40話 よくわからんうちに、さらに進化
荷台を吊って、来た道を引きかえす。
予想通り、フックで吊っている間は車輪は軽快にコロコロと回っている。
これはあれだな。
箱の四か所にロープを結んで吊り上げて運ぶ。それが最適解っぽいな。
あるいは大きな麻袋に入れてフックで吊り上げとか。
これなら地面に擦れて破損する可能性もないわけで。
「エルミッヒさま。そろそろ山頂です」
山の中腹で一度夜を明かしたことで、日はまだ昇り切っていない。
このペースなら、日没前までに街へたどり着けるかもしれない。
何事もなければだが。
「エルミッヒさま！ 止まってください！！」
何事もなければいい。そう思った矢先だ。
山頂に人影らしきものが見えた。
吊っている荷台を止めると、頭を低くして正体を確かめるべく近づいていく。
「ゴブリンですね」
「そうだな」
山頂付近をウロウロしているのはゴブリンだった。
数は20は下らない。しかも、デカイのが数匹混じっている。
「ホブゴブリンもいますね」
「マジかよ」
向こうはまだこちらに気がついていない。
しかし、一本道。ここを通るためには蹴散らしていかねばならないだろう。
どうやら戦いは避けられそうにない。
「どうだ？ いけるか？」
ベロニカに問う。
「……ちょっと厳しいです」
「そうか」
ホブゴブリンが数匹混じったゴブリンの集団。
ベロニカといえ、さすがに正面切って戦うのは危ないのだろう。
数の差は意外とバカにならない。
狭い場所ならいざ知らず、戦いの最中に側面や背後を突かれては致命的なのだ。
カルコタウルスみたいに一匹ずつ吊って仕留めるか？
いや、それじゃあ時間がかかりすぎる。俺は日没までに街に帰りたいのだ。
「じゃあ、こういうのはどうだ？」
近くにあった巨木にラクガキをする。
これが目でこれが口でこれが鼻。すると、あら不思議。またたくまに木っぽい人の完成だ。
しかし、このまま吊るのは危ない。ちょっと離れてからヒモを引く。
「フン！」
メキョキョと音がして木が吊り上がった。
すげーな。しっかりと根を張っていたにも関わらず、木はズルリンチョと土から抜けて空へと浮いているのだ。
「うんしょうんしょ」
両手を使って手元のヒモをさらに引いていく。
それに連動して、木も空高く昇っていく。
「あの、いったい何を……」
ベロニカが聞いてくるが、今はムシ。集中力が切れると失敗しちゃうかもだし。
「ついついつい～と」
木が十分な高さになったところで移動を開始する。
移動とは言っても、俺たちがじゃない。吊った木の場所を移動させるのだ。
「エルミッヒさま。まさか……」
うん、そう。
これを落としたらあいつら死ぬかな～と思って。
「このへんかな～」
調節がけっこうムズイんだよな。
対象物がないと遠近感も狂うし。
だが、これまで積んできた、いや吊ってきた経験がものを言ったのだろうか。
なんとなく、ここだと思える位置が定まった。
「ベロニカ見てろよ～。俺、自信あるから」
持っていたヒモから手を離す。
すると木は、落下し始めるのだった。
あ、これ当たるな。
そう確信した。
ずうううん。
すさまじい音と衝撃が響いた。
俺の予想通り、ワラワラとタムロしていたゴブリンたちの頭上に木は落下したのだ。
それにともない、周囲の石や枯れ枝が衝撃ではじけ飛ぶ。
また、飛び散るその中には、直撃を逃れたゴブリンたちの姿もあった。
「むはははは。アイツ、すっげー飛んだぞ！」
一番飛んだのは一匹のホブゴブリンだ。
まるで、音にビックリした鳥のように空へ飛び立っていった。
「やべえ、ウケる」
横でベロニカがドン引きしているが、関係ない。
ゴブリンの吹っ飛びようが、面白くてたまらないのだ。
「全滅か？ あっけないのう」
しばらく様子を見ていたが、動くものはなさそうだ。
チェッ。まだまだ、吊り足りないのに。
ゴブリンの吹っ飛ぶ姿を見たからだろうか、気分が高揚して力がみなぎってくる感じがする。
なんだろうね、この万能感？
ひと仕事終えたときにたまにあるけど。
あ、そうだ。
こういうときこそステータスじゃないか？
見ればなにか気づくことがあるかも。
〇ステータス
名前 ローゼル・エルミッヒ
職業 エロ魔法使い
LV 8
HP 145/100
MP 16/8
ちから 12
知力 40
素早さ 13
スタミナ18/8
スキル 鼻フック レベル3
トリプル鼻フック
なんかいろいろ増えてる！！
