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王の使命

外へ。


庭園を抜け秘密の場所に向かう。


広場が見えてくる。

そこを超えると草原となっており、緑と黄色の世界が広がっている。

草原を更に行くと小動物の住処になっており……

春と秋に王が狩りを行う。


これらは全て今から会う人物に教えてもらったことだ。


おう! 待たせたな。

お願いします!

よし。もう時間が無い。しっかり習得するんだぞ。

分かってますよ。


では王子。始めるぞ。

まず昨日の続きから。


男の名はブルダ。

親衛隊長だ。

主に王の身辺警護。


頼れる大男で。獣と格闘することも。

腕力もさることながら剣術に秀でており指導者としても優秀。

出立式では見事な演舞を披露する。


構えろ!

よしいいぞ!

次は剣を振れ!

十回! それが終わったらもう一度繰り返せ!


うんうん。良くなってきている。

今度はこの球を切ってみろ。


白と黒の球を交互に投げる。


いいか! 白は寸前で止めろ!

黒は思いっきり切り刻め!

ほらもう一度。


遅い! もっと素早く動けないのか!

行ったぞ!

そうだ交互にだ。交互に!


よし今度はもっと軽やかに。

そうじゃあない! 何度言えばいいんだ!

慎重に! まだまだ。


疲れた? 知るかそんなこと!

ほらもっと。足を動かせ!


これは演舞だ!

丁寧に! 軽やかに!


よーし。それまで!


休憩を終えたら実際にやってみるぞ。


黒だ。

ズバッ!

白だ。

スッ!


いいぞ。今度はもっと早くするぞ。


よし。その調子だ。

だいぶ掴めてきたようだな。

もうこれくらいでいいだろう。


本番までには完璧にするぞ!

ありがとうございました。

いいか。当日は俺は助けてやれない。きっちり頭に叩き込んでおけ!

はい!


ヨーク家伝統の演舞。

結納の儀で披露。

ちょっとした余興。

ヨーク家の血を引いた者が行うのが習わし。


明日が本番。

緊張と興奮が入り混じる。


ちょっといいか。

隊長なんでしょうか?

明日のことなんだがな。


招待客が大勢やってくる。俺はその警備に忙しい。

もし何かあったら王様を守ってくれ。


ええ?


その剣と盾があれば守れるはずだ。


どうしたんですか隊長。

いや、もしもの場合だ。真剣に取らなくていい。

分かりました。俺が父上をお守りします。


よし任せたぞ。

はっははは!


隊長一つお聞きしたいのですが。なぜ兄上たちはまだ結婚していないのでしょう?


唐突だなあ。

兄上? ああそんなことも知らないのか?

そうかそうか。王様もお前には教えてないんだな?


兄上たちに聞くわけにも行かないですし他の者が知っているはずもなく……


お前は兄たちと歳が離れているからな。

候補に選ばれなかったってか。


良いかよく聞け!

王子が結婚する時。それは即ち王になる時だ。

要するに現王が退位することを意味する。


でも俺は……


ああ。確かに不思議だな。だがお前を次期当主にする気はないのかもな。

だから他所に出した。


どういうこと?

お前ら三人の王子から王を選ぶ。よっぽどのことが無ければ第一王子がそのまま選ばれる。そして村人から祝福を受ける。


では兄たちが結婚しないのはまだ無理だから。

ああ、とにかく王の退位と共に行うのが伝統だ。

そうですか。


しかし本当に教わってないのか? そんなことも知らないのはおかしくないか?

まったく興味が無いものですから。


第三王子の立場で充分。それ以上何を望むのか。


お前はそう言う奴だったな。

よし良い事を教えてやろう。


王には秘密がある。

秘密?


いいか誰にも言うんじゃないぞ!

念押しされた情報ほど大したことないのが一般的である。


王はな。もしもの場合に備えて子作りに励んでいるのだ。

もし王子たちに何かあっても良いように跡継ぎ候補を作っている。


くだらない!

何か言ったか?


知ってますよそんなことぐらい。

隊長は俺をからかってますね。


ははは。怒るな。怒るな。


これも立派な王としての務め。

王が良く籠っておられるのはそういう事情から。


お前もどうだ? はっはは!

王になれば選び放題。羨ましいだろ?


間に合ってます。


おいおい。冷たいぞ。

これは平民の夢。

男のロマンじゃないか。


はああ?


おっと。話が脱線したな。

別に興味が無いのはいい。

でもな王様にも使命がある。


子孫を絶やさないこと。

国の治安を守ること。

外国勢力を押さえつけること。

王として威厳を保ち民から尊敬されること。


どれも簡単のように見えてすごく大変だ。


お前に王の資質はあるか?

それは……

なりたいと思ったことは?

無いわけではないかな……


王は孤独なのさ。


次の王に譲るまであらゆる意味でやり続けるしかないのさ。


おっと無駄話もこれまでだ。

俺は行かなくてはならない。

明日までに演舞を完璧にしておけよ。


分かってます。


はっはは! 次期国王!


ふざけ過ぎですよ。


何を言ってる?


お前にもまだチャンスがある。

明日の式までに王を退位させればいい。

簡単だろ? はっはは!


隊長は行ってしまった。


どこまで本気か分からないがまさか唆しているとも思えないし。


そもそも俺には王などまったく興味が無かった。

気楽な第三王子として何不自由なく暮らせればそれで良かった。


あれ? 変だぞ。

無かった? 良かった?

まるで過去の話をしているかのようだ。


俺は? どうしてしまったんだ?


いつの間にか己の内に宿った野望の二文字。


俺が俺じゃないみたいだ。

抑えきれない衝動。


まさかね……


ふん。くだらない。


俺に今さら何ができる?


うーん。


最終確認を終える。

演舞完成。


館に戻る。


                   続く



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