45話 奴隷商との対決
「な、なにごとだ!?」
借金取りどもを身ぐるみ剥いでいたら、またまた奥の扉から人が現れた。
フードつきの青いローブを着て、首から趣味の悪いネックレスをぶら下げている男だ。
あ、こいつが店主だな。
パッと見て、そう感じた。
手にはいくつか指輪もしている。
ネックレスもそうだが、魔力のこもった品っぽい。
たぶん、いろいろな危険から身を守ってくれる魔道具なんだろう。
この手の職業は恨みを買いやすい。稼いだ金を装備品につぎ込むのは、冒険者と通ずるものがある。
とはいえ、俺のフックには効果はないだろうな。
俺も魔法使いだからわかる。
穴もそうだったが、フックはいかなる手段でも防げないシロモノだと思う。
なんつーのか、魔法とはべつの理屈で動いているというか。
実際、魔法を使ったときに減るMPとやらに変動はないしな。
俺たちが知っているコトワリの外にいるような感じだ。
まあ、なんでもいいけどね。便利だから。
「え~っと、あなたがこの店の責任者?」
うろたえてるローブの男に話しかける。
これマジ千載一遇のチャンスだと思うんだよね。
客と認めさせる以上の条件がそろっている。
「そ、そうだ。だったらどうした?」
奴隷商の男はそう言うと、チラリと用心棒のオッサンに目をむけた。
なにやってんだ。こいつを捕まえろってなもんだろう。
ところが、用心棒のオッサンは、すばやく首を左右に振った。
いや、ムリ。俺の手には負えませんぜ。みたいな感じだ。
だよね。だって、もう君たち二人の鼻にはフックがついているから。
おかしな動きをしようものなら、一気に引いちゃうから。
「この人たちから奴隷を買ったよね?」
借金取りどもを指さして言う。
ズバリと核心を突いた感じだ。これから奴隷も見たいし、あまり時間はかけていられないのだ。
「な、なんの話だ」
ところが奴隷商の男は、この期に及んでとぼけてくる。
メンドクサイな。ここは酒場だ! みたいなのはもういいから。
さっさと認めてくれないと次へ行けないじゃないか。
今度は俺が用心棒の男へと目をむけた。
彼はなにも言わなかったが、その目はもうバレてますって雰囲気を醸し出していた。
俺にわかるぐらいだ。奴隷商の男も瞬時に悟ったようだった。
「えっとねえ。この人たちガズラファミリーって言って、領主から捕縛命令がでてるんだよね。そんな人たちと取り引きしたらヤバくない?」
奴隷商の男の顔が、一瞬で青ざめた。
「し、しらん。こんなやつらのことなど知らん」
ほんとうに往生際が悪いな。
奥からゾロゾロでてきて、知らんもなにもないと思うが。
まあ、自分が捕まるかどうかの瀬戸際にきているのだから、おいそれとは認めたくないよな。
とはいえ、俺に奴隷商をどうこうするつもりなどまったくないわけで。
「う~ん、そこを否定されちゃうと困ったことになるなあ。みんなまとめてしょっ引かなきゃならなくなっちゃう」
君たちもガズラファミリーの一員てことで処理してもいいんだよ?
でも、それだと奴隷が買えなくなっちゃうからね。
君たちをしょっ引いて、ここの奴隷を全部手にいれることはできるかもしれない。だけど、そんなことしたら他で売ってもらえなくなっちゃう。
奴隷商そのものを敵に回すなんて、バカなことはしたくない。
ここはお互いが得する方針を模索しようではないか。
「俺の名はローゼル・エルミッヒ。奴隷を買いに来たのよ。で、たまたまこいつらを見つけちゃったわけ。君たちの商売のジャマをするつもりなんてサラサラないんだよね」
貴族を前面に押し出す。むしろ後ろ盾になるから、仲良くしましょうみたいな感じで攻めていく。
それを聞いた奴隷商の男は、ちょっと迷っているような印象だ。
「ほら。これを見れば分かるだろう?」
そう言って借金取りどもについている首輪を指さした。
お尋ね者とはいえ勝手に奴隷にしたんだ。
罪に問われるかどうかは微妙だが、違法っちゃ違法だ。
俺は君たちと同じ側の人間なんだよとアピールしとるわけだな。
「じゃあこうしよう。俺はこの奴隷たちを引き連れて店に来た。客としてな。だから、それなりの接客をお願いしたいなあ」
その瞬間、奴隷商の顔がニチャリとゆがんだ。
損得をハッキリ理解した顔だ。
ガズラファミリーなんて知らない。この男たちはあくまで俺の連れてきた奴隷なのだ。
違法な取引なんて何もなかったということだ。
「ローゼル・エルミッヒさま。いつもごひいきありがとうございます」
奴隷商の男は、一瞬で接客モードに入った。
なんという素早い身のこなし。この男できるな。
「うん。いい奴隷が入ったと耳にしてな」
生えてもいないヒゲをしごきながら言う。
「ささ、奥へどうぞ。いい奴隷がそろっていますんで」
奴隷商の男に案内されながら店の地下へと降りていった。