22話 たまには冒険者らしく
「イタタタ。まったく、しこたま噛んでくれやがって」
岩場にポッカリあいた洞穴で一休みする。
傷はそこまで深くないが、しっかりと処置しないと腐り病を呼び寄せるだろう。
傷を水で洗い流し、すりつぶしたクイラの葉をのせる。そして、包帯で強く巻いた。
クイラの葉は傷が化膿するのを防いでくれる。冒険者はみんな常備しているものだ。
「しかし、魔法使いでよかったよ」
火も起こせるし、水も出せる。
回復魔法は唱えられないけど、傷の再生を促進する魔法だって使えるのだ。
薄~く、広く。戦いには全然役立たないものの、生き延びることに関してはそれなりにやっていけるのが俺なのだ。
「ほっ! うまそっ!」
目の前で、ジリジリと焼かれていくウサギもどき。十分火が通ったところでかぶりつく。
「あつっ! でもうまっ!」
焚き火の近くに置いてるタマゴも、じき食べられるだろう。
栄養をつければ、それだけ傷の治りも早くなるってもんだ。
「問題は魔力だな」
魔力が少ない俺は、魔法を連発できない。
傷の洗浄と、飲み水を確保したら、もうカラッけつだ。
ふたたび魔法を使えるようになるまで休まなきゃならない。
この世界でも魔力は時間とともに回復するようだ。
じんわりと、少しずつ。
たぶん、寝れば回復速度は高まる。
ここに来る前と大して変わらないんだろう。
しばらくは魔力の回復、傷の再生。それに専念する必要がありそうだ。
「ステータスねぇ」
問題はもうひとつ。
このステータスってやつだ。
体の状態がひと目でわかる。それは素晴らしいことだろう。
だが、そんなものに頼ると冒険者として大事なものを失っていく気がする。
結局ものをいうのは培ってきた知恵や経験だ。
穴に頼り切って戦い方を忘れたからこそ、あんなザコにやられそうになったのだ。
ときどき確認するぐらいがちょうどいいかもしれない。
「さむっ!」
風がちょっと冷たくなってきた。
今晩はちょっと冷え込みそうだ。
いくつか石を焼いておかないとな。
焼いた石の上に土をかぶせる。その上で寝ればけっこう暖かいものなのだ。
「うまかったよ。ありがとな」
骨だけになったウサギもどきに感謝する。
これも、離れた場所に埋めておかないといけない。モンスターが匂いにつられてやってきちまう。
あーあ。俺がネクロマンサーだったらワザワザ捨てに行かずにすんだのに。
トコトコ歩いて自分で埋まって、みたいな?
さあ、今日は早めに寝るか。傷を癒したら人里を探す。これが今後の方針だ。
草原で目が覚めてから、人の痕跡をまだ見つけられていない。
そう簡単には集落にはたどり着けないかもしれない。
「まあ、なんとかなんだろ」
特に根拠はなかったが、前向きな俺なのであった。
――――――
「いいねえ、大漁だ」
人が住むのは水の近く。洞穴で二日ほど過ごしたのち、水源を探して進んだ。
そうして見つけたのが、この小川。水が透き通っていて、魚もけっこう泳いでいる。
この下流なら、人が住んでいる可能性大だ。
下流へ向かう前に、まずは食料調達。
魚を捕獲するワナをツタで編む。
が、途中でひらめいた。
あのフックって釣りで使えね? と。
結果、入れ食いである。
標的を定めると、どこからともなくフックが現れるのだ。
ほんとスゲーな、このフック。
狙った獲物は絶対に逃さないのだ。
しかも、吊り上げたら魚はグターンとしてる。なんかマヒしたみたいに動かないのだ。
最初は死んだかと思ってビックリしたが、フックを外せばピチピチ動いていた。
もしかしたらフックで吊っている間は反撃不可なのかもしれん。
さすが、最高神の能力だ。
フザけた名前だけど、恐ろしいまでの性能だ。
ただ、欠点は一匹しか吊れないことなんだよな。
複数に対応できん。モンスターと戦うならやり方を考えないと。
ちなみに、ここにたどり着くまでにゴブリンを二度ほど見た。
ゴブリンは基本群れで行動するので、もちろんスルーだ。
ほんと、あいつらどこにでもいるのな。
やたらめったら発情するもんだから、すぐ増えるんだろう。
まったく。節度をもって行動してもらいたいね。
さて、釣った魚は干物にするか。
携帯食はなるべくたくさん持っておきたい。
イザとなったら撒き餌として捨てて逃げる手もあるしな。




