表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/39

005 聖女の、身代わり、だって?

「待ちきれなかったのさ」


 歌うような話し方をするひと、だ。

 ゆっくりと、わたしは彼に視線を向ける。


 朱色。


 細身の男性は、真っ白な肌に朱色の髪と瞳の持ち主。

 切れ長の瞳からは溢れんばかりの高貴さが滲んでいて、彼こそがとある御方だというのはすぐに理解できた。

 ヴェール越しにも視線の合ったことに気づいたようで、右手を自らの胸の辺りに当てて、微笑みかけてくる。


「初めまして、イロハ。私の名はグラシア・ウノ・レイ・アンテパサード。この国の第一王子」


 だ、第一王子……!?


 よほど驚いた顔をしてしまったのだろう。

 くすくす、とグラシア王子は口元に手を当てて笑みを零した。


 確かに着ているものが王子っぽい。

 無造作に見えるように整えられた髪型も、計算されているようで王子っぽい。


 白いジャケットにゴールドのたすき。胸元にも豪華なワッペンみたいなたくさんの飾り。

 縁取りは上品なゴールド。

 ペールグリーンのマントが風にひらひらとはためいている。

 ズボンもペールグリーンで、黒くて丈の長いブーツにインしている。


 デセオもだけど、王子も、眩しい。観賞用としての見た目がすごい。


 そんなわたしの思考など知らないグラシア王子はこちらに寄ってきて、顔を傾けてわざと覗くようなそぶりを見せた。

 いい香りがする、王子。これは花の香りだろうか?


「いいね。背丈も体型も近い」

「王子もそう感じますか」


 ん? だ、誰と?


「顔が見たい。ヴェールを取り去っても?」

「駄目です。まずは執務室にお戻りください」

「騎士団長殿は真面目だなぁ」


 なるほど。

 デセオは、騎士団長なのか。妙に納得してしまう。

 グラシア王子はへらへらしていて、騎士団長のデセオは生真面目。

 わたしの異世界メモには無事、新情報が追加された。




★ ★ ★




 何故だかわたしたちはグラシア王子の執務室とやらにいた。


 外観はあかかったけれど、城内は白を基調とした落ち着いたものだった。

 高い天井の廊下は人気がなく静かで、わたしは王子と騎士団長の後ろに黙ってついていった。濃い紅色の絨毯が敷かれた階段を昇り、見たことのない高級そうなデザインの扉を王子自らが開けた。


 促されるまま中に入ると、奥の壁にはレースカーテンのかかった大きな窓が見えた。窓の前にはダークブラウンのデスクと座り心地のよさそうな椅子があった。

 両端の壁にはぎっしりと詰まった本棚が備え付けられていて、この部屋の主が几帳面であることが容易に想像できた。


 主、つまり王子はデスクの奥の椅子に座ると、両膝をデスクの上に置いて手を組む。


「もういいだろう? ヴェールを取ってみせてくれ」


 扉の前に立ったまま、ななめ前に立つちらりとデセオへ視線を向ける。

 するとデセオが振り返ってくれたので、わたしはおそるおそるヴェールを取った。

 はぁ、明るい。ようやく視界が良好になった。


 明るい室内で見る王子と騎士団長のイケメンっぷりにあらためて感動を覚える。


 グラシア王子。

 細身で、真っ白な肌に朱色の髪と切れ長の瞳。

 白いジャケットの縁取りは落ち着いだゴールド。さらにはゴールドのたすき。

 ズボンもペールグリーンで、黒くて丈の長いブーツにインしている。

 ペールグリーンのマントは外されて椅子にかけられた。


 騎士団長デセオ。

 濃い目の金髪。

 瞳は菫色の奥二重。

 右眉から左頬にかけて大きな傷跡。

 服の上からでも分かる、たくましい体つき。

 ダークグレーのジャケットには、ナポレオンボタン。

 縁取りは鈍く輝く黒色。

 王子と同じくズボンはブーツにインしている。色はどちらもダークグレー。


 ……映画の世界だわ。


「黒髪に黒目か。うん、珍しい」


 満足げに王子が頷く。

 この世界では黒髪は珍しいのか。金髪がスタンダードなのかな?


「要件を簡単に言おう。君に聖女の身代わりとなってほしいんだよ、イロハ」

「……え?」


 聖女の、身代わり、だって?


 あのよくファンタジーに出てくる、なんなら主役か準主役扱いの、あの聖女?

 いやいやいやいや。

 わたしがいくら異世界転移者だからって、そんな!?


「い、意味が分かりません……」


 声が上ずってしまうも、王子は淡々と続けた。


「デセオから、君には名前以外の記憶がないという風に聞いているが、この国が聖女の力で守られているのは覚えているかい?」


 いえ、知りません。全然、存じ上げません。

 首を横に振って答える。


「勿論、聖女も人間だから寿命があるので、代替わりをしながら脈々と国を守ってくれている。この国では騎士団ですら聖女のために存在する。王族は聖女から神託を受け、政を代行しているにすぎない」


 へー。今、チュートタイムなのかな。

 ここにきてこの異世界転移、設定がやさしくなってきたぞ。


「ところが、だ。ひと月ほど前、当代の聖女が行方をくらました。聖女がいなくなるというのは国にとっては一大事だから公にすることはできない。水面下で必死に捜索していたものの、痕跡すらつかめずに困っていた」


 つまりデセオが夜中に外出していたのも、聖女を探していたということ、なのかな。

 そして国家機密を聞かされたこの時点でわたしに拒否権はないらしい。

 おぉっと。展開がやさしくないぞ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ