相性がいいしな。

 もちろん、店だけじゃない。裏で金貸しもする。

 そこで、元借金取りどものノウハウが生きてくるってわけだ。


 最初はグズっていた借金取りのリーダーも、この話をしたら顔つきが変わった。


「ガズラファミリー? そんな誰かの看板を背負って、おまえは満足なのか? 自分の名のファミリーを持ちたいと思わないのか?」


 金貸しには元となる資金がいる。

 そこは店の売り上げから捻出する形となるだろう。

 はは。こいつらをうまく使って、裏社会にも進出してやる!!

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