【ブライダルCM 前編】
ゴールデンウィーク合宿も無事に終わり6月になったある日、俺と翼は海が綺麗な結婚式場に来ていた。
何故ならば、とある監督からどうしても翼でブライダルのCMを取りたいというオファーがあり、監督と翼の両親が仲良い為引き受けるという選択肢しか翼にはなかったのだ。
そして翼が相手役を俺じゃないと嫌だと言い、俺まで出演する羽目になってしまった。
全くもっていい迷惑だ。
なんで俺がウエディングドレスを着なくてはならないのかと思ったが、翼ルートで起きるイベントだから仕方がない。
ってことはもしかして翼ルートに入ったのか?
いやでもまんべんなく好感度上げているからそれはないはず。
まぁ仕方ないとりあえずキチンと更に好感度上げるか。
これで翼が確かヒロインのことを意識し始めるんだよな。
ちなみにシスコンである瑛士はCMの出演を反対していたが、父親がOKした為瑛士は引くしかなかった。
だがその際に裏取引で瑛士に俺が赤ちゃんの時の写真を渡していたことを俺は知っている。
つまり瑛士は買収されただけだったのだ。
翼「無理やり付き合わせて悪かった」
玲「お父さんとお母さんの頼みなら仕方ないでしょ」
翼「まーな。いきなり帰国してきたと思ったら、CM出てとかマジでない」
玲「あはは。でも相手役私でよかったの?本当は今話題の女優さん起用する予定だったんでしょ?」
翼「月見里の方がよく知ってるし、気を使わなくて楽だろ。あと変に噂されたりするとめんどい」
玲「気を使われないことに対して喜んでいいのか怒っていいのかがわからない」
翼「一応褒めてる。最近誠と月見里と一緒にいることに対して違和感がない」
玲「それ私も!落ち着くんだよね」
翼「毎週会ってて出かけたりしていればそうなるか。週に1回以上は必ず鷹司先生もいるし」
玲「仕事忙しいだろうに合間を縫ってよくご飯連れて行ってくれるよね」
翼「そうだな」
まぁそれは俺が意図的に仕組んでいるからな!
同時に攻略する為に頑張って予定を調整してるんだよ!!!
本来のゲームだと誰か1人しか遊びに行く相手を選べないが、ここはゲームの世界であって現実でもあるから選択肢というものがない。
よって俺は学校にいる時間以外は自由に行動する事が出来る為、本来なら出来ないことが出来るのだ。
ただし、瑛士が家にいる時は極力家から出ないようにしないとならないという縛りがある。
Clubの時はほとんど出てこないのに、今は一緒に暮らしている為必然と接しないといけないし、なぜかシスコンを爆発させている。
Clubの世界線なのに瑛士に監禁エンドでもされたらシャレにならない。
瑛士に構いつつも俺は着実に3人の好感度アップに励んでいる。
「氷室さん!月見里さん!そろそろメイクと着替えお願いします」
玲「あっはーい!」
翼「今行きます」
玲「じゃああとでね」
スタッフに呼ばれ、俺たちは別々の控室に入った。
中に入ると女性が5人も待ち構えていた。案内されて椅子に座ると、メイク・髪そしてネイルをする為に一斉動き出した。
メイクはミスコンや元カノの悪ふざけで何回かしたことあるが、ネイルとかは初めてだな。
ネイルをしているところを見たいが、メイクや髪のセットの関係で動かす事が出来ない。
このままじっとしてるか。
スマホいじれないし。
そもそも瑛士からの着信履歴が怖い。
「月見里さんお肌綺麗ですね」
玲「ありがとうございます」
「元がいいからメイクもかなりやりがいがあります」
玲「あはは」
「氷室君が指名したって聞いていたので、どんな子なのかなって思っていたら可愛い子で驚きました。確か同じ養成所に通っているんですよね?」
玲「そうです。翼的には私だと気を使わなくて済むから選んだみたいです」
「信頼されているんですね」
確かこの女ってスチルでは顔見えなかったけど、確か翼ルートで嫌がらせしてくるキャラクターだったよな。
子役時代から翼のガチ恋勢でストーカー気質。
今は他にも人がいるから何もしてこないけど、おそらく1人になったら仕掛けてくるな。
「普段の氷室君ってどんな感じなんですか?」
玲「あのままですよ。基本的にはクールです」
「そうなんですね」
とりあえず情報収集している感じだな。
うる覚えだが撮影終了後に帰る途中で突き落とされるはず。
だけどこの一件で翼が俺の事を好きになるから、痛いおもいをするが耐えないといけない。
頭の中で翼ルートの内容を思い出していると、俺の準備が終わったらしくドレスに着替える。
純白のドレスは俺がミスコンで着たドレスは比べ物にならないほど豪勢だった。
さすがCMの撮影なだけあって金がかかってる。
付けているネックレスとイヤリングも本物のダイヤモンドを使っており、総額いくらかかっているのか考えたくない。
これ弁償とかシャレにならないぞ。
まぁいっかどうせ俺には関係無い。
「月見里さん入りまーす」
玲「月見里玲華です。宜しくお願いします」
俺が結婚式場内に入るとすでに翼がいた。
ブライダル衣装を着ている翼はカッコいい。
そういえばこのスチル絵評判高かったよな。
翼「意外と似合ってるな」
玲「意外は余計だよ。ほら可愛いでしょ?」
翼「なんでそんなに自慢げに言うんだよ」
玲「謙遜しても意味ないからね」
翼「その方が月見里っぽくて安心するけどな」
玲「でしょ!むしろ顔しか褒められたことがないから武器にしていかないとね!」
翼「それは言ってる自分が悲しいだろ」
玲「事実だから仕方ない。それに顔に自信ないとアイドル目指せないでしょ」
翼「確かにそうだな」
玲「それにしてもこの服めちゃくちゃ高そうだよね」
翼「海外で有名なデザイナーが作った1点ものだからな。ちなみに布について光ってるのも全部ダイヤモンドって聞いた」
玲「えっ!?この服怖っ」
翼「その服はCM終わったら展示される予定だから汚すなよ」
玲「イエッサー」
翼「何そのイエッサーって。ほら撮影準備出来たみたいだから行くぞ」
翼は笑いながら歩きやすいようにと手を差し伸べてくれた。
手を取りバージンロードをゆっくりと歩いていく。
今回のCMはナレーションが入る為台詞はほとんどない。
しかも俺に限っては台詞がゼロだ。
「本番5秒前・4・3・2・1」
翼と向き合い手を握りながら俺に話しかける。
笑わないようにしなくては。
翼「俺はキミをこの先ずっと愛し続ける」
「はーいカット」
「翼くんと玲華ちゃんさ、キスとか大丈夫?最後キスした方が締め的にいいんだけど」
翼「フリではなくて普通にキスする感じですか?」
「そうそう。大丈夫かな?」
玲「それはちょっ」
翼「大丈夫ですよ」
玲「えっ!?」
翼「別にキスぐらいいいだろう。減るものでもないし」
玲「いや色々確実に減る!」
瑛士が怖いんだよ!こっちは!!!
翼「アイドルになったら将来的にドラマとかでもキスするだろし。今するか後でするかの違いだろ」
玲「確かにそうだけども」
翼「なら大丈夫だよな」
玲「うっ…はい」
翼に言い負かさられた俺は大人しくキスシーンを撮る羽目になった。
撮影の関係で何回もキスをさせられた俺のHPは確実にレッドになっているだろう。
とにかくこのCMは瑛士の目に入らないように対策を考えなくてはいけない。
てかそもそも元のゲームだとキスシーンなんてなかったよなと思いつつも、次のビジュアル撮影の為に海が綺麗に見える崖へ向かう事になった。