花嫁の登場
着替えを済ませ部屋を出る。
ブランチ開始。
兄たちはとっくに席についていた。
こんな時まで遅れてくるとは!
まあまあ兄さん。お客人も参られてます。ナリットしっかりやれよ!
ナリット王子着席されました。
メイドが知らせる。
最後に王が姿を現した。
久しぶりだな皆の者。元気にしておったか?
ヨーク王は豪快な笑いで皆を勇気づけた。
王冠と指輪が眩しい。
白いシャツに紫の上着
緑のズボンに白の靴下。
ヨーク家の正装である。
王子である我々も同じ格好。
ただし紫は高貴な者と決まっており上着は白となる。
集まったのは他でもない。ナリットの花嫁候補への挨拶だ。皆の者失礼の無いように致せ!
はっは!
王子。一言貰おうか。
ははは……
どうした早くしろ!
ランが近寄ってメモを渡す。
今日は私の為に集まっていただきありがとうございます。
父上や兄上に恥をかかせぬよう精いっぱいやりたいと思います。
うむ。良かろう。では花嫁候補を呼ぶとしよう。
これ!
五人の娘が入ってきた。
一人、娘とは言えないほど幼い者が混じっている。
ごきげんよう。
お嬢ちゃんはどうしたのかな?
失礼な! 私は立派なレディですよ。
いくつ?
もう八ちになります。
二十歳とでも言いたいのだろうか。八歳とは思えない物言いには驚かされる。
さすがは名の通った国の姫だけはある。
王が制する。
これは何たる手違いか。よかろう。王子よ! この子も候補の一人じゃ。
しかし年齢が……
姫君の相手をしてやれ。良いな?
分かりました。
それでは続けてくださいお嬢様。
私は遠い遠い国からやって参りました。どうかよろしくお願いします。
イーナイナと名乗った少女はドレスを持ち上げ挨拶を終える。
第一印象は幼いに尽きる。
少なくても王子である自分の守備範囲ではない。
何の興味も湧かない。
こんな小さな子を花嫁に選ぶなどできるわけがない。
前世ならばそれもあり得たかもしれないが……
おっと。まずかったかな。
誰にも心の内など分からないのだ。
次!
お久しぶりです。王子。王様も元気で何よりでございます。
幼馴染のアルール。
俺にとっては初めましてだがアルールは嬉しそうにこちらを見つめる。
もう婚約したかのような自信にあふれた目。
いいだろう。相手ぐらいはしてやろう。
王子様。ずいぶん成長されたみたいでまるで別人のようでございます。
そうかな。変わらないよ。アルール。
いや最近のお前は少し変わったぞ。自覚は無いのか?
そうだぞナリット。
兄二人の指摘は鋭い。
何をおっしゃいますかお兄様。私は私でございます。
ナリット。覚えてる……
過去に囚われては今も未来もない。
そう言う意味でも無意味な懐かしき思い出に浸るのは愚の骨頂。
すみやかにお止め頂いて。
次!
俺に昔の記憶などある筈もない。早く切り上げなくてはボロが出る。
ナリット様。先日はどうも。親身になってもらいこの上ない幸せ。
ナリットを慕う村の少女。
ああ。君もこのパーティーに来てたのか。
穿きなれないドレスと白い靴で先に倣う。
ごきげんよう。
次!
村一番の美少女。エミ―。
初めまして王子様。
美しい。一目で心を奪われる。
ロングの黒いドレスがセクシーで気品も感じられる。
どうした王子?
いや父上。何と言いましょうか言葉が出ません。
そうかそうか。気に入ったのか。よろしいさっそく。
いえ、まだもう一人残っております。
最後の一人が挨拶をする。
まったく私は嫌だったのに母がどうしてもと言うから参加したまで。王子に興味などまったくありません。
負け惜しみ気味に毒を吐く。
無礼者!
まあまあ。父上。ナリットに任せましょう。
王の怒りに触れたこの女の正体は何と……
うちはツンデーラ。よろしくね。
その口の利き方は何だ!
興奮する王を遠ざける兄二人。
ツンデーラ。どこかで以前お会いしませんでしたか?
ふん。あんたなんか知らないよ!
前世で会った記憶は?
ふふふ。面白い事言うね王子さん。でもそんなイケメン忘れるわけないだろ。
イケメン? 言葉が悪いと言うよりこちら側の人間ではないのか?
前世か何か知らないけどこの世界は退屈だね。前はそうでもなかったのに。
前?
そうだ思い出した! うちを痴漢した男。王子と顔は全然違うけど雰囲気が似てるかな。
痴漢? 何じゃそれは!
王様それは……
ええい! もういいわ。下がるがよい!
ツンデーラは不満顔。まだ何か言いたそうだ。
ブランチタイム。
王は五人の候補のマナーを厳しく見る。
スープを啜る音がうるさい二人。イーナイナとツンデーラ。
まだ幼いイーナイナは仕方ないとしてもツンデーラはどうか。
育ちが分かると言うもの。
他の者は上品に食べている。
メインディッシュに移る。
お馴染のニンジンとトマト。カブ。丸ごと一本。ソースを添えて。
まずそうな種が三粒。
イーナイナはかぶりつく。ボリボリと美味しそうな音を立てる。
他の者はゆっくりと口に運ぶ。
その時一人が声を荒げる。
何だよこれ! ちっとも美味しくないじゃないか! ウサギじゃない!
自分の心の声が漏れたのかと思うほど的確な感想を言う者。
ツンデーラしかいない。
あんたらよくこんなもの食えるね。肉はどうした持って来いよ!
王も兄たちもツンデーラを睨む。
他の者は気にせず続ける。
まずいまずい。ツンデーラが怒らせている。
ブランチ終了。
時間を空けてティータイムへ。
一度退出。
部屋へ戻る。
ティータイムに向けて準備が進められている。
あー忙しい! 忙しい!
ランが嫌味を言って入ってくる。
王子どうでしたか?
ランよ。俺は正直迷っている。
へえ。どなたとどなたでしょうか?
エミ―とツンデーラ。
王様はどなたを選ぶかであなたを測っています。くれぐれも気を付けて。
分かってる。プレッシャーをかけるな!
その二人は問題ないと思います。
だろ。イーナイナは除外するとして他の者は大変魅力的だ。
特にエミ―は別格だ!
そうですね。幼馴染やあんたを慕っている娘は危険だよ!
言葉が悪いぞ!
へへへ。王子を昔から知ってそうなのは除外するべきでしょう。そう考えるとエミ―かツンデーラが妥当でしょう。
そうなんだよな。でも決めかねている。
ツンデーラは秘密を守ってくれるでしょう。エミ―は初対面。バレる心配は少ない。
どうします? 前世の運命の人と村一の美女。悩ましいですね。
他人事だと思って。俺はランしか見てないよ。
嘘ばっかり! もう本心では決めてるんでしょう。
いや、まあそうなんだけど……
ツンデーラね。純粋なんだから。でもそれが正しい。良い選択よ。
ラン。
さあもう支度が整ったでしょう。
続く