クリスマス特別篇 ツンデーラ
おう! ツンデーラ!
よく見ると足は泥だらけ。素足で走ったせいかところどころ傷になっていて痛々しい。
早く何とかしなくては! 明日に差し支える。
ツンデーラ! ツンデーラだろ?
王子……
どうして逃げたりしたのだ?
お許しください! お見逃しください!
何を言っている?
皆の手前。手荒な真似はできない。
戻って来い! 早くしろ!
ダメです。私など……
どうした急に弱気になって。昨日までの豪快さはどうしたのだ?
王子……
ツンデーラ?
どうかどうか!
分かったよ。私は戻るとしよう。
ゆっくりそこで考えるといい。
ツンデーラよ。後はお前の判断に任せる。
皆の者騒がせたな。ツンデーラを頼んだぞ。
はい。王子様。お任せください。
ふう。どうしたらいいのか。
肩を落とす。
夜道を戻る。
足取りが重い。
今日は色々あり過ぎて疲れてしまった。
もう帰って寝たいよ。
ふう。それにしても困ったな……
カツカツ
足音がする。
誰かがこっちに走ってくる。
何奴?
振り向く。
王子!
ツンデーラ?
どうした靴は履いているのか?
ええ。王子が無理矢理はかせたではありませんか。
そうだったな。ははは。
酔いは大丈夫か?
もう心配ありません。
明日の儀式はどうする?
無理しなくていいんだぞ。
その……
ツンデーラ次第だ。
ごめんなさい。私やっぱり王子と一緒が良い!
はああ?
考え過ぎてしまったみたい。
そしたら自分はこれで正しいのか分からなくなちゃった。
ツンデーラよ。気にしすぎだよ。
そうみたい。気が動転したのねきっと……
王子!
勢いよく飛び込んできた。
予期していなかった為に弾き飛ばされそうになったが何とか踏ん張って抱きしめてやる。
王子。私…… 私……
もう何も言うな! お前は俺のものだ!
王子!
愛してるよ。ツンデーラ!
ありがとう。嬉しい。
ただ、ボロボロで泥だらけのツンデーラを抱きしめる事しかできない。
いつの間にか彼女の瞳から涙が零れ落ちていた。
ははは。明日の予行練習にはちょうどいいかな。
王子!
もう遅い。さあ戻ろう。
明日が本番なのだ。
寒い!
寒くはないか?
王子様。暑いぐらいです。
いやいや。少々騒ぎすぎたかな。
ツンデーラよ。本当に寒くないか?
ふふふ。さっきからもう。変な王子。
私がおかしいのか?
寒いだろ?
いいえ。まったく。
だって……
北風など生易しものではなく暴風ではないか。
どこがですか?
さっきからおかしいですよ。
幻覚でも見ているのですか?
馬鹿な! この風を感じないのか。
強風。いや微風。心地よい風。
幻覚か。そうかもしれないな。
ツンデーラ。君が正しい。
この雪だって幻覚なのだろ。
一気に大地が冷やされ白い粒が少しずつ少しずつ舞い降りてくる。
雪! 王子雪が降ってきたよ。
ほらやっぱり幻覚だ……
見えるのか?
はい。
感じるのか?
はい。
疲れたか?
はい。
戻ろう。
もうちょっとこうしてましょう。
風邪ひくぞ!
大丈夫。
明日に……
え?
いやいい。
二人は時を忘れ笑いあった。
降り出した雪も明け方には止み積もることなく消えてなくなった。
儚い真冬の幻想。
ようやく一日を終える。
と思われたが……
深夜。
某所。
命令が下った。
お前ら明日に備えよ!
おう!
うごめく影。
不穏な空気をまとって。
いいか! 王を捕えるのだ!
王様を……
何を今さら怖気づいている。
我々の悲願を忘れたのか?
しかし……
言ってみろ! そこのお前!
はは! 我らの主を王位に!
そうだ! その為にはいかなる障害も排除せよ!
例えそれが王子であろうともだ!
うう……
どうした! 逆らう者は命は無いぞ!
おう!
半分は忠誠心から。
もう半分は恐怖から。
集団は一致団結した。
ふふふ。これはこれは。
誰だ! そこにいるのは?
私ですよ。ふふふ。
これは王!
おっと。少し気が早いのでは?
何をおっしゃいますか。
明日にも新王になられるのですよ。
うん? もう今日か。
それは願ってもない事で。
皆さんのご活躍に期待してますよ。
おおお!
我らが王! 新王! 新王!
困ったなあ。それとひとつ気になったのですが。
王子を排除せよって聞こえましたがまさか私に危害を加えるつもりですか?
何をおっしゃいますか! まさかそのようなこと……
考えていない?
もちろんです。あ? しかしあなた様が無傷というのも変です。
多少の傷を覚悟していただかなくては。
ううん。痛そうだ。
疑惑の目を向かせないためにもご辛抱ください。
分かった! 分かった!
極秘の襲撃計画が進む。
明日会おう!
はっは!
男は闇に消えた。
新王! 新王!
兵隊たちの歓喜が漏れ聞こえる。
ふふふ。
明日か……
いや、もう今日だったな。
寒い! それにしても寒い。
雪か?
雪が降り出したようだ。
どうりで寒いわけだ。
この天気だ降ってもおかしくはない。
しかしこの雪が明日に残るようだと厄介だ。
いや、奴らに任せておけば大丈夫。心配はない。
明日が待ち遠しい。
それにしても滑稽だ。
この計画を授けたのがまさか奴だとは。
GOのサインも出た。
面白くなりそうだ。
はっははは!
ようやく運が向いてきた。
このチャンスを逃がす手はない。
計画も順調。
この作戦に穴があるとしたら想定外の邪魔者が現れるかだがそれは現実的ではない。
続く




