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積極的過ぎて困惑 心揺れる夜の出来事

王への報告を終え自室に戻る。


ふう。疲れた! 疲れた!

朝からずっと緊張のしっぱなしだったからなあ。

何とか疑われることなく王子を演じきった。


一日猶予をもらったがどうだろうか。

決め切れるだろうか。

まあ、明日考えればいいか。


ランにでも相談して……


ラン! ラン!

姿はない。


ランはもう戻ったのだろうか。

明日以降のことも話しておきたかったのに。

肝心な時にいない。


それにしても父上の話しぶりからして異国行きは免れないようだ。


新婚旅行を兼ねた長い長い旅が待っている。

果たして一年で戻ってこれるだろうか。

ああ、面倒くさい。


もうこんな時間か。

今日はもう遅い。寝るとしよう。


寝床へ。


うん?

違和感。誰かがいる。


ベットには女が……


何者?


華奢な体にも関わらず意外にも力強い。抵抗するのを止める。


ランか? 変ないたずらは止めよ!

王子様!


違う…… メイドの者…… いや違う。誰だろうか。イーナイナ?

王子様お忘れですか。私です。


エミ―であった。


エミ―? 強引な奴め。村に戻ったのではないのか?

いえ、明日まではここに留まれとの命令。


ほう。それで何をしている?

私を! 私をお選びください!


どうした。話が見えないが。


焦っているのです。もし村の代表の私が選ばれないと送り出した村の者に悪いですし、前回もその前も……


ああ、言ってる事は分かるよ。でも私はだな……


イーナイナでしょう。失礼を承知で伺いました。どうか私をお選びください。

抱き着いて離さない。


困るよ。エミー!


強引さは認めるとして実際エミ―はどうなのだろうか。


なぜそんなふうに思った?


ランさんから聞きました。王子はどうしようもないほど悪趣味だと。それも若ければ若いほどいい。

興奮すると言ってました。違うんですか?


メチャクチャ言いやがる!


それでイーナイナを選ぶのではないかと不安になりました。

いやいや。まさかそんなはずなかろう……


王子! 村娘の子もアルールさんも美ししい。でも私だって負けていません。何と言っても村の代表です。意地があります。


自信はある。まあ当然か。そうでなくては村の代表は務まらないものな。


お願い! このまま一緒に!

一夜を過ごせというのか?


悪くない誘い。心が揺れ動く。


エミ―よ。一つ聞くが私のどこがいい? まさか村の為じゃないよな。

もちろん伝統も村も家柄もありますが何と申しましょうか人柄に触れて……


そうか…… ありがとう。


エミ―を抱き寄せて額にキスをする。


おやすみ。


エミ―は恥ずかしそうに一歩下がった。


王子のなせる技。イケメンのなせる技。


エミ―は大人しく引き下がった。


ではまた明日。


去って行く。


今晩のことは忘れてしまおう。


よし寝るか。しかしどうしても眠れない。


興奮しているのか俺?


三十分が経っても目が冴えてしょうがない。飲み物でも。うーん。


コンコン。

扉が開く。


お休みのところ申し訳ありません。もう時間がありませんので来てしまいました。


地味な娘には不釣り合いなカラフルな寝間着姿の村娘。


何用?

王子様! ああ王子様!


最後の悪あがきなのか演技に熱がこもっている。


君は私を慕ってくれていたね。

王子様。お願いですどうか私を!


別に一緒になる必要はないだろう。

王子様!

前のまま慕っていて欲しいな。


ではやはり…… 他の方と。私はどうすれば?

王子と村娘でいいじゃないか。


そんな事言って! 私諦めません!


強引に胸に飛び込んできた。


王子様!

困るよ君。


彼女のペースに持っていかれそうになる。


まずいまずい。


抱きしめてやることしかできない。


済まない!


少女は我に返ったのか失礼しますと言って出て行った。


ふうう。


俺の心はかき乱されている。

彼女たちの積極的な振る舞いが迷いとなる。

別に誰でもいいではないか。


喉が渇いた。

もう寝れる訳もない。


部屋を出る。


館内は静けさが支配している。

遠くからフクロウの鳴き声が聞こえる。

まだ夜明けには程遠い。


本当に静かだ……


しかしそれは思い過ごしであった。


こちらに向かう足音と笑い声。急に騒がしくなった。


王子様だ。王子!

屈託のない笑顔でこちらに話しかける幼い少女。

イーナイナが欠伸をかみ殺し、目を擦っている。


すぐ後ろに幼馴染のアルールの姿が見えた。


どうしたんだい?

ナリット。この子が眠れないって。そこで会ったんだ。


王子様。ははは。遊びましょう。

ええ? こんな時間にかい。

だってちっとも眠くないんだもの。


昼寝の時間を取りすぎたようだ。


眠ろうか。一緒に寝よう。

王子! 問題発言です! 私も一緒に!

おいおい。無茶を言うな! この子を寝かしつけないと可哀想だろう。


もう昔のナリット王子ではないのですね。あなたはこうではなかった! 子供など見向きもしなかったのに…… 変わりましたね。


うう。ほぼ初対面ではないか。変わっただと? どこが変わったと言うんだ? 

まあ、全体的に変わったのは自覚しているが。


心で毒ずく。


分かりました。この子をお願いします。

アルール?


涙を流して走り去る。


そんに違ったかな?


王子! 行こうよ。早く!

ああ、眠ろう。


俺は王子。

寝間着姿のイーナイナに欲情するほど飢えていない。

前の俺ならいざ知らず……


部屋へ戻る。

       

                     続く


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