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箱庭のレイグラフ  作者: 深波 月夜
サンドフォーク
9/9

サンドフォークー8

陣が形になるとすぐ、ゴルは騎馬を中心としたギンの氏族の陣に向かった。心中は全く穏やかではなく、すれ違う者たちもその形相を見るなり道を開けた。リベルは陣の後方に作られた、救護所にいた。救護所と言っても、ほとんど何もない。野戦の陣には幕舎など望むべくもなく、地と泥にまみれた者がうずくまり、精々血止めをされているくらいだ。リベル本人に怪我をしている様子はなく、部下の様子を見に来ているだけのようで、そのことがさらにゴルの怒りに火を注いだ。

「貴様ら、あの様はなんだ。遅れてきた上に戦場でも役に立たんとは、ギンの氏族というのはそこまで腰抜け揃いなのか。見ればリベル、貴様も傷ひとつないではないか。いったいどういうつもりだ」

「どういうつもりとはこちらの台詞だ。敵にあんな魔導師がいるとは、何も聞いていなかった」

胸ぐらをつかみかからんばかりのゴルを見ても、リベルはこともなげにそう返すだけだった。

「魔導師だと。たかが猿の魔導師ごときに遅れを取った。そう言うつもりか」

「あの坊主頭、疾走する騎馬の横面を、素手で殴り飛ばした。そんな真似ができるやつがいるとは信じられないが、事実だ。両腕には魔術文様が刻まれていたし、間違いあるまい。肉体強化系の魔術、それも、強力なやつを使っていたのだろう。そんな奴が相手に混じっていたことを、まさか知らなかったわけではあるまい」

獲物と定めた隊商に、護衛がついている。その情報は、確かに得ていた。しかし、たかが冒険者の一団だという話だった。大きな団ではあるらしかったが、どんな者たちなのかまでは調べさせようとは思わなかった。侮っていたのだ。

「そんな化け物がいるとわかっていれば、正面から突っ込もうなどとは思わん。どうなんだ、ゴル殿。まさかとは思ったが、我らを死に兵として扱ったのではないかと、勘繰りたくなったぞ」

ゴルはやり場のない怒りに肩を震わせた。ギンの連中の情けなさに。敵の中にいたという魔導師への苛立ちに。そして、敵を侮った自分自身の愚かさに。

「とにかく、もう一度攻撃をかける。今度は、我らドルの者が中心だ。騎竜兵を正面に据えて、一息に踏み潰してくれる」

収まらぬ怒りに震えながら、ゴルは声を絞り出した。冷ややかなリベルの態度にも苛立っていたが、それだけは何とか抑え込んだ。今は内輪で揉めている場合ではない。

「確認させてもらいたいのだが、その時の我らの働きどころはどこになるのかな、ゴル殿」

「働きどころだと」

努めて、努めて荒らげないように出された声は、それでもなお強い怒気を孕んでいた。リベルは癪に障るほど冷静な声で、ゴルは何を暢気なことを言っているのだ、と怒鳴りつける寸前だった。

「そうだ。指示には従うつもりだが、死に兵のような扱いをされたくはない。剛勇で名高いドルの騎竜兵が主体ならば、我らは遊軍のようにして左右を乱すことができるくらいか。それで良いのかどうか、確認がしたい」

「後方だ。敵の備えも、十分ではあるまい。後ろに回って、連中の備えの薄い所を突け」

「成程、ではそうしよう。ああ、しかし迂回するとなると、少しばかり時がかかるな。攻撃の前に半刻程は頂けるかな」

「好きにしろ、ただし、今度も役に立たんようなら、相応の覚悟はしておけよ。ギンの氏族なんぞ、その気になればいつだって滅ぼせるのだぞ。いや、その前に、貴様の首を引き抜いてくれる」

「ああ、それは重々承知しておこう」

それだけ言うと、リベルはゴルに背を向け、配下の者たちに移動の指示を飛ばし始めた。もう、用はない。言外にそう言われた気がして、ゴルは足元に転がっていた木片を蹴り飛ばした。

「手前ども、騎竜兵を正面に移動だ。急がせろ、次でまとめて踏み潰せ。あんな猿共に、我らサンドフォークが負けるはずはない。歩兵は弓の届かぬぎりぎりまで近づかせろ。一駆けして、こちらも弓を使う。ぐずぐずするな」

夕刻前に、もう一度ぶつける。それで終いにしてくれる。砂漠を荒らす猿共も、誇りをなくしたバの若造共も、まとめて殺してやる。殺気のこもった視線を、砂丘の方に向ける。こんなところで躓いていられるものかよ。睨むように細められたゴルの眼は、そう語っていた。


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