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箱庭のレイグラフ  作者: 深波 月夜
サンドフォーク
7/9

サンドフォークー6


斥候が戻ってくるなり、ドルの氏族の襲撃が来ることを告げた。隊商全体に緊張が走ったのは、午前の移動が終わって、休憩に入ろうかという頃だった。このまま進めば、半刻(二時間)程でぶつかるという。

「レド、この近辺に襲撃を迎え撃つのに適当な場所はあるか」

「進路を逸れますが、南と北にそれぞれ四半刻程行けば、砂丘があります」

「北だ。先導してくれるか」

「分かりました、ダリル殿」

「いいか、お前たち。相手はサンドフォークとは言え、野盗だ。そんな奴らに荷を渡したとあっては、ブレイメン商会の名折れだぞ。半刻後にはぶつかる。腹をくくれよ」

隊商の先頭を交代したレドの背に、ダリルの喝が入る。野盗の襲撃と聞いても浮足立つ様子が見えないのは、流石に歴戦の隊商だった。これが並の隊商ならば、逃げ出す人足が出てもおかしくはない。

とにかく、無心になることだ、とレドは思った。ダリルは古くからの父の友人で、レド自身にも氏族の者にもとてもよくしてくれている。しかし、隊商である。無法な隊商は砂漠を荒らし、狩場を乱す。野盗に堕ちる気は毛頭ないが、隊商が襲われること自体は、いい気味だと思ってしまう程度には、レドも隊商を嫌っていた。しかし、今は隊商を守る側にいるのだ。複雑な胸の内を、引きずるわけにはいかない。その迷いは、自分と、自分の指揮する仲間たちを確実に殺す。

「駆けろ駆けろ、寸刻でも早くつけば、その分こちらが有利になるぞ。既に戦は始まっていると思え」

ダリルの声が、隊商全体を叱咤する。もともと休憩に入ろうかという頃合いだったためか、隊商の面々にも疲れが見え始めていた。しかし、人足たちにぶつけられるダリルの声は普段のそれと異なり、厳しいものだった。既に戦は始まっている。その言葉がレドの胸に重くのしかかる。

何も考えるな。今はただ、目の前の状況に応じればいい。再び、レドはそう思い定める。狩りをしているときのように、ただ無心に駆ければいい。そうしていると、四半刻もかからず、目的の砂丘には着いた。しかし、乱れた息を整える間もなく、ダリルからは次の指示が飛ぶ。

「急げ、荷車はすべて丘の上まで上げるのだ。手が空いている者は、荷車を押せ。丘の上まで上がった荷車からは車輪を外して、馬防柵を組む準備だ」

丘の上で迎え討つ。ダリルは、そう腹をくくったようだ。それならば、自分も腹をくくるしかない。そう思うと共に、未だに腹を決められない自分を、レドは恥じた。ここにこうしている以上、どんなに思うところがあったとしても、隊商を守る側として戦をやり切るほかはないというのに。

周囲では、息を切らせながらも、戦の準備が進められている。

「弓と矢は、すべて出しておけ。相手は騎竜兵だ、弓が要になる」

サンドフォークの弓は、威力を重視した大型のものが多い。レドに声をかけられ、手が空いた者から弓に弦を張り始めた。まずは、出来ることを進めることだ。相手は待ってはくれない。

「弓は任せたぞ、レド殿。儂らは前に出る」

「前衛ということですか、キャップ殿? 」

「うむ、槍の用意はないが、何、受け止めるくらいはやってみせよう」

上着を脱いだキャップの両腕には、魔術文様が刻まれていた。強化術の類だろうが、レドは見るのは初めてだった。腕に刻まれているということは、腕力を向上させるものだろうか。

「なんだ、魔術文様が珍しいか? 」

「はい、里では魔術を使えるものは珍しく、強化術を学んだものはおりませんでしたので。キャップ殿は魔術を使えるのですか? 」

「身体鋼化の術を少々、な。故に、団の中でも儂の役目は、常に特攻よ」

キャップは豪快に笑ってみせた。サグは魔術には詳しくなかったが、ダリルやシゲンは癒しや解毒の魔術が使えたはずだ。冒険者ともなれば、様々な魔術にも精通しているのだろう。

「もし魔術に興味があるのなら、戦の後にでも教えて進ぜよう。もっとも、教えたからと言って、同じ術が使えるようになるとは限らんが」

「そういうものなのですか? 」

「うむ。魔術には系統があり、術者に合う、合わないがある。また、系統が合致しても使えない術もある。まあ、詳しくは後々だ」

「楽しみにしておきます」

「それでは、戦の後でな」

それだけ言うと、キャップは駆け去っていった。陽は中天に差し掛かろうとしている。組み上げられた馬防柵が丘のふもとに並び始めている。もう四半刻もしない内に、ドルの連中は来るだろう。

「レド、弓の準備は整えさせた」

シゲンの後ろでは、既に弦を張り終えた弓を携えたサンドフォークの若者たちが整列していた。その口調は普段の狩りの前と同じで、それが今のレドには嬉しかった。よし、と返事を返すと、レドも自分の弓の支度をするため、腰の道具袋から弦を取り出した。


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