欲望のままに
前夜祭は異様な盛り上がりを見せる。
それもそのはず。
年に一度のお祭り。
いや、数年に一度のビッグイベント。
出立式は何度か行われているが今回のは特別。
王子の門出を祝う重要な儀式とも言える。
その前夜祭。
問題は飲み過ぎてしまうと言うことだ。
特に始末の悪いのが屈強の戦士達。
親衛隊の者もついつい羽目を外し気分よく酔い潰れてしまう。
彼らをは運ぶのは一苦労。
男二人がかりで何とか特別休憩所まで運ぶ。
重い!
誰か手を貸してくれ。
隊長!
おう。王子。こいつらを運んでくれ。
だらしなくていけない。
隊長はお飲みにならないんですか?
軽く一杯だ。それ以上は警備に支障がでる。
しかしこいつらは言う事も聞かず酔い潰れちまうんだから困るぜ。
演舞もありますからね。
そうなんだ。この日の為に稽古を重ねたからな。
出るからには失敗はしたくねい!
そうそう。王子の演舞は最高だったぜ。指導の甲斐があったってもんだ。
ありがとうございます。
明日からの長い旅もこの調子で頑張れよ!
分かってます。
それじゃな。俺は警備に戻る。はしゃぎすぎるなよ! 王子様。
最後のお別れを済ます。
ナリット!
ツンデーラが手を振る。
女性陣が談笑中。
前夜祭の為にお召替えをした。
ああ。王子!
イーナイナがそわそわしだした。
感想が欲しいのだろう。
とっても似合ってるよ。
本当に?
可愛い。可愛い。
これじゃない!
ああ、イーナイナも可愛いよ。
ふん!
機嫌を損ねたらしい。
もう口を聞いてくれない。
少しの間に成長したようだ。
王子おめでとうございます。
ああ。皆も良く似合っているよ。
特に君は意外だな。
王子を慕う名もなき村娘もこの場にふさわしい大胆な黄色のドレス。
足元が足りてないのか足首があらわになってとてもセクシー。
紅葉を終えた落ち葉と若干被るが悪くないセンス。
私のお古のドレスを貸してあげたの。
アルールは貧しい村娘の為に一肌脱いだようだ。
まるでこちらがツンデーラ?
慣れてないのか頬を染める。
その横にエミ―。
エミ―も恥ずかしそうにこちらを見守る。
うん!
何を見とれてるんですか王子?
アルールがからかった。
イーナイナが隙を突いて一撃。
へへへ。王子こっちだよ。
機嫌が直ったのか走り出した。
おい、ツンデーラ! イーナイナを頼む!
ううぐぐ?
何をしているツンデーラ?
肉にかぶつき顔を上げない。
衣装が汚れるのも気にせず夢中で貪っている。
その姿は見られたものじゃない。
相手を間違えた?
だって久しぶりなものですから。
そう。ここでの食事といえばヘルシーな生野菜。
それもそのままで出されるのだ。
後は激マズの種を三粒。
今は食いきれないほどのご馳走が並んでいる。
王様に見つかるなよ。
俺も食う!
誰も見ていない事を願いつつ肉料理を掻きこむ。
下品で王子失格であろうが気にしない。
ツンデーラと争奪戦。
そちらにあるだろうが!
私のです!
俺のだ!
王子みっともないですよ。
その手は食わん!
グビグビ
おお…… お前何を飲んでいる?
一杯ぐらいいいじゃないですか!
花嫁が酔っぱらってどうする!
まあまあ。王子様もどうですか?
遠慮致す。
二人の門出を祝って乾杯しましょう。
断る! ほら手を出すな!
ツンデーラは次々と杯を空けた。
ナリットも負けじと肉の皿に手を付けた。
あーあ。知らないっと。
アルールは呆れた。
あれ王様?
おうナリットを探しているのだが。ナリットはいるか?
まずい隠れろ!
ナリットそこか。儂の元を離れるでない!
ツンデーラもおるのか?
急いで皿を隠し取り繕う。
父上どうなさいました?
うむ。出立の演舞が始まる。
お前も一緒に見るのだ。
分かりました。
ツンデーラはどうした? 一緒でないのか?
うぐぐ。
腹に詰め込んだ肉をワインで流し込む。
ゲップ。
王しゃま! へへへ。
まさかツンデーラ?
何をおっしゃいます。あれはどこぞの娘。決してツンデーラなどではありません。
そうかそうか。ちと酔っぱらったかのう。
よい。では待っているぞ。
何とか誤魔化すことができた。
一安心。
おい! その辺で寝てろ!
分かりまーした。王子。へへへ。
ツンデーラを頼んだよ。
夕方。
辺りは暗くなってきた。
さすがに真っ暗な中パーティーを続けるわけにも行かない。
点火。
王の指示で火が焚かれる。
北風が強くなってきた。
いくら酒で体が温まっているとしても耐えられない。
明るさと暖かさを求めて群がる。
この光をきっかけに第二部が始まる。
王のスピーチに始まり。
各国の王たちが故郷の昔話や伝説を語りだした。
諸国を旅する者が変わった風習や食事を紹介し
最後に恐怖体験を語る。
ある時夜道を歩いていると……
一晩お世話になった老夫婦が……
ゴーン ゴーン
突如鐘が鳴り響く。
おう。もうこんな時間か。
演舞をお見せしなくては。
王子たちによる伝統の踊り。
二度目の舞。
さすがに今度は多少踊れるようになった。
兄たちの動きに合わせてワンテンポ遅れた演舞を披露。
聴衆はそんなことお構いなし。
普段見られない王子たちの一面を楽しむのだ。
頑張れ王子様!
ナリット様!
遅れてるぞナリット!
はっははは!
続いて王の演舞。
体の切れも良く舞う姿はやはり美しい。
年を感じさせない軽やかな演技に聴衆も拍手喝采。
王の健在ぶりをアピール。
続いてメイドたちによる曲芸。
体を捻って捻って。
総勢二十人の総合芸術に言葉が出ない。
続いて王子二人による朗読。
感情を込めて歌い上げる。
兄上……
私達の為に特別に披露していただくとは思ってもみなかった。
有難い事。
続いて親衛隊のパフォーマンス。
最後に隊長の演舞で締める。
続く




