自称神様の言うとおり
翌日。
朝から地獄の取り調べ。
お前がやったんだろ?
違います!
誰がやったんだ?
知りませんよ!
証拠があるんだぞ!
俺には不可能だ!
認めるまで許さない!
刑事が調書にサインを強要する。
誰の筋書きか知らないが俺が犯人に仕立て上げられている。
一昨日の取り立ての片方が遺体で見つかった。
警察は殺人事件として捜査を始めた。
それが昨日のこと。
なぜか俺が重要参考人となっている。
参考人の一人では無く完全なクロとして。
確かにボコボコにされ恨んでいないと言ったら嘘になる。
しかし俺じゃない。
他の債務者にやられたかもしくは仲間割れの場合もある。
いくら俺が最後に会った人物だとしてもそれだけで犯人と決めつけるのは横暴でしかない。
だがどんなに訴えかけてもいくら否認しても信じてもらえない。
動機があり、アリバイが無ければイコール犯人とでも言うのか。
結局、否認だけで一日が終わった。
明日以降も同様の苦しみを味わうならいっそこのまま……
いけない! ネガティブになっている。
明るく元気に。
前向きに。プラスにプラスに。
留置所に戻される。
お仲間とご対面。
薄暗い中で俺と同様に無罪を叫ぶ者。余裕と言わんばかりに鼾をかいてるもの。ニタニタ笑っている奴。何を考えているのかわからないが下を向いている者。
俺は下を見てじっとしている事にした。
もう一晩お世話になる。
このまま長引けば俺はどうにかなってしまうのでは。
違法な取り調べが精神をおかしくさせる。
なかなか眠りにつけずようやくウトウトしてきたところに騒音で起こされる。
おい! 新入りだ。
何だこんな時間によう!
安眠を妨害され機嫌の悪い面々。
挨拶だけをして興味を失ったのか眠りにつく他の者。
俺も今日は疲れた。構っていられるか。
あなた。どうしてこんな所へ?
もう、眠いと言うのに邪魔をする。
何だい爺さん? 話なら明日聞いてやるよ。
これ!
杖で小突く。
痛たた…… もう何ですかあなたは? とにかく寝ましょう。
白ひげの年老いた御仁。杖を振り回し寝かせてくれない。
ちょっ! さっきから。杖没収されますよ。
おい若者!
俺?
そうだ。話ぐらい聞いたらどうだ!
だから眠いのおじちゃん! 身の上話は明日にでも聞かせてね。
他の者は完全に寝入っている。
いいかよく聞け! 儂は神じゃ!
ははは。はいはい。
疑っているのか?
証拠があればねえ……
お主の名は太郎。違うか?
何……
お…… 俺は太郎なんかじゃない!
昨夜そう呼ばれていただろ?
あんた。あの現場にいたのか?
お主の名などどうでもいい。
酷いなあもう。
いいかよく聞け! 儂は神だ!
はいはい。
お主の悲惨な状況を少しでも良くしてやろうと来たが勘違いだったか?
そんなことありません。あなた様が神様で私の現状を何とかしてくださるならこれ以上の幸せはありません!
そうだろ。初めから素直に従えばいいのだ。
おかしな爺さんの話し相手ぐらいしてやろう。こうやって徳を積むことで何かいいことが起きるかもしれないのだ。
太郎! まだ儂を疑っているな?
いえいえ。そんな事はございません。
いいだろう。願いを叶えてやろう。
ええっ?
お主の悩みや願望ぐらいどうってことないわ。
人相が悪い。
借金取りに追われる身。
職務質問であらぬ疑いをかけられる。
冤罪。
犯罪者扱い。
生活や仕事に影響。
毎日大変な思いをしてるのだろう?
凄え! 当たってる。
神だからな。
なら冤罪を解いてここから出してくれ!
それは…… できない相談だ。
却下される。
冤罪とはいえ証明する者がいないし証拠もない。
寝ていてまったく覚えてないとしたらどうすることもできない!
何だよ!
しかしもう一つの殺人事件は犯人が別にいる。これに関しては儂の力でどうにでもなる。
明日には釈放さ。
やった!
でもいいのか。そんな事ではいつまた同じ目に遭うか。根本から変えようとは思わんか?
出来るんですか?
その為に来たのだ!
ありがとうございます。その話乗らして下さい。
よし、良く決断した!
神は手では持ちきれないほどの大きさのゴールドカードを授けた。
これを使って別の世界に飛ぶのじゃ。
高々と掲げよ!
さすれば新たな世界が開けようぞ!
ゴールドカードを手に取る。
大丈夫なんですか?
心配するな。神の力を信じよ!
ハイ!
いいかよく聞け! 儂は神だ。お前を導く。だがなその世界も完璧ではない。
戦争も起きれば災害もある。うまく立ち回れ!
ハイ!
もし再び今のような悲惨な状況になったら再びこのカードを使うといい。新たな世界が待っている。
どういう事でしょう?
これを使えばこの世界と合わせて八つの世界に行ける。
残り七つはお前が想像もし得ないような世界だ。
新たな世界では今の実力であれば裕福に暮らせるはずだ。
神様?
後の事は儂の使いが引き受ける。
分からないことがあれば聞くといい。
神様!
もう時間だ。行くがよい!
カードを掲げよ!
ハイ!
太郎は姿を消した。
神は去っていった。
第一章完
続く