14話 いろいろ入れてみる
「陛下!」
「陛下!!」
五人オッサンが穴を覗き込んで叫んでいる。
なんだろね? ああいうのを見ると、近づいて行ってトンと背中を押たくなるよな。誰か俺の代わりにやってくんないかな?
そう期待するも、オッサンどもは仲良く「陛下、陛下」と叫ぶのみだ。
残念。まあいいや。そんなことよりこっちをやらないと。
周りを見渡すと今一度声を張り上げる。
「今からこの国の王は俺だ!!!!」
いつ粛清されるか怯え続けるのはまっぴらゴメンだ。
こうなったら、いっそのこと国ごと乗っ取ってしまおう。
下克上だ。俺は穴で王になる!
「こ、こ、こいつが陛下を」
「やれ! 皆殺しにしろ!!」
やっと状況が飲み込めたようで、五人オッサンがやいのやいの叫びだした。
状況判断が遅いなあ。
障壁があるから完全に油断してたんだろうね。危機感てやつがちょっと足らない。
しかし、皆殺しですか。
まあ、当然といっちゃ当然なんだが。かわいそうなのはリックたちだな。
その気がないどころか、計画すら知らなかったのに。
見れば四人とも顔面蒼白になっている。
ごめんなさいねー。たぶん大丈夫だとは思うけど、失敗したら一緒に死んでね。
「放て!」
オッサンの声で我に返ったのか、衛兵どもが矢を放った。
すごい数だ。まるで横殴りの雨のよう。
しかし――
「てい!」
俺が手をかざすと、周囲に穴がいくつも出現。矢はものすごい勢いで吸い込まれていった。
「な、なんだと!」
みなが驚く。
ははは、そんなもんが通用するか。
俺は穴の本当の能力に気づいてしまったのだ。
これは落とし穴なんかじゃない。俺が望むものすべてを吸い込んでくれる神の穴なのだ。
「くそ! やれ!」
こんどは魔術師どもが魔法を放つ。
電撃、炎、いしつぶてに氷塊。
しかし、それら全ても、たちどころに穴へと吸い込まれていく。
「バ、バケモノだ……」
衛兵たちは明らかに引いている。もちろん魔術師も。
そんな中、いまだ鼻息を荒くする者がいる。
五人オッサンだ。地団太を踏んで衛兵たちを焚きつける。
「なにをしておる。飛び道具がダメなら剣で切りかかれ。怯むんじゃない。いっせいにかかれ」
簡単に言うなあ。衛兵カワイソウ。
自分たちは障壁に守られてると思っているから強気なんだろうなあ。
でも、王が落とされたこと忘れてない?
とはいえ、衛兵たちに斬りかかれるのは困るな。穴に落とすしか方法がなくなっちゃう。
こいつらはこれから俺の兵隊になるんだ。なるべく数は減らしたくない。
よし、奥義を使おう。名づけて、全員ブランすでぃー!
その瞬間、衛兵たちの剣やら弓がスポンと穴に吸い込まれていった。
「え?」
「なんだ?」
とまどう衛兵たち。
――だが、まだまだ。
スポポン。
鎧とシャツが穴に吸い込まれていく。
「うわ!」
「これは……」
もういっちょ!
スポポポン。
ズボンもパンツも穴の中へ。
みんな仲良くブランすでぃーになった。
「動くな! 今度は体全体を落とすぞ!!」
俺の一喝で衛兵たちは動きを止める。
「一歩も動くなよ~。魔王をひと飲みにした穴だ。おまえらまとめて飲みこむなんてわけがないからな」
みな、人形のように動かなくなった。
よし、成功。ここまでは予定通りだ。
つぎはブランすでぃー、おまえの役目だ!
頼んだぞ!!
※五人オッサン
五人ばやしならぬ五人オッサン。
ただ、オッサンが5人集まっただけ。
それ以上でも、それ以下でもない。




