11話 次に穴に落ちるのは誰なのでしょうか?
今じゃなかった。
左ほほをおさえながら、これからのことを話し合う。
まずはブランすでぃーをどうするかだ。
「殺す……わけにはいかないよな」
「そうだな」
リックともう一人が顔を見合わす。
うん、たしかにね。ブランすでぃーを殺すのはまずいよね。
殺してしまうと国を完全に敵に回しちゃうし。
なんでもブランすでぃーは黒バラ騎士団とかいうところの団員らしい。
国直属の騎士団で、主に計略や暗殺などを手掛けているんだと。
ほんとうかねえ?
そう疑ってみるも、ブランすでぃーは銀色のタグを見せてくる。
「そ、それは!」とかリックのオッサンが驚いているので、どうやら本物みたいだ。なんてこった。
「俺から提案がある」
不敵な笑みを浮かべてそう言うのはブランすでぃーだ。
最初からこうなることが分かっていたような態度。
ちょっとイラッとしたが、まあ続きを聞こう。
「おまえたちを英雄としてむかえる」
「なに!?」
みなが驚く。
英雄……英雄。悪くない響きだ。
吟遊詩人が歌にしちゃうあれだな。
俺の偉業が未来永劫語られちゃう感じだ。
「おまえたちが魔王を倒したのは事実だ。その功にむくいるべく、国は英雄として、おまえたちをむかえる。なんらおかしなことはないだろう」
もっともらしいブランすでぃーの言い分だが、みな難色を示していた。
まあ、そうだよね。国の陰謀を知らなかったら素直に喜んでただろうが、聞いちまった以上は受け入れにくい。
気持ちがどうこうより、単純に危険だ。
「悪いが秘密を知ったからには……」
「お待ちください。誰にも喋りませぬ」
「そうか。ならば、地獄でそれを証明してみろ!」
「ぐえ~、やられタンボ~」
みたいなことになりかねん。
リックも当然そう考えたようで、聞き返していた。
「国はそれでいいのか? 魔王と取引をするのが目的だったんだろう? 俺たちはそれを邪魔した張本人だぞ」
「だからこそだ。魔王を倒せるほどのものを捨ててはおけん。つぎにどんな魔王が生まれるかわからないんだ。対処させるため手元に置いておきたいと考えるのは当然だろう」
ふ~ん。なるほどなあ。
英雄として称賛する一方で、国の監視下に置くということか。
これ、どっちみち拒否してもムダだよな。断りゃすぐに粛清される。英雄を受け入れてもほとぼりが冷めたら事故に見せかけて消される可能性大だ。
遅いか早いかの違いでしかない。
それなら従順なふりをしていた方がいくらかマシってもんだ。
「なるほど。言い分はわかった。だが、魔王を倒したと言っても、みなでじゃない。そこの――」
リックはそう言って俺を指さす。
マズイ! 慌てて割って入った。
「これはみんなで勝ち取った勝利だ! 協力し合って初めて魔王を倒せたんだ。なっ、なっ」
必死である。
俺一人が英雄とかに祭り上げられてみろ。真っ先に俺が狙われるじゃねえか。
粛清するなら強いやつからだろう。
どうせ一番弱そうな俺は後回しだ。
誰かが不審な死を遂げたら気づける。
「いや、俺たちは……」
リックがまだ、なんか言ってる。
だまらっしゃい!!!!
こういうときは、さっさと話題を変えてしまおう。
「なあ、ブランすでぃー。英雄になったら何かもらえるんか?」
「ブラン……?」
だが、ブランすでぃーは困惑気味だ。
俺の脳内アダ名に違和感をもったんだろう。細けぇことは気にするな!
あの話題は危険なんだよ。はよ! はよ!
「いいから、なにくれるか教えてくれよ」
「あー、報奨金だ。月に金貨一枚程度とたいしたことはないが」
それ安いのか?
よくわからんが、この際どうでもいい。
「おい! みんなお金くれるって!! いいじゃん。もらっちゃおうぜ!」
俺のゴリ押しでリックたちはヒソヒソ話しだした。
俺の考えていることぐらいリックなら察しているだろう。
その上で天秤にかけているに違いない。英雄になるリスク、国に飼われるリスク、逃げるリスク、そして穴に落とされるリスクだ。
どうすんだろね? 選択肢は多くないと思うけど。
逃げるなら今すぐにだ。国には帰らずブランすでぃーを殺して姿を消す。
まあ、俺は別の選択肢を考えてるけどな。
みなが相談しているうちにブランすでぃーに近づくと耳元でささやく。
「こういうのはどうだ……」
ブランすでぃーの顔が一瞬で真っ青になった。




