サンドフォークー5
翌日、ギンの氏族の者達は、日が中天に差し掛かる頃には到着した。騎馬が十騎で、残りは徒だ。それぞれに弓や槍を持ってきている。ようやくか、とゴルは口に出さずに毒づいた。
「よく来てくれた、同胞よ」
代わりに口に出したのは、心にもない歓迎の言葉だ。そのことは、相手にも十分伝わっているだろう。
「痛み入る、ゴル・ドル・ガルーバ殿。獲物の襲撃には間に合ったようで、安心した」
ギンの者達を率いてきた、リベル・ギン・ドゥージは悪びれもせずそう言った。面の皮の厚い男だ、表情を変えもしない。
「そうだな、あまりにも遅い到着だったので、ギンの者は屍肉漁りを生業にしているのかと思った。まあ、間に合ってくれたのだ、そのことはとやかく言うまい。早速だが、時間が惜しいのだ。獲物を襲う算段をつけたいのだが」
「聞かせてもらう。名高いドルの氏族は、どのようにして武器も持たぬ商人を襲うつもりなのか、興味がある」
リベルの皮肉に、一瞬部下が激するのを手で制する。成程、どうやら単に面の皮が厚いだけではないらしい。
「話は単純だ。俺の手勢が六十、その内騎竜兵が十ばかりいる。俺らが左右から挟み込む。そこを、ギンの氏族が、中央から攻めてほしい。騎馬を含めて、三十ほどかな、そちらの手勢は? 」
「そんなところだ。しかし、そんな簡単に事が進むかな? 」
「なんだと」
「いや何、この辺りは東域王府の領域も近い。単純な力押しで、時間をかける余裕が果たしてあるか、と思ってね」
手前らが遅れてきたからだろうが。こみ上げてくる怒りを何とか抑え、努めて冷静な声を絞り出す。
「時間をかける余裕はない、確かにそうだ。だからこそ、一息に力で揉み潰す。それに、ギンとドルはいわば急ごしらえの連合だ。指揮の仕方も違うのに、複雑な連携は難しかろう」
「なるほど、一応考えてはいるのだな」
その言葉に、耐えかねた部下が飛びかかる。それを殴り倒し、怒鳴りつける。
「客分相手に、何をする気だ。このようなもの、戯れの言葉遊びのようなものではないか。頭を冷やせ」
「しかし、頭」
「しかし、などない。連れていけ。向こうで頭を冷やしてこい」
両側から支えられるようにして、部下が引きずられていく。気持ちは分かるが、それだけで外交は出来ない。だが、溜飲が下がったのは事実だ。
「失礼した、リベル殿。どうも、リベル殿の物言いは人の癇に障る何かがあるようだな」
「なんの、気にしませんよ、ゴル殿」
まったく表情を変えず、むしろ、薄い笑みすら浮かべて、リベルは言い放った。ここまで無礼に振舞えるというのは、ある意味才能かもしれない。
「なら良い。一息入れたら、さっそく仕事にかかりたい。明日の昼前には取り掛かりたいのだが? 」
「そうだな、そのくらいならば、行けるだろう。飯は出してもらえるのかな、ゴル殿」
出してやれ。平静な声でそう告げた自分に、少し驚いた。とにかく、目の前の襲撃を成功させることだ。この男があまりにも目に余るようならば、戦の中で始末してしまえばよい。戦端を開いてしまえばこちらのものだ。そう思い込むことにした。