29話 仲良しにもいろんな意味があるよね
「ア、アニキー」
チンピラどもが冒険者ギルドの窓へと走っていく。
いってらっしゃ~い。よろしくお伝えくださいなー。
しかしまあ、みごとに入っていったもんだ。あの巨体がキレイにスコーンと。
やっぱり力を合わせれば、一見ムリそうなことも出来たりするもんなんだな。
おっと、こうしちゃいられない。
冒険者の登録をしないと。
今なら空いてるだろ。さっさと済ましてしまおう。
待たされるのはあんまり好きじゃないんだ。
――――――
冒険者の登録は無事に終わった。
なにやら窓を壊した不届きものがいるとのことで大騒ぎになっていたが、手続きじたいはスムーズだった。
よかったよかった。
俺は最低ランクの鉄からスタート。
働きに応じてランクが上がっていくんだと。
元いた場所と、だいたい同じだな。
むこうでは銅が一番下だったが、さらに下に鉄が追加された感じだ。
依頼を受けるシステムも、報酬の受け取りもほぼ同じだった。
ふ~む。不思議なもんだ。
どれほど離れているか分らんが、これほど似るもんかね?
仕組みをつくったやつが同じなのかもしれん。となると、元の場所に帰ることも可能かもなあ。
まあ、今のところ帰りたいとは思ってないけどなー。
ブラブラと街を見て回る。
商業地区、貧民地区などいろいろあって飽きない。
ふと、銀細工の店が目に留まった。窓ガラス越しに見えた、花の形のブローチが気になったのだ。
これカワイイな。
なんとなくベロニカにぴったりだと思った。
よし、買おう。
迷いなどなかった。店に入ると他のものには目もくれず、花のブローチを手にとる。
「おやじ、これをくれ!」
――――――
宿へと帰ってきた。
ガチャリと部屋の扉を開くと、剣術の練習をしているベロニカがいた。
とは言っても、剣はもちろん握っていない。
さも持っているかのように構え、腕を振るのだ。
その動きは洗練されており、思わず見とれてしまうほどだ。
突き、薙ぎ払い、袈裟斬り。
ベロニカは一連の動きを確かめるように行うと、ゆっくりと息を吐く。
そこでやっと構えを解くと、ホゲ~と見ていた俺と目を合わせた。
しかし――
ツン。そんな音が聞こえてきそうなほど彼女は顔を横にそむけた。
それから、スタスタとベッドまで歩くと、背中を向けて寝転がってしまった。
あらら。
まだ怒ってらっしゃる。
う~ん、どうしようかなあ。
とてもじゃないけど、話を聞いてくれる雰囲気じゃないぞ。
フックで吊り上げる?
いやいや。さすがにそれがマズイことぐらい俺でも分かる。
しょうがねえなあ。
「ねえ、ベロニカさん」
彼女の近くまで行くと、背中越しに話しかける。
会話での懐柔を試みる。わがスイートボイスで、なんとか機嫌をなおしてもらうのだ。
「さっきさ、俺、怖い目に合ったんだ」
ピクリとベロニカの肩が揺れた。
よし、興味を引くことに成功したようだ。ここからが腕の見せどころだな。
「ギルドに行ったんだけどさ~、デカイヒゲもじゃのオッサンに絡まれたんだ」
ベロニカは微動だにしないものの、俺の話に耳を傾けているのがわかった。
「なんかねー、通行料よこせとかなんとか言ってさ。スゴんでくるんだよ」
ベロニカは言葉を発さない。
だが、ほんの少しだけ張り詰めたような雰囲気をかもしだす。
「まあ、他の人たちと協力してさ、なんとか引いてもらったんだけどさ。もし、ベロニカと一緒ならこんなこともなかったのかなーなんて考えちゃってさ」
なんとな~く、ベロニカの身にまとう空気みたいなものが和らいだ気がした。
「ベロニカがいないと駄目なんだよ俺」
ベロニカがハッと息をのむ音が聞こえた。
来たか? これは。
秘儀、母性くすぐり作戦。相手によっては逆効果だが、ハマれば威力は抜群だ。
これで一気に切り崩せるか?
「さっきはごめんね。これ買ってきたんだ。ベロニカに似合うかな~って思って」
ベロニカのすぐ後ろに寝転ぶと、彼女の顔の前にそっとブローチを置く。
ベロニカがゴクリとツバを飲んだのが分かった。
よし、これはイケる。
「俺、ベロニカともっと仲良ししたいな~。もっと、もっと、たくさん」
ベロニカの体が硬くなる。そして、呼吸は短く早く。
「ダメ?」
その瞬間、ベロニカはクルリとこちらを向くと、俺の唇に勢いよく吸い付いてきた。
まいどあり~。
よろしくお願いしま~す。




