序
かつて、神々が神域よりこの大地に降り立った時。
この大地は知恵ある龍の物であった。
邪悪なる龍の一族が生きとし生けるものの支配者であり、人々もまた、龍に怯えながら暮らしていた。
偉大なる神々は人々を憐れみ、龍の支配を終わらせるべく知恵ある龍を相手に戦を起こされた。
戦は大地を焼き、海を割り、空を裂いた。
神々の王であるカルザミスは、その戦の果てに暴虐の邪龍帝ギルガンテスと戦い、右腕を失う代わりに雷の槍を以てこれを討ち果たした。
戦を生き延びた知恵ある龍たちは、人々と共に生きることを約束し、神々に許しを請うた。
龍の支配する夜の大地は、かくして新たな朝を迎えたのである。
この戦ののち、神々は降りかかる災いから自らの身を守れるようにと、魔術の火を扱うことを人々に教えた。
また、人々が世の隅々にまで栄え、満ちるようにと、ヒュームの友を作られた。
こうして、海にマーフォーク、草原にエルフ、森にツリーフォーク、山にドワーフ、岩にノーム、そして砂にサンドフォークを作られ、闇の中にゴブリンが作られた。
それによって、この大地には人の種が広く住まうようになったのである。
しかし、かつて大地を統べていた知恵ある龍はそれを快く思わず、獄炎司る邪龍王ダグザルカンは自らの眷属を率いて再び神々を相手に戦を起こした。
これに対し、心ある龍の一族の長であった蒼穹の王者ラミアテスカトリは神々と共に戦うことを誓い、その代わりに戦を終えた後に生き延びた龍の助命を願った。
カルザミスはダグザルカンを討つことを条件とし、龍の種を大地に残すことを約束された。
こうして神々と龍、そして魔術の炎を得た人々は共に邪な龍の一族との大戦に身を投じていったのである。
戦の炎は絶えることなく世界に広がり、多くの人、多くの龍、そして神々もまた、冥府の住人となった。
その果てに、知恵ある龍はほとんどが死に絶え、ラミアテスカトリもまた、ダグザルカンを討ち果たした代償として、その命を失った。
戦を生き延びた龍王は僅か五柱であったが、神々への服従を誓い、それを以て神々も龍の種をこの大地に残された。
しかし、神々は二度と龍が弓引かぬよう、龍より知恵の光を奪われた。
これにより五柱の龍王を除く、大地に新たに生まれた竜たちは太古のような知恵を失い、獣に堕とされた。
一方、戦を生き延びた五柱の龍王に、知恵ある龍を率いた二柱の偉大な龍王を加え、神々は七賢竜と称した。
神々は七賢竜に守るべき責務と不老の命を与え、人と交わらぬように暮らす場を与えられた。
この二度の戦により、龍の世は終わりを告げ、人が大地を治める世が始まったのである。
大地の名はレイグラフ。
龍が空を舞い、魔術の火が闇を照らす世界。
大いなる主神たるカルザミスよ、私がこのレイグラフに起こった出来事を記し終えるまで、今少し、私に時を与え給え。
冒険作家 クリストフ・ジャン・ジャック・サンローラン
『箱庭のレイグラフ』冒頭より抜粋