表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/39

018 反体制派ではない、ということですか。

 突然本来の目的に戻ってきてしまった。

 できる限り、耳をそばだててみる。


「数年ぶりに城へ入ったけれど、やはり聖女様は顔が見えなくても神々しい」

「分かる分かる。あんな御方の加護のもと暮らしている俺たちは幸せだなぁ」


 ……えーと。

 それって、ヨマの月のお言葉って行事?

 つまり、わたしのことでは……?


 冷や汗、たらり。


 騙していてすみません。それは本物の聖女じゃなくて身代わりです。

 わたしにそんなすごい力はありません……。

 せいぜい、編んだレースで精霊王を捕獲したり、王子の怪我を一瞬で治したりできるくらいです。

 あれ? それはそれですごい?


 なんて考えていたら、目の前に影がかかった。


「……」


 今度こそ、ほんとうに冷や汗が流れた。

 テーブルの向かいに座ったのは見慣れた人物だったのだ。


 濃い目の金髪は、午前中に顔を合わせたときのままきちんと整えられている。

 奥二重の瞳は菫色。

 右眉から左頬にかけての大きな傷跡。


 オフホワイトのカッターシャツをダークグレーのズボンにインして、ベルトでウエストを調節しているものの、ホワイトカラーみたいな恰好にはなんだか違和感がある。

 この男にはナポレオンジャケットが似合いすぎるのだ。


「デセオ。あの、これは」


 眉を顰めて、いつもの無愛想に不機嫌を程よくミックスした雰囲気のまま。

 騎士団長殿は、注文を取りに来た店員へ、アイスコーヒーと告げた。


 早々にバレていた。塔の外に出たことが。

 いや、バレるか。そりゃ、そうか。

 そしてデセオも飲み物を頼んだということは、今すぐ連れ戻すということはなさそうだ。


「王子に頼まれた」


 運ばれてきたアイスコーヒーを口に含んだ後、デセオが告げた。


「ななな、なにを、ですか」

「聖女は街歩きを気に入ったようだ。危険な目に遭わないようにするのも騎士団長の務めだと」

「うぐっ」

「そもそも城を抜け出してバレないと思っていたのか?」


 仰る通りです。

 睨まれて、肩を竦めるしかない。


「わ、わたしは本物の聖女を見つけたいんです」


 周りに聞かれないように『聖女』は口の動きだけで主張した。

 すると予想通りの答えだったのか、デセオはしっかりと溜め息を吐きだした。


「それこそ、簡単にいなくなったと思っているのか?」

「……え?」


 わたし不要論ではない、初めての発言。

 突然何を言い出したのだ?

 わたしの動揺などおかまいなしに、デセオは淡々と言葉を紡ぐ。


「お前だって精霊王の力がなければ外に出られないだろうが。城には建国当時から聖女を守るための厳重な警備の数々がある」

「あ……」

「つまり、失踪は内部犯である可能性が高い」


 内部の犯行、だって?


 ようやく、デセオは話してくれた。

 聖女探しについて。

 それなのにもやもや感が増したのはどうしてなんだろう。


 デセオはそっと、額の傷に、自らの左手で触れた。

 ぎりりと奥歯を噛みしめ、苦虫を嚙み潰したような表情になる。


「聖女の力を利用しようとする輩は腐るほどいる。それから、現国王をよく思わない反体制派も存在する。反体制派は、聖女の立場が危うくなれば国王もまた足元が不安定になると考えている」

「権力闘争、ってやつですか」


 この国は王族よりも聖女優先で成り立っている。

 騎士団も、王族ではなく聖女を守るための存在。

 それは学んできたし、体感もした。


 聖女が消えたら、現国王の立場も危うくなる。

 つまり政治に利用されて行方不明になったと。

 デセオが暗に言っているのは、そういうことなのだ。


 そういえば城の敷地内で生活しはじめて一ヶ月以上経つのに、国王に会ったことがない。

 わたしのなかに生まれた疑問に、デセオが先回りするように言う。


「国王はお優しい方だ。俺みたいな下々の者にも救いの手を差し伸べてくれ、道を作ってくださった。しかし、数年前床に臥せられてから、すっかり人が変わってしまった」

「どういう意味ですか」

「お優しいが故に心を病んでしまわれたのだ。数年ののち快癒したように見えたが、実際は女性問題が後を絶たなくなってしまった。政を置いて、日がな女性のもとへ足を運んでいる。それも日替わりで。噂としてほとんどの国民が耳にしているとは思うが、城としては決して認めていない」

「うわぁ……」


 国王としての重責はとてつもないのだろうけれど、それはちょっと……。


 デセオはあっという間にアイスコーヒーを飲み干した。

 からん、と氷が音を立てる。


「そんな国王に付け入って国を勝手に動かそうとしている輩がいるのは事実だ。ちなみに、そんな国王を憎むようになって、周りの腐った輩共々引きずり降ろそうとしている反体制派のリーダーがグラシア王子だ」

「え……」


 今の会話でいちばん、心臓が跳ねた。

 この話の流れって、つまり。

 デセオは少なからず、グラシア王子を疑っているということ……?


「王子からきつく言われている。会わせたら何が起きるか分からないから、聖女は決して国王に会わせるなと」

「……デセオも、賛成なんですか?」

「拾っていただいた恩義がある。そして、本来はお優しい性格なのだ。それを絡めとろうとする腐った輩の方が圧倒的に悪だ」

「反体制派ではない、ということですか」

「俺は俺のやり方で真実を突き止める」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ