真面目系
撥ねられた、確実に。それも大型トラックに。そういえばおじさんも跳ねられてだけど大丈夫かな?
私はそんな事を考えた。
ん?考えた???
周りは何も見えないし、体の感覚もないけれど、どうやら私は考え続けているみたいだということに気がついた。
これが死ってやつなのかな?だとしたらずっとこのまま意識があるのだろうか。それはそれで退屈で辛くなりそうだな。そもそも確かに(もう死んじゃいたい)なんて思ったけど 、あれは言葉のあやってやつでどちらかと言うと消えてなくなりたかっただけで…意識があるままなら意味ないじゃん
(おそらく)死んでもなお私はぐるぐると考え続ける癖は抜けないらしい。さて、どうしたものだろう
『お疲れ様でーす』
私の永遠に続くと思われた思考は、明るいギャルみたいな喋り方の声によって遮られた。
『ヒカリ マツモト様ですね?初めまして!天使ちゃんです!あ、握手しましょー握手!!』
これはギャルだ、確実に。声だけでなく思考回路もギャルだ。だって、自分にちゃん付けしたし。
『えー!データ通りで固いですね~握手のノリも分からない感じ??』
「いや、そもそも何も見えてないですし…」
つい思った事を口にしてしまった。しまった。どうしよう。もっと丁寧な言い方あったんじゃないだろうか?天使って偉いのかな?あ、これ嫌われたら地獄行きとかあるのかな??
『あ!そうだった、そうだった!』
私の考えとは裏腹に、天使(?)はさほど気にしてない様子だった。正直安心した。
『はい、チーズ!』
パシャっと、スマホのカメラのシャッター音のような音がしたかと思うと目の前に見るからにギャルの女の子の顔が飛び込んできた
「うわっ!」
思わず後ろに飛びのいてしまった。さっきまではなかった後ろに飛びのくための体も存在していることにも気がつく。
『そんなにびっくりしないで~』
ケラケラと笑うギャルは、ルーズソックスにセーラー服の一昔前のギャルの格好をしていた。でも顔は薄化粧で低い位置で黒髪を二つに結えたおさげをした少し幼い、でも人好きのする可愛らしい素朴な顔をしているから少しアンバランスだ。
「私死んだんですか?トラックに轢かれました?」
自分の体を確認しながら目の前のギャルに尋ねる。肩までの黒髪、黒のパンプスから伸びる小太りの足、短く切り揃えられた爪。確認したところ自分の体だ。
『あ!そうなの!』
ぽんっと手を叩いてギャルがしゃべる。
『しかもびっくり!自殺しようとしてわざわざトラックの前に歩き出したおじさんの背中を追っかけて、一緒に撥ねられちゃったんだよ!まじでドンマイすぎるよね!』
ギャルは大袈裟に残念という感じの表情を作りながら話す。
そうか、確かにあの時目の前のおじさんの背中になんとなくついて行きながら歩いてたけど、まさか自殺希望者だったとは…
『でね!お姉さんの死に方と人生があまりにもドンマイすぎたから来世に期待させてあげようってことになったの!すごいでしょ!』
「ん、ちょっと待ってください。死に方がドンマイなのは分かりますけど、私の人生ってそんなにドンマイでしまか?」
私は真面目に生きてきた。そんなに酷い目にも、悲劇的な目にもあってない。
至って普通の人生を真面目に歩んできたはずだ。
それを『ドンマイすぎる人生』と言われるのには少々疑問を覚える。
『お姉さん1番仲のいいお友達は?』
「え?」
ギャルからのいきなりの質問に言葉が詰まる。
『だから!1番仲のいいお友達は?青春時代の1番の思い出は?1番の失態は?お姉さんの長所は?』
「………」
言葉に詰まる。いきなりの質問だったからではない。答えられない質問だからだ。
1番仲のいい友達なんていない。
自分から連絡を取れる友達を作ることができなかったから。
青春時代の1番の思い出なんて思い出せない。
ただ、真面目な学校生活を送ってきた
1番の失態なんてない。
怒られるのが、嫌われるのが、低い評価を下されるのがこわくて、ただ真面目に生きてきた。出来ることだけをやって、出来ないことにははなから挑戦しなかった。
ただひとつだけ答えられるとしたら
「私の長所は真面目なところ…です。」