028 疑うより信じることの方がずっとずっと難しいから、信じたいです
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「あたくし、知っていますの。聖女の行方」
聖女の部屋に連れて行くと、レフィナド王女ははっきりと口にした。
いやいやいやいや!?
突然すぎるんですが。ちょっと心の準備ができていないんですが……?
レフィナド王女は俯いたまま続けた。
「誰かに打ち明ければその相手にも危害が及ぶと思って、今まで言えませんでした」
「もしかして……だから、ずっと引きこもっていたんですか?」
王女が無言で頷く。
まさか、引きこもりにそんな重要な理由があったなんて。
誰も巻き込むことができずにひとりで抱えていたなんて……。
なにがわがまま王女だ。
他人のことを思いやれる子だよ、レフィナド王女は。
色んな想いを、言葉を、飲み込む。
「偉かったですね」
不敬かなと思いつつ、ぽん、と頭を撫でた。
王女は震えながら言葉を紡ぐ。
「イロハ。貴女に託したいのです」
「何をですか」
思い切ったように顔を上げたレフィナド王女。
朱色の瞳は揺らいでいて、いろんな感情が浮かんで見えた。
「あたくしの代わりに、真実を暴いてくださるかしら」
「わかりました」
即答するとかえって驚いたようで、王女はブランケットを取ってわたしを見上げてきた。
澱んでいた瞳が一気に透き通る。
驚きが、表情に浮かんでいるようだった。
「あたくしの話を信じてくださったの?」
「信じます。疑うより信じることの方がずっとずっと難しいから、信じたいです」
瞳が潤み始める。
頷くと、王女の白い頬に雫が滑り落ちていく。
わたしは少し身を屈めて、王女の両肩に手を置いた。
「レフィナド王女も信じたいから、託してくださるんでしょう?」
再び王女が頷いた。最初よりも、力強く。
「で、誰なんですか? 本物の聖女を攫ったのは」
「それは……」
レフィナド王女が答えかけたときだった。
「聖女様。デセオ様がお呼びです」
扉がノックされて、使用人さんの声が聞こえてきた。
「デセオが? えぇと」
「火急の用とのことで、地下室にいらっしゃいます」
どんな用事だ。
振り返ると、レフィナド王女は首を横に振ってブランケットを被り直した。
「あたくしは城へ帰りますわ。この話は、日を改めます」
「王女……」
それこそわたしではなくてデセオに相談した方が一気に解決できるのでは?
言いかけて止める。
騎士団長にすら打ち明けられなかったということはつまり……。
もしかしたら、実の兄が関わっているから、なのかもしれない。
せっかく事件解決のチャンスだったけれど、しかたない。
地下室まで降りて行くと、朝となんら変わらない無愛想なデセオが立っていた。
「どうしたんですか。火急の用だなんて珍しい」
明日じゃ駄目だったんですか、と暗に込めてみる。
もちろんデセオはちっとも動じないけれど。
「アービルの処刑日が決まった」
「処刑、日!?」
声が大きくなってしまう。
地下室でよかった。ここには今、わたしたちしかいない。
「わたしは危害なんて加えられていませんよ」
「十分だろう。拉致監禁、それだけで立派な犯罪だ」
「そんな……」
「これ以上、当代聖女失踪の件に関わるな」
冷たい菫色の瞳が見下ろしてくる。
背筋が一気に冷えていくようだった。
「わたしに関わったひとは、不敬罪とみなされる、ということですか」
否定も肯定もされない問いかけ。
ぐっと拳を握りしめる。
聖女とは、神聖不可侵な存在で。
〈誰かに打ち明ければその相手にも危害が及ぶと思って、今まで言えませんでした〉
〈あたくしの代わりに、真実を暴いてくださるかしら〉
王女ですら関われない領域、なのだ。
「……分かりました」
「物分かりがいいな」
「わたしのせいで誰かが不幸になるなんて耐えられませんから。だけど、デセオ。アービルに会うことはできませんか? 話をしたいのですが」
「無理だ。罪人と聖女が面会するだなんて、もってのほかだ」
「そうです、よね」
駄目元で尋ねてみたけれど、やっぱり無理か。
「お前にできる唯一のことは、身代わりとして民へ希望を与え続けることだけだ」
伝えたいことは言い終わった、とデセオは地下室から出て行った。
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だからといって大人しく閉じこもっているようなわたしではない。
デセオが騎士団へ戻って行ったのを確認したわたしは、フエルテさんから借りている変装セットに着替えた。
この際、申し訳ないとか恐れ多いとは言っていられない。
城を抜け出すためにベルダーを呼ぶとすぐに現れてくれた。
「ベルダー、ありがとう」
『礼には及ばない』
久しぶりのもふもふタクシー。
ベルダーの周りは空気に包まれているのかなんなのか、雨が一切当たらない。すばらしい仕様だ。
『しっかり捕まっていろ』
「はい」
あっという間にギルドが視界に入った。
いつものように人気のないところで下ろしてもらい、わたしはベルダーを撫でた。
もふもふはちっとも濡れていない。もふもふ。
『何かあればすぐ呼べ』
銀の狼の姿のまま、ベルダーは飛び去っていった。
「……さて、と」




