小さな家族
飼ってたフェレットが死んだ。
大きく痙攣して、初めて聞くような大きな泣き声を上げていたらしい。
それを聞いた時、そこにいなくて良かったと、少し思ってしまった。
その子は兄が買って来たフェレットで、生まれて初めて飼うことになったペットの内の1匹だった。
2匹のフェレットは白と黒。正反対の子たちだった。
白い子は大人しめの子で細く、黒い子は活発で太い。黒い方はよく背中を自分で噛んで傷つけてしまう子で、二人の子たちが寝ていたハンモックや、よく昼寝してた兄の布団には血がついていた。
フェレットの毛でアレルギーの症状が出てしまう私はあまり触らないようにしていたが、情に絆され、毎日ちょっかいをかけるようになった。私は大人しめの白い子がお気に入りで、よく抱っこしたり撫でたり構い倒していたものだけど、かれこれ5年も過ごした頃には両方同じくらい好きになっていた。
本気ではなかっただろうけど、よく噛むし、歳をとるにつれトイレでフンをしなくなるし、ケージを噛んでガシャガシャ鳴らすし、食い物にはうるさいし、ワクチンも毎年行かなきゃならないし、手間のかかる子たち(苦労してたのは兄だったが)だった。
生き物を飼うということは、その手間を受け入れるということだと知った。
出会ってから7、8年も経てば死がちらつきはじめた。
寝てる時間は多くなるし、反応も鈍くなる。
最近は目もあまり見えていなかったらしく、おもちゃでも遊ばなくなっていた。昔は足音を聞くだけでケージのドアの前で張り付いて出迎えていたのに、最近はこちらが起こさないとずっと眠ったままだった。
「もう歳だからね。でも、歳の割には元気な方だな。」
と笑いながら話していた。
死は、実感できていなかった。
買い始めてから10年経ったある日。仕事から帰ってくると、兄と黒い子はいなかった。
母が兄はフェレットが痙攣していたから病院に連れて行ったのだと言っていた。
想像もしていなかった。いつか死ぬだろうとは思っていたが、それは眠りから覚めなくなるというイメージだったから。
大きな泣き声を上げながら痙攣していたという。
ケージの前に行くと、白い子だけがハンモックで寝ていた。
ケージを開け頭を撫でた。
お前はどう思っているの?一人になってしまうかもしれないんだよ?そうは思っても伝わってはいないだろう。
白い子は気持ちよさそうに目を細めていた。少し瞳が濡れていた気がした。
黒い子が死んで、白い子だけが残った。
家にいた、小さな家族が天に登った。
10年間一緒にいた子だった。買い始めた頃はフェレットの寿命は7年ほどだと聞いていたので、とても長生きだったのだと思う。
あの小さな生き物は、どんなふうに感じていたのだろう。
家族と思っているのは私の一方的な感情で、あの子はただのご飯をくれる大きな生き物としか思ってなかったかもしれない。
むしろ、そんなことすら感じていなかったかもしれない。
黒い子は最後痛かったのだろうか。痛みがなかったらいいなと思う。
うちに来てくれてありがとう。少なくとも、私はあなたが大好きだった。可愛くて仕方なくて、本当に死んでしまうなんて、考えてもいなかった。最後に一緒に入れなくてごめんね。一人で寝っ転がっていると色々感情が溢れてきて、涙は遅れて出てきた。