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019 わたしも気に入ってもらえたと判断したのでよしとします。

 デセオがテーブルに紙幣を置いて立ち上がる。


「この問題は、余計な真似をすれば誰だって命はない。そのことを、よく覚えておけ」

「……」

「帰るぞ。馬車を用意してある」

「……はい」


 抵抗するなんてできなかった。

 ここにきて、こんなにもやもやするなんて思わなかったよ……。



★ ★ ★




 曇りや雨のどんよりした日が増え、暦はオニフの月に入った。


 一ヶ月ほど、わたしは外に出なかった。

 ひたすらモチーフを編んで、編んで、編み続けた。

 幸か不幸か、グラシア王子も忙しいらしく塔に顔を出すことはなかった。

 どんな顔をして会えばいいか分からなかったからちょうどよかった。

 

「できたー!!」


 両手いっぱいに広げてちょうどいい、特大のレースモチーフブランケット。

 上品な白いレース糸で描かれた花はなんだか煌めいて見える。

 いろんな花のモチーフを繋ぎ合わせてみたらなかなかの眺めになった。

 スマホがあればたくさん写真を撮りたいくらいの大作、力作。


 もちろん、レフィナド王女からの依頼品だ。

 首を左右に動かして凝りをほぐそうとしてみる。

 今日はいつも以上にしっかりとお風呂に入ろう。


 誰かに見てもらいたくて食堂へ降りていくと、珍しくデセオが残っていた。


「どうした」

「見てください。完成しました、王女の依頼品です!」


 あらすごい、すばらしい、流石聖女様。

 先にシェフがキッチンから拍手を送ってくれる。


 デセオも珍しく、菫色の瞳を見開いた。


「強い力を感じる。腕を上げたな」


 えーと、それはかぎ針編みのテクニックですか?

 それともふしぎな力の方ですか? まぁいいや。


「お手数ですが王女へお渡ししていただけませんか」

「自分で渡しに行けばいいだろう」

「へ?」


 まさか、塔から出ていいと言われるなんて思っていなかったぞ。

 いや、でも、王女に会いに行くということは……王子とも顔を合わせそうだ……気まずい……でも、会わないかもしれないし。忙しいって言ってたし。


「い、いいん、ですか?」

「いいも何も、お前が頼まれた品物だろう。それに最近は塔からまったく外出していないのでは?」

「その通りですけど」


 誰のせいで外に出づらくなったと。いや、それは言いがかりか。


「さっさと渡しに行ったらどうだ。騎士団へ戻るついでに、城の前までならついて行くが」

「は、はい。お願いします」


 ブランケットを丁寧に畳んで小さくする。

 すたすたと歩いて行ってしまうデセオを慌てて追いかけた。

 塔の外に出ると、窓から見た通りのどんよりとした曇り空。


 梅雨という概念があるのかどうか定かではないものの、連日雨が降り続いている。

 今日も、今にも雨が降り出しそうだ。


 植物園ではもしかしたら紫陽花が咲き誇っているかもしれない。


「もうすぐオニフの月のお言葉がある。外の空気にもある程度触れておけ」

「は、はい」


 聖女が国民の前に現れる行事は、月に一度あるらしい。

 またあの緊張感を味わわねばならないとは。

 分かっていても、溜め息が出てしまう。


「この前みたいにやれば問題ない。可能なら、それよりも上達していることを望む」

「が、がんばり、ます」


 あっという間にあかい城へ到着してしまった。

 久しぶりの道を歩いて城の扉へ辿り着くと、門番が会釈して開けてくれた。


「ありがとうございます。行ってきます」


 無言で頷くと、デセオは身を翻して去っていった。


 デセオはこれから鍛錬の時間なのだろうか。

 ほんとうに忙しいひとだ。 


 迷わずに王女の部屋の前に辿り着いた。

 扉をノックすると、誰かしらと尋ねる高い声。


「ご無沙汰しております、聖女です。無事にブランケットが完成しました」

「入りなさい」

「失礼します」


 ビビッドな赤、紫、黄色、オレンジ、緑。

 色の洪水。

 煌びやかな部屋の中央、相も変わらず王女は黒い布のなかに引きこもっていた。


 もぞもぞ。

 布のかたまりが動いて、レフィナド王女が顔だけ出した。


 病人よりはわずかに健康的な白い肌は、透き通っているかのように滑らか。

 艶のある巻き髪は輝く黄金。

 ボリュームと長さがしっかりとある睫毛に縁どられた大きな瞳。


 わたしを視認して、王女はブランケットから這い出てきた。

 そのまま、床にぺたりと座る。

 本日の寝間着はぶどう色だ。


 大人の余裕を見せようと、しゃがんで目線を合わせてみた。


「お待たせいたしました、レフィナド王女」

「待ちくたびれたわ」


 両手でブランケット差し出すと奪うようにレフィナド王女は手に取った。

 両腕を伸ばして広げて見た瞬間に、ぱぁっと朱い瞳が輝く。

 わずかに頬も紅潮した。

 よかった。気に入ってもらえたみたいだ。


 レフィナド王女は喜びに満ちた表情を一瞬で消すと、わたしを冷たく見つめてきた。


「あたくしから頼んだものとはいえ、何かに包んでから渡そうと思わなかったのかしら?」

「すみません、ラッピング用品はあいにく持ってなくて」

「ふん。まぁ、いいわ」


 そうですね。わたしも気に入ってもらえたと判断したのでよしとします。


「どうですか? 被れそうですか?」

「見て分からないのかしら」


 憎まれ口をたたきつつ、レフィナド王女はブランケットを頭から被った。

 透かし編みだから黒い布と違って王女は見えてしまう。

 それでも、きらきらと煌めくブランケットにご満悦のようだ。


「では、わたしはこれで」


 立ち上がって振り返ったときだった。


「おや。すばらしい出来だね」

「お兄様」

「グ、グラシア王子」

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