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014 流石、自他共に認める当代聖女第一主義。

 ちらりと視線を向けられて、王女は気まずそうに視線を逸らした。


「……関係はありませんわ」


 いやいや!?

 めっちゃ関係ありそうな感じー!!


 うーん。でも、今はこれ以上訊くのはよくなさそうだ。


「まぁ、しっかりと被れたらいいんですよね? 急いで仕上げますよ」

「期待していますわ」


 目を逸らしたまま王女が答えた。

 もうちょっと関係を築いてから、追及してみればいいかな。




★ ★ ★




 手のひらサイズの正方形モチーフをいくつも作って繋ぎ合わせる。

 それが、レース編みモチーフブランケットの一般的な作り方だ。


 用意してもらった本から、図案を拾って編み始める。


 薔薇。

 チューリップ。

 ガーベラ。

 百合。

 まるで、グラシア王子の植物園みたいだ。


 簡単なものから難易度の高いものまで、色んな種類をちまちまと編んでいく。

 右手にずっとかぎ針を握っていたら、指の、当たっていた部分が痛くなってきた。


「はー、肩がこる」


 目をしぱしぱさせながら息を吐き出す。

 膝の上にかぎ針と編みかけを置いて、両腕を上に伸ばした。


「調子はどうだ?」

「デセオ」

「差し入れだ」

「あ、ありがとうございます」


 デセオの持ってきたかごのなかには蓋つきの容器が入っていた。

 蓋を開けるとトマトのいい香りが漂ってきた。トマトスープには、色とりどりの豆がたっぷり詰まっている。ベーコンも入っているみたいだ。

 シェフが作ってくれたんだろうか。


 はふはふ。


 あぁ、ベーコンの旨みがトマトスープにじっくりとしみ出している……。

 豆もほくほくしていて美味しい。


 デセオがちらりとブランケットに視線を送った。

 本人が答えないなら、周りに訊いてみよう。


「王女って、昔から引きこもりなんですか?」

「いや、ここ最近のことだ。それまでは寧ろ活発的な御方だった。俺の姿を見るとまるで生まれたての雛のように後ろをついてきていたものだ」


 生まれたての雛……。

 つまり、なついていたっていうこと?


「へー。婚約者とかいそうなのに」

「当然、いる」


 デセオは律義に、呟きにも答えてくれた。


 やっぱり、そうなんだ。

 ということはグラシア王子にもいるんだろうな、婚約者。

 王族って大変だなー。


 はふはふ。ほくほく。


「久しぶりに王女の我儘を聞いた。ブランケットが欲しい、くらいなら可愛いものだ」

「それまでは一体どんな……。まぁいいや。婚約者といえば、デセオはデセオで、すっごく聖女第一主義ですよね」


 今は勉強の時間ではないから、なんとなく雑談を振ってみた。


「当然だ。そうでなければ騎士団長は務まらない」

「恋愛対象にはならないの?」


 ぴくりと眉が動く。ん? 図星?


「聖女とは聖なる存在、この国の象徴だ」


 はぐらかしたな。へー。ふーん。

 なるほどねぇ。


「聖女探しは順調に進んでますか」

「お前には関係ない」

「いやいやいやいや。関係大ありですから。聖女が見つかったら、ここから出て行くことになるんですからね!?」


 わたしの主張は、デセオには全く響かないようだった。

 流石、自他共に認める当代聖女第一主義。


「さっさと食べろ。シェフが根詰めるお前を気にかけて、特別に作ってくれたものだ」

「……はーい」


 やっぱり。これはきちんとお礼を言っておかねば。


「食べ終わったら廊下に置いておけ」

「はい。ありがとうございます」


 デセオが部屋から出ていった。

 体はぽかぽか。

 あくびが出る。このまま眠ってしまいそうだ。今、編み物を再開しても編み目を間違えそうだ。


「……そうだ」


 ヴェールを被り、かごを持って廊下に出て、そのままキッチンに降りる。


「ごちそうさまです!」

「聖女様。わざわざ降りてこられなくても」

「いえ、直接お礼を伝えたくて。美味しかったです!」

「聖女様にそう仰っていただけて光栄ですよ」


 シェフ、残業してしまったんだろうか。

 だとしたらちょっとだけ申し訳ない。というか、残業代って出るんだろうか? 出るよね?


「あの、実はかぎ針を外に落としてしまって。拾いに行ってもいいですか?」

「取りに行かせますよ」

「いやいやいやいや! すぐだから! 申し訳ないんで!」


 両手をひらひらと振って、わたしは食堂を後にする。

 そのまま門番にも同じ説明をして外に出た。


「作戦、成功っ!」


 黄昏時の森。

 ちょっとだけ空気が湿っている。

 見上げると月がぎらぎら眩しくて、外灯がなくても視界は良好。

 そういえばこの世界に転移してきた日も、こんな夜だった。


 記憶を頼りに歩いて行くと、門の前には衛兵が立っていた。


「……そりゃ、そうだよね」


 しまった。忘れていたけれどここは王城。

 さて、どうしたものか。


「精霊王がいたら、ぴゅーっとひとっ飛びできそうなのに」

『呼んだか』

「ぎゃー!?」


 人型の精霊王が背後に立っていた。

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