クリスマス特別篇 凶悪王子指名手配を受ける 自称神と逃走中
その頃第一世界では……
慌てた様子の男たち。
いなくなっただと?
はい。忽然とどこかへ。消えたようです。
何を抜かす! 脱走など出来るものか!
最新の警備システムをかいくぐって外へ。
有り得ん!
そうは言っても……
まったくどいつもこいつも!
直にこの目で確かめる!
拘置所の牢。
おい! 爺と新入りの男はどうした?
知らねいな!
誰だそりゃ?
名前は確か…… おい!
調べさせる。
住所氏名不詳。
爺も名乗らず。
名前は分からん。二人はどうした?
そんなこと言われてもよ。俺らも暇でねいしな。
暇だろうが!
連帯責任だぞ!
嘘だろ? まったく!
騒ぎ出した。
おい誰か知ってる奴?
行方を知る者はいないのか!
一人が口を開いた。
太郎さんかい?
ゴホゴホ。
風邪をこじらしたのか激しい咳をする爺一歩手前の男が証言する。
知っているのかお前? 詳しく話せ!
太郎って言われるのが嫌だそうで。俺にも名前を教えてくれなかった。
ゴッホゴッホ フウ―
昨日は朝から調子が良くなくて寝ていたんだ。
晩には良くなってな。ゴッホゴッホ。
悪化してるぞ。まあいい。続けて続けて。
だから昨晩はなかなか眠れなくてさ。
ウトウトしながら太郎と爺さんがしゃべってるのを聞いてしまった。
うんうん。
ここからは有料。金取るよ。
馬鹿! 舐めてるのか!
じゃあ無料で。爺さんに太郎って呼ばれていたよ。
詳しくは分からないが爺さんが神って言いだして変な勧誘を始めてさ。
根本から変えないかとか言って変な輝く紙を見せたのさ。
太郎がそれを手にするとどこかに飛んで行っちまった。
気が付いたら爺さんも居なくなっていて……
以上。真相でした。
分かった。君は嘘つきだ。
ええ? 全部本当ですよ。
もういい! 後はこっちで何とかする。
行方不明の二人組。
緊急会議を招集。
まったく報告書に何と書けばいいものか?
大失態だぞ!
責任者を出せ!
俺は関係ない!
私は居ただけですから。
しかし誰かが責任を取らなくてはまずいでしょう。
誰か知っている者は?
責任の所在を明らかにしろ!
会議は迷走。
混乱状態。
出席者全員が頭を抱える。
あのー。
何だ?
担当弁護士に話を伺うのはいかがでしょう。
それは名案だ。
一人が手を上げる。
待ってください! 果たして意味があるでしょうか?
ううん?
弁護士は依頼人の利益を優先し情報を開示するとは思えません。
そうだそうだ!
私は反対です。
いや、無駄と分かっても彼に会って話を聞く必要がある。
よしとにかく呼んで来い!
一時間後。ようやく担当弁護士がやってくる。
あのー。どういうことでしょう。
それが…… あなたの依頼人が姿を消しました。
はああ? それは脱走したと?
ええ、おそらくそうだと。
うわあ。最悪だ! 面倒はごめん。
当初からやる気のない国選弁護人。
とにかく早く罪を認めさせて解決を図る予定が狂う。
弁護士は頭を抱える。
依頼人の利益を尊重するつもりはさらさらない。
協力願いませんか? 情報が不足しているんです。
分かりました。協力しましょう。
ええっと。住所はこちらです。
名前はこちらです。
他に把握していることは?
守秘義務があります。
何を言っているんですか! 脱走したんですよ。
しかしこれ以上は本人の同意が無くては……
その本人を捕まえるためです。
ご協力ください!
わわ…… 分かりました。
殺人事件とは別件で……
詳細はお答えできませんが……
被害者の少女とは何か話していたようで……
そうか。逆恨みをして狙っているかもしれない。
とにかく彼女に連絡を!
これくらいでよろしいですか。
はい。ご協力に感謝します。
弁護士は用があると言って急いで出て行った。
十分後。
連絡は取れたか?
それが…… 昨夜から姿が見当たらないそうです。
行方不明の少女はどこへ?
何? 遅かったか!
全国に指名手配だ!
彼女の身が危ない!
あのー。少々大げさでは? 少女が誘拐されたとも限りません。
ひょっこり晩飯に戻ってくることだって……
確かにそうかもしれない。だがこのタイミングで行方不明は関係があると考えるのが自然だ。
対応を誤れば批判は免れない。
打てる手は打つ!
何と言っても殺人事件の重要参考人だ。
脱走まで企てた大悪党。
必ず捕まえるぞ!
おう!
会議終了。
太郎と爺は全国に指名手配された。
その頃爺は……
自称神の隠れ家。
ハッピーバースデー・トゥユー
ハッピーバースデー・トゥユー
ハッピーバースデー・ハッピーバースデー
おめでとう!
ケーキとごちそうでお祝い。
アラウドよ。ありがとう。
爺は上機嫌。
よし楽しもう!
これプレゼントです。
はっはは。何かな?
杖。
結構なお値段の高級杖を送る。
隠れ家には爺と少女の二人。
大した家具は無くすっきりしている。
あるのはテレビぐらいなものだ。
落ち着いたな。
そうですね。
アラウドはもう一人の使い。
ランの代わり。
能力は申し分ないが愛想がない。
従順なしもべで自称神の爺の命令は守るが柔軟な対応ができずにランに後れを取っている。
太郎王子の世話を任せるにはまだ荷が重い。
今は自称神の世話をする毎日。
要するに介護。
口うるさい老人に口答えすることなく従う少女。
遅いな。
そうですね。
ランはまだか?
見てきましょうか?
いやそれよりも……
自称神の家に近づく影。
コンコン
遅くなりました。
ランが姿を現す。
続く




