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038 元凶はわたしである。ちょっと、いや、かなり後悔している。

 ダイニングテーブルは分厚い木の板でできていて、奥では暖炉の火が燃えている。


 王子は、まるで家の主のようにダイニングに座った。


「寒くて凍えそうだ。温かなものが飲みたいな」

「……」


 デセオが本物の聖女に目配せする。

 慌てて聖女は王子の傍らへと駆け寄った。


「グラシア王子。どうかお許しください……! デセオは何ひとつ悪くありません。すべてはわたくしの弱さが招いたことなのです」

「なるほど。君の弱さで、私は地下牢へ投獄されたのか」


 聖女の顔が青白く、唇が紫色になる。


 グラシア王子、性格が悪いです! 知ってました!

 デセオがキッチンからわたしを見た。


「お前も座れ」

「は、はい」


 ダイニングテーブルの椅子は四人分あったので、迷わずグラシア王子の横に座る。

 デセオがホットココアを四つ用意して、わたしの向かいに座った。

 最後に腰かけたのは聖女だった。


 ぱちぱちと、火のはぜる音がする。


 ホットココアは木のコップに入っていた。

 両手で持つと、自分の手が指先まで冷えていたことに気づく。


 ふー、ふー。


 息で冷ますと、湯気が顔に当たって、なんだかほっとする。

 とろみのある濃いココアだ。

 砂糖も入っていてちょうどいい甘さだ。染みる……。


 ただ、ココアと部屋は暖かいけれど、空気はすっかり冷え切っていた。

 元凶はわたしである。ちょっと、いや、かなり後悔している。


 ココアを飲み干したグラシア王子は、わざとらしく手を叩いた。


「見事な演技だったよ。流石、当代聖女、第一主義」


 王子ー、目が笑っていないですー。

 この冷えた空気の最大の要因であることは間違いない。


「グラシア王子。彼は、何も悪くないんですっ……」


 デセオは何も悪くない。

 そう訴える聖女はどこにでもいるような、ふつうの女性だった。


 誰が似ているだって?

 可憐で、わたしにちっとも似ていないぞ。

 この件に関しては男性ふたりを問い詰めたい思いである。


「糾弾するならすればいい。そんなことをすれば、この国にどんな災いがもたらされることか」

「まぁ、そうだろうね」


 王子が立ち上がる。


 ぐいっ、とデセオの首元をつかんで、顔を寄せた。


「王子、おやめください……」

「せいぜい当代聖女を大事にすることだ」


 低く重たい声は、まるで剣のようで。

 手をぱっと離すと王子は家から出て行った。


 置いて行かないでください、王子!

 慌てて立ち上がる。


「おっ、お邪魔しました! あっ」


 わたしは肩にかけていたレースモチーフブランケットを聖女の膝へかけた。


 きらきら……。


 ブランケットはわたしの気持ちに呼応してくれたのか、静かな光を放ち出した。


「これは」


 弱々しく光る菫色の瞳と、視線が合う。


「あの。体、大事にしてください。このレースモチーフブランケットにはふしぎな力があるみたいなので、きっと役に立つと思います」

「……え?」


 首を傾げた聖女に、頭を下げる。


()()()()()だって言いますから。それじゃっ」


 聖女は口を開きかけたけれどわたしは振り返らなかった。


 たぶん振り返ったら大人げなく泣き喚いてしまう。

 デセオのばーかっ! と。

 当代聖女を守るために、すべてを裏切って、捨てるなんて。

 永遠に、絶対に、理解できない。


 だから、せめて聖女のことはきちんと守りきってほしい……。


「わたしも、ばかだ」


 呟くと鼻の奥だけが異様に熱さと痛みを訴えてきた。

 雪はうっすらと積もっていて、足跡を追って走る。


 グラシア王子、歩くのが速すぎます。


 ようやく追いつくと、王子はうなだれているように……見えた。

 近づいてきたのがわたしだと分かったようで背中越しに話しかけてくる。


「話をするんじゃなかったな」

「……すみません」

「だけど、してよかったと思える日が来るかもしれないんだろう?」


 振り返ったグラシア王子は、わたしのことを抱きしめてきた。 


「責任は取ってもらおうか」


 そっと背中に手を回す。

 顔が見えないけれど、王子は泣いているんだろうか。

 それとも怒っているんだろうか。


 背中から手を離して、ぽんぽんと頭を撫でた。

 グラシア王子はわたしの肩に顔を埋めて、小さく、小さく呟いた。


「それに、君が聖女でいてくれたら十分だ。……最後まで信じてくれてありがとう、イロハ」

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