37話 レベル2ってなによ
「エルミッヒさま、あれです」
ベロニカが指さすのは、麦の粒より小さな点だ。
ここは小高い丘。遠くの草原を見下ろすかたちとなっている。
点、ちっちぇ。生き物かどうかもよくわからん。
なんでも、あれがカルコタウルスなるものらしい。
今回の遠征の目的だな。
じつは昨日はあまりにも満たされてしまい、すっかり忘れていた。
まったりとした夜が明け、日の出とともに出発。山を下り、丘に登り、キャンプを張ったところで、今日はどんなチュッチュをしてもらおうかなーなんて考えていた。
イカンイカン。
こんなことでは先が思いやられる。
本体ヨワヨワの俺は、奴隷でしっかりと身を固めなければいけないのだ。
ベロニカのチュッチュの負担を減らすためにも、もっともっと金を稼がなければ。
さて、このカルコタウルスだが、全身が青銅でできており、とても硬い。
俺が一本釣りして、ベロニカがドテッ腹を切り裂く。
それが、彼奴を討伐するのに用意した俺たちのプランだったのだ。
しかし――
「なんかいっぱい、いない?」
そうなのだ。
草原をウロウロしている小さな点は、うじゃうじゃあった。
しかも、ひとつが移動すると、それに連れられ他のも移動するといった集団行動を見せている。
「ええ、カルコタウルスは群れで暮らすんです」
「ダメじゃん」
ベロニカの言葉に思わず唇が尖んがらかる。
おまえ、俺のフックは一匹しか吊れないのよ。
あんなもん先頭の一匹を吊っても、後から来たやつらに踏み潰されるじゃない。
が、そんな指摘はとうぜんベロニカも承知のようで、次に続く彼女の言葉に納得する。
「ええ。ですので、群れから離れたはぐれを狙うんです」
あ、なるほど。だから、こうして高いところから観察しているのか。
やるなあ。さすが銀級冒険者だ。
「でも、時間かかりそう」
とはいえ、地道な作業になりそうだ。
はぐれなんて、そうそう見つからないだろうしなあ。
しかも、見つけても、そこまで距離をつめなきゃならんワケじゃろ?
群れに気をつけながら。
けっこう大変じゃない?
「ええ、数日がかりになるでしょうね」
「マジか!」
サクっとやって、サクっと帰ろうと思っていたのに。
「ですが、そのぶん実入りも大きいですよ。一頭倒すだけで、通常の依頼の数件分になりますから」
まあ、そうか。
そう考えると、割りはいいか。
しかも、ひとりで待つわけじゃないしな。
昼だって夜だってさみしくない。やることだって、部屋の中か外かだけでさほど変わらんしな。
それにフックの射程距離いかんによっては、群れでも吊れるかもしれない。
遠くで吊ってこっちまで引き寄せればいいんだ。
安全な位置で解体すればいい。
問題はどの程度の距離で吊れるかだな。
今の麦粒みたいな遠さではムリみたいだ。鼻をしっかり認識できる位置まで近づかないといけないんだろう。
じゃあ、行きますか。
――おっと、そうだ。もう一個忘れていたものがあった。
ステータスだ。
チュッチュの最中にステータスとやらを眺めていて気づいたことがある。
〇ステータス
名前 ローゼル・エルミッヒ
職業 魔法使い
LV 5
HP 100/100
MP 8/8
ちから 10
知力 30
素早さ 10
スタミナ10/10
スキル 鼻フック レベル2
初めて見たときと数字はまったく増えていない。
むしろ、あるタイミングでスタミナが一気に減っていた。俺は寝転がっているだけなのに。
これはアレか。放出したから?
ふははは、魔力かよ! とか一人で笑っていた。
そのときなのだ。ふと気づいてしまった。
『スキル 鼻フック レベル2』の文字に。
レベル2? あれ? こんなのついてたかな?
なんじゃらほい? って感じだった。
う~ん、いい機会だしベロニカに相談するか?
冒険者としては俺より経験豊富だろうし。
いや、でも、ステータスなんてものは知らないって言っていたしなあ。
相談したところで分かるはずもないか。
……まあいいか。
ちから10とかと同じで、吊れる強さが増したのかもしれん。
頑張って荷物を運んだから成長したんだろう。
ちからだって、鍛えれば鍛えるほど重いものも持てるようになるしな。
よ~し、狙うはカルコタウルス。
吊って吊りまくるぞ!




