アゲラタム
『きみは仕事以外、何も無いでしょ。残業よろしく』
『こんな事もできないでよく生きてるね、生き恥ってきみのことを言うのかもね。』
上司の口から出る罵詈雑言に慣れることはなかった。
一語一句、鋭い針が心臓にチクチク刺さって抜けることのないまま淡々と月日が過ぎる。傷はカサブタになっても、また新しい傷ができる。
スミレ: 私なんか生きてる価値ないけど、お前も生きてる価値ないからなクソ上司が
スミレ: なんで生きてるのかな草
誰からもいいねが付かないと途端に不安になる。
本当に誰にも頼ることができず、孤独を強く実感する。
むやみにツイートしている自分にも情けなくなる。
このまま誰にも見つからずスマホ片手に死ぬかもしれないと思うのだ。
kaedeさんがあなたのツイートにいいねしました。
一件の通知で心がスっと安らぐ気がした。
まだ今週末彼と会うことに不安は残っているが、期待も大きいのは事実。友達のいない私にとって面と向かって悩みや不満を言い合える関係は少し憧れでもあるからだ。それから数日の間、不安と期待で眠れない日が続いた。
日曜日、19時の恵比寿は思ったよりも人が多く、慣れない人混みに早くも疲労が溜まる。
『駅前のドラッグストア近くにいます。白のコートにブラウンのワンピースを着ています。分からなかったら連絡して下さい。』
いつもより濃いアイシャドウに違和感を覚え今からトイレで落としてもう一度塗ろうかと思っていた矢先、眼前に成田凌佑似のkaede氏と思しき男性が現れた。
『はじめまして、僕なんかの誘いに乗ってくれて本当にありがとうございます。』
お互いに頭をペコペコし早々と挨拶を済ませた
外見はもちろん、私服のセンスもヘアスタイルも低い声も世間的にイケメンとされる部類に入る彼がどうして自殺を考えているのか、店に着く前に聞きたくなるほど興味があった。
駅から少し離れた場所にオススメの居酒屋がある、と紹介されたその店は海鮮料理と日本酒が美味しいと定評があるらしい。私たちはカウンターに座るや否や、店主に飲み物どうすると催促された。
『ウーロン茶お願いします』
『じゃあ私も』
迷うことなくウーロン茶をたのんだ彼に少し驚いた。
日本酒が売りの居酒屋だと紹介してくれたのは彼なのに。
『カエデさんはお酒飲まれないんですか?』
『大事な話をする時にお酒の力は借りないようにしてます。ほんとは好きなんですけどね。昨日なんか缶ビール3本飲みましたし。』
わたしはこの言葉を聞いた後
彼のような人に死んでほしくないと思った。