ここはどこ?
太郎王子と七人の旅人
第一章 王子と五人の花嫁
ファンタジー編
プロローグ
闇夜。
男二人が血眼になって追いかけてくる。
おい! いたぞ!
やべー。見つかった!
こっちだ! 早くしろ!
くそ! 冗談じゃね!
待て! この野郎!
待てるかって!
全力疾走。
待て! 待て! このガキ!
まずい逃げ切れね!
おい! 逃がすな! 周りを固めろ!
廃屋が目に入る。
よし、チャンス!
廃屋に入りかけた時、第六感が働いた。
明らかに目立つ場所。ここに隠れてはいずれ見つかる。
計画変更。
急いで草むらに身を隠す。
男たちは案の定廃屋に入っていく。
三十分が過ぎ、もう間もなく一時間。
追手はもういないだろう。
夜道を駅方面に。
ふう。何とか…… うん?
突如体が重くなる。
太郎君見っけ!
大柄な男と無理矢理肩を組む。
俺は……
うん? ううん?
人違いです。
太郎じゃねってか?
ううう……
太郎などと言う名前ではない。太郎は奴らが付けたあだ名だ。
貧乏太郎かアホ太郎かクズ太郎か知らないが奴らが勝手につけたのだ。
おい! 太郎いいかげんにしろ!
俺は違うと言ってるだろう……
ああん? いいからこっちに来ようね。
人通りの少ない路地裏で耐える。
いつになったら返してくれるのかなあ。太郎!
すいません。すいません。
いいんだよ。そういつでも。ストレス発散にはちょうどいい。
救世主登場?
うーんどうしたのかな。へへへ。
酔っぱらいが乱入する。しかし男の圧に素面に戻る。
すんませーん。
続いてカップルが登場。いちゃつき始める。
カップルはこちらを見ようとしない。
おい! 行くぞ!
仲間が止めに入る。
いいか! 次は忘れるな!
何発かくらい服もボロボロだが意識はしっかりしている。
今日は軽い。
助かった。もう一人はプロだ。もし奴に先に捕まっていたら病院送りだ。
立ち上がり服をはたく。
カップルはいちゃつくのに夢中でこちらを見ようともしない。
はーあ。ちくしょう!
なぜ俺だけこんな目に……
とぼとぼ歩きだす。
翌日。
今週はもう大丈夫だろう。
奴等も暇ではない。
他のお客の相手に忙しいはずだ。
おいちょっと君!
昼時に職務質問を受ける。
俺?
そうだ。君以外いないだろう。
お巡りさん。俺は別に何も悪い事……
うん? 挙動不審だな。
いえ、あの……
いいから身分証を見せなさい!
いや、持ってないし。近所だから。
言い訳は良い。問い合わせをするからそこで待ってろ!
急いでるんですけど!
知ったことか! 荷物の確認もさせてもらうよ。
警官は無線で連絡。
相棒の男とこそこそ話しこちらを見る。
何度目だろうか?
今年で?
今月で?
一週間で?
俺と同様歩いている男女。
自転車。
違法駐車の車。
こちらを遠くから見ているサングラスの男。
嫌ね! と話す主婦連中。
平日の昼間とはいえ結構の数がいる。
その中で俺だけにスポットライトを当てる警察官。
この凶悪な人相が災いしている。
しかしこの体と顔は生まれつき。気持ち悪がられ、嫌がられるのにはもう慣れたができるなら放っておいてほしい。
仕事や普段の生活にも影響が出てはやっていられない。
好んで近づくのは昨日のやばい人ぐらいなものだ。
踏んだり蹴ったりの人生。
幸せなど無縁だ。
あーあ。どこか遠い所へ行きたいぜ。
いきなり声が聞こえた。
ああ、君もういいよ。ご苦労さん。
興味を失った警察官。別のターゲットを求めて人混みに紛れる。
少しは謝罪の言葉を口にしてもいいのだが。
切り替えて駅に向かう。
プツン
そこまでは覚えていたんですけどね。
弁護士さん!
拘置所の中。
接見が許された。
俺には何が何だかさっぱり。
ええとですね。認めた方が良いですよ。
五十代のやる気のない国選弁護人。
有能な弁護士を雇う金もない。
保釈金も払えない。
どちらを?
両方ともですね。
だから記憶が無いんだって!
犯人はそう言うんです。被害者に申し訳ないと思わないんですか。
被害者?
幼気な十代の女の子。
それから男。昨夜も絡まれていたそうで。
俺はやってないよ!
こちらも仕事ですのでできる限りの事はしたいと思いますが冤罪は考えにくい。
どうして?
女の子の方は証人がいます。乗務員が駆けつけた時にあなた体に触れていたでしょう? 酔っぱらってたではすみませんよ。
俺が? いや、そんな事あるものか!
覆しがたい事実です。反省してください。
反省などするものか!
心証に悪いですよ。
弁護士さん!
私にはどうにもなりません。反省している態度をみせるのがいい。
とにかく謝罪しましょう。ちょうど被害者が帰るところです。
弁護士に従う。
形だけの謝罪。
深々と頭を下げる。
反応がない。
嫌がっている?
それはそうだろう。被害者なのだから。
まったく覚えがない。
見た目はかわいらしく大人しそうに見える。
どこにでもいる女の子。
俺はなんてことをしたんだろう。
伏し目がちな少女。笑顔も見える。リラックスしている?
少女は天使の微笑みを見せる。
一瞬で虜になっている自分がいる。
何と美しい。
可愛らしい。
間違いない俺だ! 俺がやったんだ!
俺が……
口ごもる。
なぜなら天使には程遠い、計算高い女の顔が見受けられたからだ。
天使の微笑みが悪魔のささやきに変わった。
おじさん。早く払ってね。ふふふ。
弁護士と彼女の付き添いは話に夢中で少女の悪意に気が付かない。
微笑みを残し去っていく黒髪の少女。
俺はやったのか?
いや、そんなはずはない!
弁護士が戻ってきた。
示談になりそうです。
なあ! あんなに普通に笑っているのはおかしくないか。
まだそんなことを言ってるんですか。
怪しい。
彼女なりに精一杯対応してるんでしょう。笑顔を見せるなんて強い子だ。
良く言えばそうですが…… 何て言うか。
示談にしましょう。
弁護士に押し切られる。
拘置所へ。
一晩は仕方ないと弁護士は言う。
明日から別件の取り調べが行われる。
続く