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穴があったから入れてみた  作者: ウツロ
二部 ヒモがあったから引いてみた
36/68

36話 山の中腹にて

「エルミッヒさま頑張ってください」

「ふうふう」


「あの丘を登りきればもう下りですから」

「はひはひ」


 俺はフラフラになりながら走っていた。

 なんとか夜になるまでに山を越えたかったからだ。

 山頂は寒い。野宿をするなら、暖かくって薪がたくさんあるところがいいに決まっている。

 できれば日没までには、中腹ぐらいまで下っておきたい。


 しかし、キツイ。

 こんなことなら今日中に山を越えようなんて言うんじゃなかった。

 もっとのんびり旅を楽しめばよかった。


 というのも、当初の目論見(もくろみ)が外れ、むしゃくしゃしていたのだ。

 失敗を取り戻そうとして、さらに悪化したパターンだな。


 つまりは、荷台はフックで進まなかったのだ。

 いや、荷台じたいは吊れた。そのまま移動することもできた。

 だが、俺が乗った瞬間、荷台はうんともすんとも言わなくなったのだ。

 吊ったフックを動かそうとしてもビクともしない。車輪はキコッとも泣かないのだ。


 くそ~。いい案だと思ったのにな~。

 なんでだろうな。理屈では動きそうなのに。

 これはアレか。自分で自分を持ち上げたら、そのまま宙に浮かんでいくんじゃないかって錯覚に陥るのと同じか。

 なんてこったい。


 意気揚々と荷台に乗って、しゅっぱ~つ! とか言った俺がスッゲーバカみたいじゃんか。

 動かなかった時の心配そうに俺を見るベロニカの顔が、夢にでてきそうだよ。


「エルミッヒさま。景色が綺麗ですよ。山頂から湖が見えるんです」


 ベロニカは荷台を引きながら笑顔で語りかけてくる。

 お前はお前で、なんでそんなに元気なんだ。荷台には荷物ものっているのに。

 バケモンかこいつ。


「ちょっとタンマ」


 脇腹を押さえて走るのをやめる。

 もう無理。死んじゃう。


「エルミッヒさまは少し荷台で休んでてください。わたしが運びますから」

「いいって。自分で歩くから」


 馬車じゃないんだ。荷物と一緒に荷台に乗せられるのは遠慮したい。


「いいから、いいから」


 だが、ベロニカはとりあわない。

 俺をヒョイと持ち上げると、そのまま荷台に乗せてしまった。


「バブー」


 思わず言ってしまう。

 俺は赤ちゃんじゃねえんだよ! そんな簡単に持ち上げるな!!


「フフフ、ずいぶんおっきい赤ちゃんですね」


 笑ってんじゃねえよ!

 オッパイに吸いつくぞコラ~。


「走りますよ」

「うお!」


 ベロニカは荷台を引いて走り出した。

 慌てて枠につかまる。


「ちょ、まっ」

 

 制止する間もなく、荷台はグングン加速。

 はえ~、はえ~。


「だっ、でっ、ぐっ、でっ」


 しかも、揺れる揺れる。

 デコボコ道でジャンプもする。

 怖い怖い怖い。


「エルミッヒさま。頂上です! 景色を堪能してください!!」


 無理。


「一気に下りますよ! しっかり掴まっててください!!」


 しかも、減速なし?

 ウソでしょ!


「おわああああ~」


 俺の叫び声とともに、荷台はますます加速していくのであった。




――――――




「エルミッヒさま、機嫌直して下さい」


 ベロニカに背中を向けて横になる。

 すごく怖かったのだ。しばらく口をきいてやらないのだ。


「ほら、干し肉がいい感じで温まりましたよ」


 焚き火で(あぶ)った肉のいい匂いが(ただよ)ってくる。

 ぶじ日没までに山の中腹までたどり着き、今は岩陰で野営をしているとこである。 


「ほら、あ~んしてあげますから」


 ベロニカは俺のご機嫌を取ろうとあれやこれやと言ってくる。

 しかし、そんなことで、俺の機嫌は直ったりしないのだ。


 背中を向けたまま、ブっと屁をこく。


「ちょっと、やめてくださいよ。エルミッヒさま」


 ベロニカは抗議するが、知ったことではない。

 俺の心は深く傷ついたのだ。屁でもくらえばよかろうなのだ。


「しょうがないなあ」


 ベロニカの立ち上がる気配がする。しばらくして、背中に暖かい感触が伝わってきた。ベロニカが横になり、ピタリと身をよせてきたのだ。


「ね、機嫌直して下さいよ」


 そう言ってベロニカは俺の体を撫ぜてくる。

 フン、そんな色仕掛けにのるものか。


「チュッチュしてあげますから」


 ……なに!?

 チュッチュとはあのチュッチュか。夜の営みに欠かせないアレ。


「ほら、仰向けになって」


 されるがままにゴロリと仰向けになる。

 うむ。これは悪くない。

 満天の星空の下、ゆらめく焚き火と美しい旅の友。

 まさに冒険って感じだ。

 これ以上は望むべくもない。


「最低二回だかんな」

「ハイハイ。二回でも三回でも」


 と思ったけど、意外と望みはあった。

 体力の続く限りやってもらおう。

 人の欲望とは果てがないものなのだ。


「こっち見ながらな」

「分かってますよ。まったく、エルミッヒさまは注文が多いですね」


 そうだよ。なにか文句あっか?

 暖かい焚火とベロニカの吐息に包まれて、幸せな気分にひたる俺なのであった。

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