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穴があったから入れてみた  作者: ウツロ
二部 ヒモがあったから引いてみた
23/68

23話 痕跡

 小川にそって歩くこと数日、川幅はしだいに広くなってきた。

 川の中流(ちゅうりゅう)へとさしかかったのだろう。地面の傾斜も、これまでよりなだらかだ。

 やっと、といったところである。

 人が手つかずの大地は思いのほか歩きづらく、時間がかかった。

 また、川沿いは崖や裂け目も多く、大きく迂回する必要もあった。

 ようはメチャクチャ疲れたってことだ。


「ちょいとここらで休憩するか」


 いい場所を発見した。

 大きな岩に腰をおろす。

 ここは木々が生い茂る中にポッカリ開けた草地で、休憩するにはもってこいなのだ。


「う~ん、今日はもうここで野営しちまうか?」


 太陽はまだ真上に来たばかりだ。日没までけっこう時間がある。

 だが、これほど野営に適した場所はそうそう見つかるものじゃない。

 進むか留まるか、考えてしまう。


「あれ?」


 野営をするならどこで焚火(たきび)をするか? なんて考えていたら、地面に黒い燃えカスのようなものを発見した。

 まさか、これは!


 すぐ横には、埋め戻したような形跡があった。

 ひゃっほ~いと野良犬のように掘り返す。

 出てきたのは炭化した木が数本。

 間違いない。誰かがここで焚火をしたんだ。


 人だ! 人がいた!!

 大声で叫びそうになる気持ちをおさえ、素早く岩のカゲに隠れる。


 なぜなら危険だからだ。

 埋めたということは、焚火の痕跡を消そうとした証。

 逃亡者、あるいは人に見られたくない何かを行っている者だと考えられたから。


 しばしの時が流れる。

 人の気配は感じられない。うん、もう完全に立ち去った後だね。


 すぐ周りを確認。

 森の奥へと向かう、いくつもの足跡を発見した。

 はっは~ん。こっちだな。

 もちろん追跡。


 草の折れ具合から、足跡は比較的新しいものだと推測できた。

 息を殺してたどっていく。

 相手に見つかったら危険だ。口封じのため殺されかねない。

 しかし、追わないわけにはいかない。

 せっかく見つけた人の痕跡だ。このチャンスを逃してたまるか。

 なんとしても、人が住んでいる場所がわかるまで追跡するのだ。


 やがて、獣道へとでた。


「ムッ、足跡が増えた?」


 仲間と合流したのだろうか? 地面に残る足跡の数は、明らかに数を増していた。

 さらに、周囲の草木を見ると、ナタ、あるいは剣で切ったような断面が確認できた。

 なに? どういうことだ?

 歩きやすいように道を広げたのはわかる。だが、そんなことをしてしまえば自分たちの痕跡をさらに残してしまう。

 焚火の痕跡を消すほど、自身の存在には気を使っていたやつらだ。

 そんなことをするとは到底思えないのだが。

 ――これはひょっとして。


「血だ!」


 葉っぱについた血痕のようなものを発見した。

 なるほど。誰かが追って誰かが逃げてる。しかも、複数対複数だ。

 やっかいごとの匂いがプンプンするじゃないか。


 より慎重に慎重に跡をたどっていく。

 そうして、見つけたのはたくさんの死体だった。


 フードつきのマントをはおった、いかにも盗賊的なやつらが12人。

 みすぼらしいボロを着た女が7人。

 冒険者風いでたちの者が4人。

 相打ち……か?


 一人ずつ脈をとる。

 こいつも死んでる。あいつも死んでる。

 どうやら全滅っぽい。

 もしかしたら生き残りは立ち去ったのかもな。


 はて、困ったぞ。どうすんべか?

 誰かの後をつける作戦は一時中断だ。

 ここを立ち去るなら今すぐにだ。調査するなら早めに終わらせないと。

 血の匂いに誘われたモンスターが来るだろうし、生き残りが仲間を連れて帰ってくることだってありうる。

 難しい選択だな。


 フーと深呼吸。素早く調査することにした。

 地図的なものがないか色々見て回る。


 ムッ!

 ボロを着た女たちが首輪をしていることに気がついた。それもただの首輪じゃない。魔法の首輪だ。

 これは!

 さらに盗賊っぽいやつらのカバンを物色したら、未装着の首輪が見つかった。

 なるほど読めた。

 こいつらは奴隷の売人だ。追跡してきた冒険者と殺しあったんだ。


 奴隷の売人は全滅か?

 こっちが生き残っていたら危険だぞ。


「うう……」


 そのときなにか聞こえた。

 うめき声だ。


 声をたよりに居場所を探る。

 ――いた。

 茂みの奥。革ヨロイを身にまとった戦士風の女を発見した。

 ケガをしてる。

 けっこう深手だぞ。

 目はうつろ、このまま放置すれば死ぬのは確実だろう。

 手当しても助かるかどうか微妙なとこだ。


「おい、大丈夫か?」


 とりあえず声をかける。格好からいって、たぶん冒険者側だ。

 だが、返事はない。耳に入っていないのか、返事する力もないのか。


 助けなきゃ。

 街の場所をなんとしてでも聞きだすのだ。

 最悪死んでも、それはそれでしょうがない。

 そうして、駆け寄ろうとしたとき、あるものが目に入った。

 女のすぐそばにあるカバンだ。口が開いており、中にはたくさんの首輪が入っていた。


 これは! この女、奴隷売人側か!?

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