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穴があったから入れてみた  作者: ウツロ
二部 ヒモがあったから引いてみた
20/68

20話 新たな旅立ち

「う、いててて」


 目を覚ますと、地面に寝転がっていた。

 どうやら気絶してしまっていたらしい。

 ザラリとした土とゴツゴツした石の冷たい感触が、背中に伝わってくる。


 上体を起こし、辺りを見渡す。

 膝ほどの高さの草花が、一面に広がっていた。


「ここはどこだ?」


 見慣れない景色に記憶をたぐりよせる。

 えっと、たしか魔王の城にいたよな。

 で、魔王を倒したあと、フォルティナとかいう神にヒドイ目にあわされたんだっけ。


 そうだ!

 穴に落とされたんだ。

 あのクソアマ。


 よくもやってくれたな。

 穴に落ちても死ななかったのは幸運だったが、そんなことで怒りが収まるわけもない。


 ……穴。穴か。

 ぼんやりと地面を見ると手をかざす。


「てい!」


 叫び、念じようとも、穴は出てこなかった。

 グッ、やはり能力を奪われてしまったか。

 なんということだ。

 たしかに、あの女は言っていた。穴の力を返してもらうと。


 チクショー。

 穴の力なしで、俺はどうやって生きていけばいいんだ。

 元の場所に帰ろうにも、魔物に襲われたら身を守るすべがないぞ。


「それにしても、本当にここはどこなんだ?」


 少なくとも魔王の城ではない。

 どこか、遠いところへ飛ばされたのだろうか?


「……え!?」


 空を見て驚いた。

 巨大な球体が七つも浮かんでいたのだ。

 あれは星だ。それはわかる。

 しかし、あんなものはこれまで一度も見たことがなかった。

 遠くへ飛ばされた、そんなレベルじゃないことは、だんだんと理解できてきた。


「ヤバイ。どうしよう」


 一瞬、気が遠くなる。

 しかし、こういうときは深呼吸だ。

 スーハ―、スーハー。

 青草と甘い花の蜜の香りが、わずかにした。


 よし、まずは状況把握だ。

 カバンは……近くにある。草に埋もれるように転がっている。

 助かった。あれには旅に必要な装備が入っているのだ。


 つぎは体だ。

 骨折はなさそうだ。視界も良好。

 出血は……。


 そのとき、視界になにかが浮かびあがった。


 〇ステータス

 名前 ローゼル・エルミッヒ

 職業 魔法使い

 LV 5

 HP 100/100

 MP 8/8

 ちから 10

 知力  30

 素早さ 10

 スタミナ10/10

 スキル 鼻フック

 


 なんだ! これは!!!


 これらの文字は、右を向いても左を向いても映っていた。

 どこに視線を変えても、ついてくるのだ。


 これは……まさか……。


 俺の目に何かが貼りついている!!!!!!


「たすけてくれ!!」


 両目をおさえると、ゴロゴロと地面を転がる。


「目が~、目が~」


 目をやられてしまった。

 もうおしまいだ。


「だれか~、だれか~」




――――――




 どうやら、目に何かが貼りついたわけじゃないらしい。

 文字は自由に出し入れできたのだ。

 消えよと念じれば消える。出てこいと念じれば出てくる。

 まったくもって謎な現象だが、目に損傷を受けたわけではなさそうだ。

 ふ~、ビビらせやがって。


 これらの文字は俺の健康状態を表しているみたいだ。

 気がついたキッカケは、スタミナ10/10の項目だ。

 俺が走ると右側の数字が減っていき、休憩すると増えてくる。

 俺の動きと完全に連動していた。

 これは便利だな。

 ちから10が多いのか少ないのかまるでわからんが、見えないよりはるかに有利なことは確かだ。

 HP、MPなど謎な項目も多いが、うまく活用すれば、この状況を乗り越えられるかもしれない。


 ……しかし、大きな疑問がある。

 意味は分かるのに意味が分からないという不可解な項目があるのだ。

 ステータスのすぐ下。

 名前 ローゼル・エルミッヒ。

 誰? それ?


 名前というからには誰かの名前だろう。

 誰ってそりゃあ、俺のだよな?

 でもこんな名前は、これまで聞いたことがない。


「他人の名前かあ~?」


 ローゼル・エルミッヒって貴族っぽい名前だ。

 俺は平民で貴族ではない。

 やっぱ、他人か。

 でも、出てる数字は俺の体調と連動してるしなぁ。


 ――ふとここで、もっと不可解なことに気づく。


「そういや、俺の名前なんだっけ?」


 そう。自分の名前がまったく思いだせないのだ。

 記憶を辿ってみても、自分がなんと呼ばれていたか分からない。

 いや、記憶じたいはあるのよね~。村で生まれて冒険者になって。

 けれど、肝心の名前がサッパリ思いだせないのだ。


 う~ん、なんだろうね?

 まあ、わからんことは後回しだ。

 とりあえず、人がいそうなところを目指して歩くか。

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